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そこは広大な遺跡の上に建てられた一つの街だった。
ヴェルニスと名付けられたその土地は、城、湾口、貴族街、市場――様々な要素を擁する一つの都市だ。
その地図を確認すると、一部を木々で覆い隠された地帯もある。街の中に大樹を中心とした小さな森が、そのまま内包されているのだ。
森の内部は複雑に入り組んでおり、人が入り込めば一つの迷宮として機能してしまう。
或いは魔法による人為的な操作によって、そう作用するよう作り変えられたのかもしれない。
木々の中にざわめきが生じる。風が枝葉を揺らすよりも明確で、生物の息遣いと動きが作る空間。
一組の男女が異形の怪物と相対する戦いの騒動だ。
「せいやぁ!」
裂帛の気合を入れて叫ぶのは褐色肌の少女だった。
幼さの強く残る顔立ちで、青みがかった黒髪をポニーテールに結い、日に焼けた肌を大きめのオーバーオールで包んでいる。
少女は簡素な造りの剣を巧みに操り、目前の敵を斬りつけていた。
相対するのは亜人を示す緑の肌と、少女とあまり変わらない体躯。ゴブリンと称されるモンスターだ。
ゴブリンの振り回す木製の棍棒を、少女が革製の盾で受け止め、反撃の一撃を見舞う。
基本に忠実な攻撃と防御を交互に繰り返す、丁寧な動きだった。
「ウギギ!」
何度目かの斬撃で、苦悶に顔をしかめたゴブリンはよろめく。
勝機と見た少女は防御ではなく連続した攻撃の意志を剣に込める。すると身体はその通りに動いた。
袈裟に斬りつけ、返す手で横一閃。
「はっ!」
「ギギャアー!」
吐く息と共に舞い、中空で回転しながら縦に割る。
刃は頭から股を抜けて、両断されたゴブリンは黒霧と化してそのまま飛散していった。
「ふう。よし、順調順調!」
一匹のモンスターを屠った少女は、剣を鞘に収めて手の甲で額を拭った。
「焔ー!」
己の名を呼ばれた少女は、声の主へ視線を向けた。
相手は焔よりも年は幾つか上だが、黒髪の上に中割れ帽子を被り、白のシャツと赤のタイ。その上に黒のベストを重ね、腕を通さずにジャケットを羽織る。昔の探偵ドラマを意識したコーディネートだ。
「拓真にぃ、そっちも終わった? って!」
「草食系幼女拾ったよ!」
彼が連れてきたのは、草を食べるというより草そのものだった。
しなりのいい草を髪に見立てて、果実がブローチのアクセント。土色の体は下半身に向かう程に、体は触手のような茎の絡まりになっている。
十は間違いなく届いていない幼子のような愛らしい少女風ではあったが、
「バカロリコン! それアルラウネだよ!」
少年は「ああん?」と不機嫌そうな態度を取ると、傍らのアルラウネに視線を合わせてしゃがみ込んだ。
「一寸の幼女には当社比千割の魂! 差別すんなよ!」
「むしろそっちが大多数の生物を否定してるでしょ」
「俺はこれからアルたんと光合成して生きていく! それがこの子の幸せなんだよ」
意味が分からん。
勝手にモンスターの名付け親となったロリコンはアルラウネへ優しく微笑みかける。
「君もそう思うようね、アルたん!」
「びゃあああああああああ!」
「あべし!」
アルラウネの叫びは、耳から脳まで響く衝撃波となってロリコンを吹き飛ばした。
「フられたねプークスクス!」
さっさと倒してしまおうと思うがロリコンはすぐに立ち上がり、再びアルラウネの元へ駆け寄る。
「待って! この子は今、初めての愛情を受けて戸惑っているだけなの!」
ロリコンは足元の花を一輪摘み取ってアルラウネの前に差し出す。
「結婚を前提に妹になってください!」
「やあああああああああぁぁぁ?」
「たわば!」
秒で拒絶されゼロ距離衝撃波を食らったロリコンは地面を転がった。秒で起き上がる。
「わかってるこれ照れてるやつだから! 倒した後で仲間になりたそうに見つめてくるんでしょ?」
「それ違う作品」
「いくぞ、愛の力でもって悪しき心を断……やっぱりお兄ちゃんには無理! この子を傷付けるなんて!」
「ぶぇあああああああああ!」
「うわらば!」
ダッシュして止まり即衝撃波で吹き飛ばされて、ロリコンが地面を転がった。
「もういいかな?」
「まだま……だ?」
アルラウネはその場で種を蒔くと、すぐさま発芽してより小さな数匹の幼体が誕生した。
「あーもうバカやってるうちに増えちゃったじゃん!」
「妹! 否、むしろ幼女の娘! ロリのロリ……LOLYYYYYY?」
プルプルしてるロリコンの狂気が目に見えて加速していく。先にこっちを倒すべきじゃないだろうか。
「大丈夫、俺も男だ。責任はとる。我が娘達よ! さあハーレムの時間だひでぶ!」
本体と幼体合わせた四重奏の衝撃を受けて、馬鹿が三回転半しながら地面に転がり、
「ナイス、異種族コミュニケーション……!」
倒れたままサムズアップを決めると、そのまま力尽きたようにバタリと地面に突っ伏した。
「……満足した馬鹿にぃ?」
「一通り」
その後、アルラウネはロリコンに甘引きしている焔によって、正攻法で地道に倒された。
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