戦姫絶唱シンフォギア × 仮面ライダーオーズ クロスオーバーSS(二次創作小説)

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 地味なグレーのジャケットで広めのポケットに両手を突っ込み、やや前傾気味の姿勢で立花響は公園にある異様な光景を眺めていた。
 そこは彼女がよく来ているスポットの一つ。
 行動範囲が広くない彼女にとっては、半ば固定化された散歩コースといっていい。

 この公園も、何が目的でやってきているわけではない。
 単に行き場がないだけだ。

 だから、いつものように、いつものコースを歩いていただけ。
 そこから見える公園の一角に見覚えのないシートがかけられ、辺りが封鎖されていた。
 最近ノイズの影響で戦闘に巻き込まれた地域ではない。

「…………どうでもいい」

 わたしには関係ないと切り捨てて、彼女は少しだけ散歩のコースを修正した。
 特別なことが起これば、そこには人が集まりやすくなる。
 そうせざるを得ない状況ではない限り、他者との関わりを持ちたくない響は、意識的にそういう場所を避けていた。

 封鎖区域から視線を外して、瑞々しく茂る公園の草花を眺める。
 心地いい風が草花を撫でるように吹き抜けた。
 ふと、揺れる緑の中で違和感に気付く。
 何とはなしに歩み寄ると、一つだけ風が吹いても動かないものがあった。

「何これ、オモチャ?」

 バッタのような形状だが、明らかな人工物が草むらの中に紛れ込んでいた。
 もっと近付いてみると、ピョコンピョコンとバッタのオモチャが跳ねる。
 妙に愛嬌のある形と動きで思わず足を止めてしまう。

 近所の子供が草に紛れて見つけられなくなったか、忘れていったのだろうか。
 響はどうすべきかと考える。

 誰かの忘れものだろうと、わたしには関係ない。
 もしかしたら困っているかもしれないし、ずっと探しているかも。
 でも、そんなのは自業自得だ。

 けど、よく見たらこのバッタ、全然可愛くない。むしろ目障りに思えてきた。
 明日もここにあったら、また気になってしまう。それは迷惑だし、その辺に捨ててもこれだとまた跳び出してくるかもしれない。
 仕方ないから近くの交番にでも届けてしまおう。
 そう決めて、さらに近寄るとしゃがみ込んでバッタに手を伸ばすと、特に跳ねることもなく掴み上げられた。

 改めてじっと見る。うん、可愛くない。可愛くなんてないから。
 最近見るようになった夢の中の自分が喜んでバッタより激しくとび跳ねる妄想が浮かんだけど、絶対気のせいだ……早く持っていこう。

「見つけた、響ちゃん!」

 背後からかけられた声に反応して、立ち上がり振り返る。
 昨日ノイズとの戦場にいた異国風の服を着た男が、こちらへ駆け寄ってきていた。

 無視して避けようとしてもすぐ追いつかれそうなので、諦めてその場に留まる。
 用件だけ聞いてさっさと去ってしまう方が早そうだ。

「何……?」

 目の前で足を止めた男にそっけなく問いかける。

「昨日は助けてくれてありがとう!」

 突如かけられたお礼の言葉に、響は怪訝な表情を映司へ向けた。

「…………それだけ?」

「ちゃんと挨拶できなかったから。そのバッタ缶にも手伝ってもらって探してたんだ」

「これが?」

 自己主張するように手のバッタが小さく跳ねた。

「カンドロイドって言ってね。色々サポートしてくれて、すごく便利なんだ」

 二課が開発して新たに使いだしたのだろうか?
 それにしては妙なデザインなのが気になった。

「面白いでしょ、それ」

「ただ何となく拾っただけ。別に、可愛くなんてないし」

 つい、さっきの感想が口をついて出た。
 映司は何かを勘違いしたようににこやかな笑みだ。

「お近付きの印にそれあげるよ。まだしばらくは動いてると思うから」

「いらない」

 押し付けて返そうとしたが、先に映司が開いた手を前に突き出すように止めた。

「いいからいいから。改めて、俺は火野映司。それと今はいないけど、昨日一緒にいたのがアンク。あの通り腕とか性格とか色々変わったヤツだけど、仲良くしてやってくれるかな」

「そんなの、する必要もない」

「これから一緒に戦う仲間でしょ? ならお互いのことは知っておかなきゃ」

 何だ、この男も二課と同じく自分を懐柔しようとしてるだけじゃないか。
 ならば今までと同じように拒否すればいい。

「仲間じゃない」

 そう、仲間じゃない。仲間なんていない。いらない。

「わたしは好きにするだけ」

 誰も信じられないから、これまで一人でやってきた。これからも同じだ。

「でも、響ちゃんはまたノイズと戦うんだろう?」

「だから?」

「だから仲間だよ」

 この男、人の話をちゃんと聞いてるのだろうか?

「一緒にノイズを倒して皆を守る。俺達は仲間だよ」

 大事なことだと強調するように二度言った。
 一緒というのは、ただ戦う相手が同じなだけ。
 翼にだって一人で勝手に暴れて戦場を引っ掻き回すなと過去に注意されているが、それもずっと無視してきた。

「……もういい」

「あ、待って!」

 話に付き合えば馬鹿を見るのはこっちだ。
 映司が掛けてくる声を無視して響はその場から去る。
 公園を出て振り返ると、どうやら追っては来なかったらしく彼の姿はない。

「あっ……」

 そこでようやく、結局バッタを手にしたまま別れてしまったことに気付いた。
 どうしよう。やっぱり捨ててしまおうか。
 でも、まだ動いているみたいだ。

「………………」

 少し迷って、響はバッタをポケットに突っ込んで歩き出す。
 むしゃくしゃする。こんな時は鍛練でもしよう。

 トレーニングの場所はいつも決まっていて、とにかく我流で鍛錬を重ねている。
 体を動かすのは嫌いじゃない。そうしている間は、余計なことを考えなくて済む。
 今日のことも忘れてしまうまで鍛えればいい。
 そうして進行方向を変えるも、中程まで進んだあたりで、警報が鳴り響いて出し彼女の足は止まった。

「ノイズ……!」

 丁度いい。このイライラは全部ノイズにぶつけてやる。

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 走りながらシンフォギアを起動して跳び上がった。
 衣服は全てギアに変換されているが、バッタ缶は響の肩に止まっている。

「邪魔はしないで」

 伝わっているのかは不明だがそう伝えて、現場へと急ぐ。
 警報が聞こえるくらいだったので距離は近かった。辿り着いてみるとまだ翼や映司の姿は見えない。

 落下地点を、最も近い位置にいるノイズに定め飛び跳ねる。
 着地と同時に逃げ遅れた市民に迫るノイズの頭を殴り潰した。

「あ、ありが……」

 助けた男の言葉を無視して、また近い位置にいるノイズを殴り炭化させる。
 歌いながら手当たり次第叩き潰す。

 数はそれなりにいるが昨夜程ではないし、この前出くわした黒くて強力なノイズもいない。
 これなら楽勝だ。二課が到着する前に全て倒してやる。

 彼女の力と速度に付いていこれるノイズは一匹もいなかった。
 そうだ、これでいい。
 一人で戦える。仲間なんて必要ない。
 自分に言い聞かせるように、ノイズ達を蹴散らしながら敵陣深くへと入り込んでいく。

 その最中、横合いから伸びる触手が迫った。

「っち!」

 咄嗟に回避して視線を向けると、巨体のタコ型ノイズが二体。横並びになっていた。

「邪魔!」

 多対一で縛られ動きを阻害されるのは敗北に直結しかねない。
 優先的に排除するため一気に距離を詰め拳を叩き込む。
 しかし他のノイズが割って入り盾代わりになって消滅した。タコ型は無傷のままだ。

「いつもと違う……!?」

 タコ型の二匹は後ろに下がりながら、二匹同時に大量の触手を伸ばす。
 滅多に見られない複数のノイズ同士による連携。
 予想外の行動に一瞬、響の反応が遅れた。

「しまっ!」

 振り払い切れず全身を触手に絡め取られ、そのまま引きずられる。
 その先にあったのは川だ。
 力が入れにくい態勢で、そのまま水の中へと引きずりこまれた。

「がぽっ……ううっ」

 シンフォギアなら水の中でも常人以上の能力を発揮できる。
 しかしそれは動けるというだけで、水中での激しい戦闘を考慮して設計されているわけではない。
 今は二匹がかりで身動きを封じられて、呼吸すらままならない状態だった。

 川の水深は響の身長を有に越えている。
 焦って藻掻いても締め付けは緩まず、このままだと窒息してしまう。
 いつの間にか肩のバッタはいなくなっていた。

 ――なんとか足で触手を割いて!

 水の浮力を利用して触手を蹴り上げようとすると、これまで対して動きが見られなかったノイズが、新たな触手を伸ばして響の腹部を鋭く打った。

「ごぽっ」

 思わず体内の酸素が泡となって強制的に排出された。
 肉体と同時に精神面も追い詰められてく。

 ――息が……早く、なんとかしないと……!

 一人故の苦難。水の中で孤独と時間との戦いだった。


無意識に理由付けて落とし物を交番に届けようとするグレビッキーの図。

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仮面ライダー感想・考察ブログも書いています。
小説と同じくらい力を入れていますので、よければ読んでください!

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