天使から授かった聖剣

デュランダルという名で呼ばれるこの剣は、フランク王国の王シャルルマーニュ(またはカール大帝とも呼ばれています)が、天使から授けられました。

このデュランダル形状は両刃の片手剣で、あらゆるものを切り裂き刃こぼれ一つしなかったと言われています。

また、柄の部分は黄金で覆われており、その中には非キリスト教の聖遺物とされる、聖ペテロの歯、聖バジールの血、聖ドニ人の遺髪、そして聖母マリアの布などが収められていました。
なお、この時代は剣に聖遺物で詰め物をするのは現実にも行われており、聖遺物が特殊な力を与えているから強いとは断言できません。

とはいえ、現代のファンタジーの世界では、剣の柄に聖遺物が入っているという設定はそう頻繁には見られません。
剣自体が特殊な力を持っているより、聖遺物を入れる方がインパクトのある設定になると思われます。

シャルルマーニュ王は、この貴重な剣デュランダルを、信頼の厚い十二臣将のリーダー格であるローランに贈りました。

聖剣を手にしたローランは、フランク王国とシャルルマーニュの名の下に、力を振り絞って戦い続けました。
そんな彼が死を迎えるまでの戦いを謳ったのが、11世紀に作られた叙事詩、『ローランの歌』です。

ローランの歌

ヨーロッパを統一しようという大いなる野望を持つシャルルマーニュ王は、彼の治世の時代、スペインを統治していたイスラム教徒との戦争に身を投じました。
そしてローラン達の奮闘により戦局は、シャルルマーニュ王にとって有利な方向に進展しました。

そんなある時、敵対していたイスラム教徒であるサラセンから和平をもちかける申し出が伝えられます。
シャルルマーニュ王はこの和平交渉を受け入れることを決断します。
しかし、サラセンへ和平の調印の使者を送るにあたって誰を選ぶべきか、という問題がありました。

ここでローランは、自分の義父であるガヌロンを使者に推薦することにします。
しかし、その提案を聞いたガヌロンは不審に思い、疑念を抱くようになります。

それでも彼は結局使者としてサラセンへ向かい和平交渉を進めますが、その一方でサラセンの武将とつながりを持ち、ローランに報復しようという陰謀を立てるのです。

企みはガヌロンの望む通りに運び、シャルルマーニュ軍が撤退し始めました。
その中で、退却の最後を務める後衛には、ローラン率いる部隊が配置されます。
ガヌロンの策謀通りに、サラセン軍は約10万の軍勢でローラン達に襲い掛かるのです。

ローランはデュランダルを手に、そのサラセン兵に立ち向かいました。
彼の圧倒的な力により、数多の宝石が飾られた金色の兜ろ全身鎖かたびらで守られた騎馬兵を、馬もろとも一振りで斬り倒しています。

しかしながら、大差の兵力をひっくり返すには至りませんでした。
深手を負ったローランは、自分の最後が近いことを感じ取ります。

そして、キリスト教にとって象徴的たるデュランダルが、己の死後に異教徒の手に渡すわけにはいかないと考えます。
その前に破壊すべきだと考え、その剣を大岩に叩きつけました。
しかしながら、そのデュランダルは微塵にも傷つくことなく、逆に大岩を真っ二つに裂いてしまったのです。

シャルルマーニュ軍が引き返しサラセン軍を一掃した時には、ローランを含めた十二臣将はすでにこの世を去っていました。
しかし彼の遺志は天に届き、最後までデュランダルは敵の手に渡らず、シャルマーニュの元へと渡りました。

ローランの勇敢な行いは、天使ガブリエル達に称賛され、彼の魂は天国へと導かれました。

たとえ本人が望んでも壊せないぐらい頑強な武器。
使用者はある意味で正しく天に召されたというのは、聖剣の伝説としても物語としても、面白味のある設定として扱えるのではないでしょうか。

デュランダルの由来と起源

デュランダルという名前の由来は諸説あります。
durはフランス語で『硬い』や『持続する』といった意味があります。

そのため、『durant + dail』と分解して『硬い大鎌もしくはシミター(刃が歪曲した刀)』となるのです。
デュランダルの頑強さとマッチしているので、日本ではこれを意訳して『不滅の剣』とするケースが多いですね。

他にも『dur + end’art”』として『強き炎』と訳すケース。
他にも他国語で『切れ味を削ぐ刃』や『眩き光で目をくらます剣』、『石を制す者』などの仮説があります。

またローラン以前でもデュランダルは登場しています。
『狂えるオルランド』では『イーリアス』に登場するトロイアの英雄ヘクトールが使っていた槍ドゥリンダナと同一であるとされています。
(ドゥリンダナはデュランダルのイタリア語読み)

槍とされるのは、ヘクト-ルが剣の柄を差し替えて槍に仕立て、それを投擲する戦法を得意としたためです。

デュランダルと言えば〇〇?

日本のゲームやアニメにおいて、デュランダルの名を冠するものはかなり多いです。
戦記絶唱シンフォギアや魔法少女リリカルなのは、テイルズ、ガンダム、マクロス、ワンピースと枚挙にいとまがありません。
仮面ライダーデュランダルまでいるぐらいです。

デュランダルという名前の響きの格好良さはまずあるでしょう。
そして逸話は天使が関わる聖剣であるものの、特性が物凄く硬くてよく切れるぐらいしかなくて、独自の味付けがしやすいのかもしれません。

実際、デュランダルと名の付いたものを並べてみても、設定はかなりバラついており統一感がありません。
例えば、リリカルなのはだと形状は剣ではなく杖で、これはヘクトールの槍が由来になっている可能性が高いです。

出典:魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A’s、DVD付属特典パンフレット
キングレコード ©NANOHA The MOVIE 2nd A’s PROJECT

遊戯王カードの『焔聖剣デュランダル』は『強き炎』の訳に由来するとも考えられます。

そしてデュランダルという名前を聞いて反応するのはオタクだけではありません。
神話やファンタジーに一切興味のない競馬ファンにまで及びます。

その聖剣を由来とした競走馬は、その名が示すような鋭い奔走で、2003年と2004年の2年連続で最優秀短距離馬という称号を手に入れています。

引退レースでの勝利は逃しましたが、その姿は大勢のファンを心から魅了させました。
日本では、デュランダルでググると聖剣を差し置いて一位に躍り出ることがあるほどの知名度です

馬主達は、神話や伝説などの物語から名前を引用する者が少なからず存在します。

例えば、日本神話からインスピレーションを受けたタケミカズチ、北欧神話から採ったネオスレイプニル。
さらにはギリシャ神話のラミア、ミネルバ、ヘルメスなどから名前を借りている馬がいるのです。

なお、本サイトでも解説している騎士ランスロットが手にした愛剣アロンダイトも、競走馬の名前に採用されていいます。
双方の輝いた時代が少し異なっていれば、デュランダルとアロンダイト、この2頭が走りの鋭さを競う光景を観戦できたかもしれませんね。

あるいは、いつか美少女となって颯爽と走り抜ける日が来るかも……。