俺と修一は全力全開でもって、鏡の指差す方を凝視した。
 そこには水着すら着ていないお侍さんが、前屈みになり両腕で局部を隠しながら球太郎を赤面した顔で睨んでいたのだ。……ここってヌーディストビーチだっけ?

「あら残念ね、あんた達。後数秒早ければ、予想外のあまりに隠すことも出来ずに硬直してるスーパーバディな女性の裸体を拝めたのに」

 S.H.I.T!
 こんな桃色イベントがあるなんて聞いてないぞ! リテイクを要求する!

「何があったか説明するからひとまず隠れるわよ。あれが球体の能力なら、多分また見れるわ」

 逃げるか、戦うかを討論していた少年二人は、迅速にストリッ……少女達の激闘を観戦できる場所に身を隠した。ちなみに場所は売店の中だ。
 さらっと鏡がコップにジュースを注ぎ二人にサーブしてきた。戦闘と痴漢に続いて火事場ドロとは、オープンして早々ついてないなここ。うわ、ドリンクの味は本当に微妙だ。

『ふむ、結論としては球太郎(きゅーたろう)にはエロ装備があるということだな』
『球太郎って、あのロボットかよ』

 ちょっと上手いこと言ってるようなそうでもないような、微妙なセンスで修一がロボを命名した。

『頭に毛が三本ないわよ』
『名前がないと呼びにくいだろ』

 まぁあれの名前にこだわりはないので別に構わんが。

 隠れながら鏡に念話で聞いた話によると、球太郎は自分から一番近かったはやてちゃんを狙い、口から何か凄いビーム砲を放った。その攻撃は、とっさに主を守ろうと飛び出したシグナムさんに直撃。

 シグナムさんは初めこそ苦しんでいたようだが、そこは歴戦の勇士ですぐに体勢を立て直してみせた。しかしその時には既に水着は消え去っており、すっぽんぽんになってたそうだ。
 これはリアルタイムのお話だが、シグナムさんは戦う事なく撤退した。どうやらただ剥かれただけじゃないらしい。

『紙通りリンカーコアを奪うように、魔力を吸い取ったか?』
『それなら、疑似生命は消滅するはずだろ。でも輪廻さんのことだからさ、あいつらがいること位計算済みだろうし、そこら辺は調節したって所じゃねぇか?』

 俺の推論に修一が補足を加えた。大まかな筋は俺もその説が一番自然で可能性は高いと思う。
 完全にエロゲー目的の機能だが、あの人ならその場のノリや気分だけで実装してしまう。そういう共通認識があるのだ。

『真実は輪廻さんに直接聞くしかないわよ? あ、惜しい。もう少しで二人目だったのに』

 今やプールは乙女達の純潔を賭けた戦場と化していた。
 球太郎の攻撃をギリギリで回避して、はやてちゃんが十本を超える血の色の短剣、ブラッディダガーを放つ。

 白がメインで金と黒の装飾の騎士甲冑で、黒い翼も相まってお洒落でちょっとエレガントな魔法少女だ。まあ彼女が手がけた甲冑はどれも、甲冑というイメージが薄いのだけど。

 はやてちゃんの射撃魔法になのはちゃんも合わせて、デバィンシューターを放ち、赤と桜色の弾幕が球太郎に襲いかかる。
 球太郎も口からビームを吐いて応戦するが、二人の攻撃は次々と直撃していく。

『なのは選手とはやて選手の弾が次々とヒット! 早くも試合は終わってしまうのか!?』

 観てるだけなのも芸が無いので、実況してみることにした。素人全開な分だけ、さらに野次馬度アップである。

『いやいや、わかりませんよ。なんせあの輪廻さんが作成した機動兵器ですから。まだまだ何隠してる可能性が高いでしょう』

 解説役の修一が球太郎の危険性を考察する。これで終わると思うくらいなら、わざわざ実況なんて始めてないしね。

『はやて選手となのは選手のツープラトンを受けた球太郎! だがしかし! 何事も無かったかのように反撃を続けています!』
『予想通りの頑丈さ。何らかの防御能力が働いてる可能性が高いですね』

 相手は機械だし、後方支援に長けたシャマルさんならあれが無人機だと判断するのは難しくないはずだ。なら彼女達の攻撃は殺傷設定のはず。
 それでもノーダメージということは、馬鹿みたいに頑丈な装甲か、魔力を分解しているかのどちらかと考えるのが妥当だろう。

「十分経過。目標健在。攻撃レベルヲアップシマス」

 どうやら球太郎には音声機能も搭載されているらしい。変なところで手が込んでいるというか、あえて敵に教える必要がどこにあるのだろう?

『おおぉっと、球太郎の手の部分から大砲が生えてきました! さらに胴体の下からも巨大な砲台が登場だぁ!』

 球体の手に出現した砲門は指を連想させる。指はまだしも下から生えてきた砲台は、どこに隠してたんだよ。

『球太郎の攻撃第二弾が始まりました! 選手達はこれに耐えきることができるのでしょうか!?』
『堅牢な護りに、直撃すれば終わりの砲撃が十二門。これはいくら彼女達でも厳しいですね』
『先程までとは比べ物にならない数の魔力の砲弾が、選手達を襲っています!』

 下部の砲台こそ起動していないが、弾数は一気に十倍以上になった。この弾幕なら、さっきのなのはちゃん達による連携攻撃も、半分以上は撃ち落とせたに違いない。
 現状で避け切れているのは、高速が売りであるソニックフォームのフェイトちゃんだけ。他の四人はシールドで直撃を避けつつ、反撃や援護のスタンスをとっている。

『魔弾の嵐を抜けたフェイト選手とヴィータ選手が直接攻撃を仕掛けたぁ!』

 二人はヒットアンドウェイを繰り返す、デバイスによる打撃戦を挑んだ。

 真紅のBJに身を包んだ鉄槌の騎士ヴィータ。接近戦を得意とする古代ベルカ式魔法の使い手であり、幼い体躯とは不釣合なハンマー型のアームドデバイス、グラーフアイゼンでのパワーファイトを最も得意としている。

 ヴィータちゃんはデバイスに搭載されている圧縮した魔力が込められたカートリッジを使用し、グラーフアイゼンの後部からジェット噴射を起こす。瞬間的に増幅された力に逆らわず自身を軸に回転して突撃し、ハンマーを全力で球太郎に叩きつけた。

 魔力付与攻撃ではあるが、魔力ダメージを省いても遠心力と硬度で直接打撃としても強力な一撃だろう。しかし結果は、装甲が凹む程度で球太郎の巨大は揺るぎもしない。
 フェイトちゃんもヒット・アンド・アウェイで同様に鋼鉄の斧による直接攻撃をしかけてはいるが、何度繰り返してもやはりダメージとしては低い。

『うむぅ。威力はともかくダメージは有るということは、球太郎は魔力を分解している可能性が高いですね』

 おいおい、これまで色んな戦いに乱入させられたが、そんな機動兵器は一度だって見てないぞ。どんなオーバーテクノロジーだよ、球太郎。

 球太郎をぶん殴りまくっていたヴィータちゃんが一度下がった。同時にそれぞれ離れていたメンバーが、フェイトちゃんを除き一堂に集結する。

『なのは選手が魔力のチャージを始めました! これは“アレ”を使用するつもりでしょうか!?』

 フェイトちゃんが球太郎をできるだけ引き付け、他のメンバーは弾幕からなのはちゃんを防衛している。

『中途半端な射撃魔法や接近戦が駄目なら、全力の砲撃で勝負に出ると言ったところですね。ただし、これが効かないと後が無い。イチかバチかの賭けです』

 高町なのはが使用しようとしているのは、状況ならば彼女達の切り札と呼ぶべき砲撃魔法スターライトブレイカーであろう。

 大気中の魔力をかき集めて収束し、一気に放出する凶悪なる大砲撃魔法だ。それだけでなく、現在所持しているカーットリッジまで全てロードし叩き込むつもりらしい。理論は単純で破壊力もオーバーSランクだが、実行するとなると半端じゃなく高い技術を要求される。

 一応彼女自身の魔力は回収し易い様に加工が施されているが、それでもそこいらの二流の砲撃魔導師ごときでは真似できる技術じゃない。

 加えて、なのはちゃんの所有する最大の一撃だけあり彼女自身にかかる負担も相当なもので、一度使用すると反動でしばらく戦闘は行えなくなる。ここで戦力が一人抜けるとなると、それだけで全体にかかる負担は大きい。
 しかもそれだけのリスクを負った一撃すらも、球太郎の能力によって無効化されるかもしれないのだから、これは修一の言う通りの“賭け”だ。

 幸いに、今大気中には球太郎が現在進行形で魔力をばらまいてるのでチャージする魔力には困らない。なのはちゃんに恐ろしいレベルの魔力が収集されていく……しかし。

『なんと、球太郎の方にも巨大な魔力が集中し始めたぁ!』
『なのは選手の高い魔力値に対しての防衛機能と見るべきでしょうね。わざわざこんな行動に出るということは、彼女の放つ一撃が有効であることの証明です。これはどちらが先にチャージを完了させるかが勝負の分かれ目ですよ!』

 球太郎の攻撃は、魔力が集中しているなのはちゃんと、囮として直接攻撃可能な近距離にいるフェイトちゃんへ集中している。
 なのはちゃんへ殺到する魔弾は、はやてちゃんのブラッディダガーとヴィータちゃんの鉄球の弾幕シュワルベフリーゲンで相殺されており、いくつか相打ちから逃れた弾もシャマルさんのシールドによってなのはちゃんに届くことはない。

『なのはにはあたしが指一本触れさせねぇ! なのはは、あたしの夫になるんだ!』
『なのははわたしが絶対に護る。わたしはなのはの……お嫁さんだから!』

 ジュースを全種類飲み終えた男の娘が、私も仲間に入れろとアフレコ係に入った。テキトーなはずなのに、妙にしっくりくるのは何故だろう?

『さぁ、先にチャージを終えたのはなのは選手! 果たしてこの一撃で球太郎を墜とすことが出来るのでしょうか!?』
『くらえ! 愛と怒りと悲しみのスターライトブレイカアァァ!』

 なのはちゃんはレイジングハートを球太郎に向ける形で構え、環状の魔法陣がいくつも産み出される。そして、レイジングハートから悪魔的な魔力の塊が放たれた。
 つうか、怒りはともかく、愛と悲しみの感情はどこで生まれたよアフレコ係!

 星の光は、他の弾幕など軽くかき消して、これまでの豆鉄砲とは格が違うぞと言わんばかりに球太郎を襲う。

『ラケーテンハンマーにも揺がなかった巨躯が、なのは選手の砲撃で押されています!』
『どうやらなのは選手の魔力が、あの魔法耐性を上回ったようですね』

 球太郎は彼女達が張った結界の端まで吹き飛ばされてようやく停止した。大破こそ免れたが、全身から煙が上がり直接スターライトブレイカーの照射を受けた表面は、熱による溶解が起きケロイド状になっている。
 砲撃の余波で球太郎の周りも色々と破損している。色々と表現したのはあまりの壊滅っぷりに、あたりの物体が何がなんだか分からなくなっているからだ。ここのテーマパークは、本日で営業終了間違い無しだろう。

『球太郎倒れない!  ギリギリの所で踏みとどまっています!』
『みんな、後一息や!』
『うん!』
『こんまま突っ切って完全にぶっ壊してやる』

 はやてちゃんが四人に向かって声をかけ、皆もそれぞれ力強く頷く。
 一気に形成が逆転され、彼女達に希望の火が点った――その時だった。球太郎の砲台に集中していた魔力が、収束魔法として放銃されたのだ。

『今度はこちらの番だと言わんばかりに球太郎の砲撃が開始されました!』
『ちょ、おま! 私まだ台詞でボケてないわ! 勝手に撃たないでよ!』

 今アフレコ係から何か聞こえたか? きっと気のせいだな。

 なのはちゃん達は球太郎の射軸から緊急退避したため、球太郎の砲撃は誰にも当たることなく直進して、そのまま結界にぶつかり消失していく。
 魔力強奪するために非殺傷設定なので派手な破壊は起きていないし、ディバインバスターレベルでもないにせよ、人間では運用が難しい出力の砲撃だと言うことは分かる。

 しかし、いくら強くても当たらなくては意味が無い。
 どうやらこのまま球太郎のターンは終了か? と思った矢先、突如球太郎の砲撃幅が広がった。