世界で最も有名な伝説の聖剣
エクスカリバーという名前を一度も聞いたこのない日本人はほとんどいないでしょう。
おそらく地球上で最も認知度の高い聖剣です。
この名前は多様なジャンル、例えばゲームやアニメなどで見かけます。エクスカリバーを題材にした邦画も無数にあるぐらいです。
特に、剣や武器のアイテム名で『○○カリバー』と名付けられることは珍しくありません。
これらの原点を辿れば、大抵はエクスカリバーに辿り着くこととなります。
エクスカリバーは、王権を象徴する存在としも語られます。
その持ち主であるアーサーとの出会いの逸話は、偉大なる王の誕生を予見させるような劇的な展開で有名です。
アーサーという人物は、ウーサー・ペンドラゴンという名のブリテンの王の子息として誕生しました。
しかし、生まれてすぐ王の側近にして魔術師のマーリンに託され、自分が王族の血を引く者であることを知らずに育てられました。
彼が15歳になったころ、教会にある祭壇の上に『選定の剣』という剣が置かれました。
この選定の剣は、大きな岩に刺さっていて、この剣を岩から引き抜くことができた者が、ブリテンの王になることができるという伝説がありました。
その結果、多くの勇敢な騎士が岩から剣を抜こうと試みましたが、その剣は岩からまったく動くことはありませんでした。
そんな時、アーサーが現れて、まるで当然のことのように岩から剣を抜き取ったのです。
これにより、アーサーはブリテンの王位継承者となったのです。
なお、選定の剣の名前は、カルブリヌスという名で呼ばれることがあります。
(よくカリバーンとも呼ばれます)
アーサーは、自身が結んだ誓約に従い、円卓の騎士たちとともに祖国ブリテンを守るために戦い続けました。
とある時、アーサーはペリノワール王との激しい戦闘の中で、カルブリヌスを壊してしまいました。
しかし、マーリンの指示により彼は湖に剣の破片を投げ入れました。
すると、そこから『湖の乙女』と称される美しい精霊が現れます。
彼女はマーリンの弟子、湖の貴婦人であり、アーサーにエクスカリバーを与えたとされています。
エクスカリバーという名前は、EXカリバーンという形で綴りがなされていることから、『カルブリヌスから再び造られたもの』という含意があると解釈できます。
そして、このエクスカリバーにまつわる伝説には、いくつものバリエーションが存在します。
例えば、アーサー王が剣を引き抜いた時点でそれがエクスカリバーだったとする説がある一方で、この剣は実際にはマーリンがアーサー王に直接手渡したとされる説も存在します。
さらに、アーサー王が騎士道に反する行為をしてカリバーンは砕けてしまったけれど、それを再度鍛え直してエクスカリバーとなった、という説も存在します。
エクスカリバーの力と形状
エクスカリバーは、異界の聖地とされるアヴァロンの住民によって鍛え上げられ、妖精による特別な加護を与えられました。
その刀身はまばゆく輝き、どんな物体でも引き裂くことができるほどの力を持っています。
多くの創作作品ではエクスカリバーはロングソード、とりわけ剣身の細い両刃直剣、いわゆるナイトソードとして描かれることが多いです。
史実上ではカリバーンという名で呼ばれる刀剣は、片刃のファルシオンやサクスといった種類の剣に近い性質を持っていたとされています。
そのため、エクスカリバーが実際はこれらの片刃の肉厚剣に近いものだったのではないかと考える人もいます。
世界規模で有名な剣ですが、その明確な形状は意外にも定まっていないのが現状です。
両刃剣の形状は、創作における一般的な剣のイメージと見栄えを考慮して描かれ、それが広まった結果とも言えるでしょう。
さらにエクスカリバーの特異性は、剣だけでなく鞘にもあります。
この鞘には美しい宝石が飾られており、柄部分には炎を吹き出すように見える2匹の蛇が彫られています。
そして、何よりも特筆すべきは、その鞘は持ち主の傷を癒し、その持ち主を不死身にする能力があることです。
最高に鋭い切れ味を誇る剣と、不死にする力を持つ鞘を手にした者は、無敵の存在となるのです。
しかしながら、伝説によるとこのエクスカリバーの鞘は何者かに盗まれてしまい、行方不明となりました。
またエクスカリバー本体も、持ち主が騎士道を犯した結果、剣自体が砕けたとする逸話も存在します。
(折れたのがカリバーンではなくエクスカリバーである場合の説)
選ばれた者しか扱えず、また選ばれし者にそぐわない行動をしても力を失うのは、創作における設定でも非常に利便性が高いでしょう。
ドラゴンクエストの天空の剣でも、類似の設定が『真の勇者は誰か』という形で活かされてします。
湖水に消えた聖剣と王の最期
アーサーとその円卓の騎士たちは様々な試練を乗り越えてきました。
そしてアーサー自身はその英勇な行動により国家を救う英雄王となります。
しかし、円卓の騎士の一人であるランスロットとアーサーの妻グィネヴィアが不倫関係にあることが明らかになり、円卓の騎士たちはアーサー派とランスロット派に分かれて争うことになりました。
そしてモードレッドとの最後の戦いで、アーサーは自らの死を悟ります。
そして自分の忠実な従者ベティヴィアに対して、エクスカリバーを元々の湖に戻すように指示を出しました。
しかし、ベティヴィアは湖に剣を投げ入れることができませんでした。
彼はアーサーに対して「剣を湖に投げ入れました」と嘘をつくも、瞬時に嘘を見破られてしまいます。
それを二度目繰り返して、三回目でついに剣を湖に投げ入れることができました。
すると、湖から手が出てきてエクスカリバーをしっかりと受け取ったという話が伝えられています。
エクスカリバーの鞘に関しては、その最終的な行方が特に記されていないため、もしかすると未だにどこかに存在している可能性があります。
Fateシリーズではこの設定を利用し、エクスカリバーの鞘を触媒としてアーサー王をサーヴァントとして召喚するエピソードを描いています。
また、アーサー王の最後に関するもう一つの説があります。
彼はモードレッドとの戦いで亡くなったわけではなく、実は重傷を治すために聖地アヴァロンへと旅立ったという伝説です。
その説のため、イギリスのグラストンベリー大修道院にアーサー王の墓がある一方で、伝説の再来として王の帰還を待ち望む者たちも存在しているのです。
エクスカリバーは本当に存在したのか
アーサー王の人生そのものは、今なお十分に解明されていない部分が多いです。
(元になった人物は存在したとされている)
もし彼が実在したのであれば、その生涯はおおよそ5世紀から6世紀の間とされています。
しかしその生涯を描いた物語は、それから何世紀も後の11世紀頃になってから今の形に落ち着きました。
エクスカリバーという剣について書かれた記述も、その頃から見られるようになります。
同じ頃、イタリアのトスカーナ地方にも、岩に突き立てられた一本の剣がありました。
それはガルガーノという騎士が天使ミカエルの啓示に従って突き立てたものだとされています。
逸話についてはともかく、この刺さった剣は今でも見ることができます。
この剣こそがエクスカリバーの原型ではないかとう説があります。
ここで興味深い点は、岩に突き立てられた剣がビジュアル的に十字架に似ているということです。
アーサー王が眠るとされる場所アヴァロンもまた、イギリスで最初に建てられた教会の地であり、またキリストが訪れたとされる土地と伝えられています。
アーサー王の伝説はケルトの伝承が深く影響を与えています。
それがキリスト教の象徴へと昇華させた要素が、このエクスカリバーであるかもしれないと推測できます。