優しい
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――起きてよたっ君、もう朝食の準備はできてるし、そろそろ起きないと学校遅刻するよ!
――もう、たっ君また襟が立ってるよ。ちょっと動かないでね……。よしこれで良いよ。
――野菜を残しちゃだめだからね、たっ君。
――ほら、たっ君の歯ブラシに歯磨き粉付けておいたからね。
今日も隣に住んでる男の子、たっ君は中々起きてくれません。起きてもブラウスのボタンは掛け違えてるし、ほっぺにご飯粒ついてるしで、見ていて見事なまでの駄目っぷりです。
ようやくたっ君に朝ご飯を食べさせて支度して、二人一緒にマンションを出ました。
大きな欠伸をしているたっ君の隣で、私は腕時計を確認します。よし、この時間なら今日は二人で走らなくても大丈夫だね。二人でのんびり歩いて登校です。
やたらと二人を強調するのは、いわゆる一つのそういう意味。もっとも、鈍感なお隣さんはまるで気付いてはくれませんが。
でも、それで良いのかもしれません。だって、
――近くの廃ビルにカラスのお化けが出たんだって。
――喫茶翠屋にね、新しいケーキが増えたんだよ。放課後一緒に寄ってこうよー。
――そうだ、冷蔵の残りの食材少ないからそろそろ買い物しないと駄目だよ?
――むぅ、だからお母さんて言うなー!
ああ、楽しいな。
たっ君のお世話をするのも、こうやってお喋りしながら一緒へ学校に行くのも、学校帰りに二人で寄り道するのも、全部楽しい。
大切な友達と二人だけの時間。
こんな楽しい毎日が、いつまでもいつまでも続けばいいのに。