剣より持ち主の方が有名な剣
『アーサー王伝説』においては、騎士ランスロットが所有していたと言われる剣、それがアロンダイトです。
原本である『アーサー王伝説』において、ランスロットは騎士としてならばアーサー王以上に人気が高く、物語上においてもかなり重要な人物でした。
しかしながら、アロンダイトの名前が最初に登場したのは、実際にはアーサー王伝説そのものではなく、中英詩『ハンプトンのビーヴェス』の中でのことでした。
この詩では、主人公であるビーヴェスの子息、ガイがこの剣を手に入れたとされており、ランスロットが以前に竜を退治した時に使用したとも伝えられています。
そして『ハンプトンのビーヴェス』は、アーサー王物語群に含まれるものではありません。
当作品はアーサー王物語が現在の形になり始めた11世紀よりも後、14世紀に書かれた異本なのです。
また、アーサー王物語群の『ランスロ=聖杯サイクル』の『ランスロ本伝』では、ランスロットはアーサー王が所有していた剣セクエンスを手にしています。
これらの事実から、アロンダイトという剣自体は後の世に作られた、所謂『後付け設定』であると見なすべきでしょう。
劇中では『これを凌ぐ剣は知られず、という由緒の品』という一族から伝わる名品として語られるものの、具体的にどのような力を持っていたのかということは語られていません。
ここで重要なのは、ただ単に『ランスロットが所有していた素晴らしい剣』というブランドイメージであると言えます。
しかしながら、現代の物語であるFateシリーズなどの創作物では、ランスロットがこのアロンダイトを使用しています。
ブランドイメージから生み出されたアロンダイトは、現代になると逆に彼の武器として定着していったこともまた事実でしょう。
アロンダイトの特徴と伝承
そのため、今回はランスロットが主に使っていた剣として設定をまとめる。
アロンダイトの出自は様々です。
アーサー王が幼少のころに使っていた練習剣。
ランスロットを育てたとされる湖の貴婦人が渡したエクスカリバーの姉妹剣。
アーサー王が選定の時に抜いたカルブリヌス(カリバーン)。
柄頭にはカーバンクル(赤い宝石)がはめ込まれおり、ファイアー・ドレイク(火の竜)を退治した時に使用されたとされる。
具体的な性能は不明だが、練習とはいえエクスカリバーと打ち合っても折れなかったという話から、頑強さが特徴として扱われることが多いです。
また、ランスロットと同じく円卓の騎士ガウェインとの決戦において、午前中は力が三倍になるガウェインの攻撃に対して守りに徹して、正午を回ってから逆転勝利している。
ガウェインも重傷を負ってこそいるものの、ガウェインの猛攻を凌ぎ切った事実も、アロンダイトの頑強さを示す事実の一つに含めていいのではないかと思う。
ランスロットはアーサー王物語群の中において、この剣で戦友ガウェインの弟たちを切り殺してしまったことから魔剣に堕ちたとされている。
他にも、アロンダイトはシャルルマーニュ伝説に登場するオートクレールと同一視されている。
中世後期以降のイタリア語の英雄伝説にも、ハンプトンのビーヴィスが湖の騎士ランスロットの剣を受け継いだという伝承が書かれている。
しかもこれは英国を離れ、シャルルマーニュ伝説(カロリング物語群)の一環の作品に含まれている。
その剣をさらにシャルル臣下のオリヴィエが受け継ぐという展開になっている。
旧持ち主のときの剣名も書かれるが、オリヴィエの手に渡り、オートクレールと名が新たに付けられている。
ちなみにオリヴィエはビーヴィスの末裔という設定もあり、時代を超え、名前を変えて引き継がれていった聖剣ともいえる。