ほら、言わんこっちゃない。予想はしてたが、最終形態のお出ましだ。
「おいおいおいおい、良い加減にしろよな」
新たに体から十を超える砲門、両肩にも巨大な二門が生えた。どれだけ大砲装備すれば気が済むんだよ。
そして肩の一門がこちらを向いた。まさか、
「拓馬さん!」
「この距離でかよ」
射出されたのはディバインバスター級の砲撃だった。
フェイトちゃんは低空飛行で、俺は無駄に血を使うつもりはないので射線外へ跳び回避する。フェイトちゃんの魔力を探知しての一撃なのか?
「やれやれ。逃げ場無しか」
さっきまでは完全な安全エリアだった距離への砲撃魔法……。
他の攻撃は近くのメンバーを狙っていることから推測するに、こっちへ届くのはあれだけなのだろう。ならばまだ絶体絶命というレベルではない。
「また強化されるなんて、でも!」
「ちょっと待った」
手を掴みつつ、球太郎に向かおうとするフェイトちゃんを止めた。一応話を聞いてくれる雰囲気だが、驚きと少しばかりの焦りが混ざっている。
「早くしないと他の皆が……」
「落ち着いて。闇雲に向かってもすっぽんぽんにされるだけだよ」
「私はそれで済みますけど、あの刀を持った魔導師さんは、攻撃を受けると大怪我じゃすまないかもしれません」
ホントはギター持ってる奴もなんだけどね。むしろ剥かれた姿は見たくないから粉微塵になって、ついでに亜空間にでもばら撒かれてくれとありがたい。
まぁここは無駄な会話を避けるため、鏡の性別についての言及は避けておく。
「それを何とかするための策を練るためにも一度下がったんだけどね。ところでフェイトちゃん、君はなのはちゃんの後に大型魔法を使うつもりだった?」
「どうしてそれを」
やはり今の砲撃はフェイトちゃんに潜在する魔力への反応で間違いない。そして修一の実況はしっかりとハズれていた。
それでも今までの防戦を鑑みると、あの時シャマルさんがやられなくても、もう一度チャージして一撃加えられたかどうかは怪しいところだ。
大型魔法について聞いたのは、単純に攻撃と防衛を繰り返していたはやてちゃん、ヴィータちゃんの残り魔力と比べて、フェイトちゃんの魔力にはまだ余裕があるから。
囮になって攻撃を避けていたこともあるだろうが、二人に比べ余力を残しているのは観戦していて推測できていた。
これに理由があるとすれば、あえて使っていないか、使う予定があったけど使えなかったかのどちらかだろう。
なにせフェイトちゃんは魔法を雷に変換できる。俺の血液からの魔力再変換とも原理が違うし、分解はされない可能性の方が高い。
シグナムさんが早々に退場してるとなると、物質変換は数少ない球太郎に有効な攻撃手段だ。ならばこの状況であえて使わないよりも、使い損ねたと考えた方が自然だろう。
だからフェイトちゃんに確認をとったわけだけど……オーケー、これでピースは揃った。
「よし、なら破壊できる」
「え? 拓馬さん今何て……」
「これからやっつけるんだよ、あの丸いのを」
ちゃんと聞こえてたはずだが、あえて聞き返すとは余程の衝撃発言だったらしい。なら、これからもっと驚く羽目になるだろう。
『皆聞いくれ。これからあいつを完全に破壊するプランを説明する』
念話を使い、この場に居る全員に言葉をかける。
フェイトちゃん同様、驚いたアースラチーム全員が俺達に注目した。
そりゃそうだ。今や途中乱入の修一と鏡以外はかなりの魔力を消費し、完全に防戦一方となっている。
唯一例外のフェイトちゃんにもさっきの一撃でダメージがあるし、いくらスピード自慢でもこの弾幕を近距離で避けきるなんて不可能だ。
つまり、後十分経過すれば勝手に停止することを知らない彼女達だけでは、もはや打つ手は無しだ。
「そんなことが、可能なんですか?」
「どいつもこいつも、あいつの滅茶苦茶なスペックに目がいって気付いてないだけださ。あいつの持つ、とても大きな欠点に」
「欠点? どんどん強くなってやがるあいつにそんなのあるのか?」
ヴィータちゃんの言いたいことはわかる。
しかし、強くなるということは弱点がなくなることとイコールではない。
「いいかい?」
と前置きして、俺は念話を全員に発信し続けたまま説明していく。
球太郎の弱点。それを発見するために重要な鍵は、あいつのアルゴリズムだ。
まずは球太郎の攻撃対象の選択方法。こいつはかなり単純で分かりやすい。大きな魔力を持ち、自分との距離が近い人間を狙っている。現にフェイトちゃんは、この原理を利用し自ら球太郎の気を引いていた。
魔力と距離の比率までは分からないが、この二つで確定していい。
次に魔力の判定基準。これは各個人が魔法を使用するために潜在している魔力と、実際に使用する魔力が関係する。
前者は戦闘を一時中断し、後ろに下がっていたフェイトちゃんが狙われたこと。後者は俺が前線に居た時に狙われたことの二つ。
俺自身に魔法の才能は皆無である以上、狙われる要素はスウィンダラーで生み出した魔力しかない。
加えて、もう一つ重要な要素がある。
俺とフェイトちゃんが二人で前線に居た時に、球太郎はあえて殺傷設定で攻撃してきた。これは攻撃対象は俺だったってことだ。
フェイトちゃんの潜在魔力も攻撃対象だったはずなのに、俺のバリアジャケット精製時の魔力に反応した。フェイトちゃんにも反応していたかもしれないが、攻撃のほとんどが俺の楯を物理的に破壊していた。
そもそもバリアジェケッと精製に使った魔力は大した量じゃない。それでも狙いが俺だったのなら、攻撃が優先されるのは潜在魔力より使用魔力という証明になるだろう。
それならばなのはちゃんのスターライトブレイカーの時にもそれは顕著に顕れていた。彼女の魔力チャージに対応して、わざわざ球太郎が特殊な行動に出ている。
これは先に説明した使用魔力と潜在魔力とは逆の結果ではあるが、スターライトブレイカーは使用した魔力量が桁違いだった。つまり球太郎は自分への危険度が上がれば上がる程、それを優先して攻撃するという行動パターンが見てとれる。
そして、そこに球太郎の落とし穴があるのだ。
さて、これは球太郎から非難している間に、ここまであれこれ考えた結果だ。
ただ敵前逃亡していたわけじゃないし、前線でドンパチしてた鏡ら二人がそんな怠慢許すはずもない。
本当はタイムリミットなど知らない振りして、全員で一定まで離れながら戦うのが一番効率的には良いし安全だろう。
しかし、それでは戦闘終了後が問題だ。そりゃもちろん逃げる気満々だが、どうせ捜索されるに決まってる。
俺にとっての勝利は球太郎の破壊ではない。倒した後で彼女達の追求を振り切り、平穏に戻ることこそが真の勝利だ。それなら“一緒に戦った”よりも、“一緒に倒した”の方が彼女達に与える印象が良いのは明白である。
故に、あいつの欠点を発見し攻略法を練っていたのだ。
とは言え、この猛攻の中全て説明してる暇などあるわけないので、皆には球太郎の欠点と作戦だけを簡潔に伝えた。
そうして返ってきた返答は――却下だった。
『危険過ぎます! もっと何か方法があるはずです!』
真っ先に否定したのはフェイトちゃんだった。全員に聞こえるよう念話で会話しているが、直接的な距離が近いせいで、何て作戦を考えるんだと睨まれている。
『そうや、そんな無茶できるわけあらへんよ』
『いきなり現れてバカな作戦だしやがって! 何考えてやがる』
八神家さんからも、あまり暖かくない御意見御感想が届いた。
『そうです、何かもっと安全な方法を探すべきだと思います!』
最後組のなのはちゃん達から来た応答も力強い否だ。これで会話が可能なアースラチームから総反発を受けたことになる。ま、想定内だけどね。
『お前らはどうだ?』
残った二人である鏡と修一の意見を聞いてみた。こっちの答えも予想はついている。
『頭のネジが何本かぶっ飛んでるがお前はそれがデフォルトだし、理にはかなってるな。てっあっぶねぇ! やるなら早くやろうぜ!』
あー、グレイズしてやんの。ありゃもういつ墜ちてもおかしくないな。まー、根性で後数分は死なないだろ。
『と言うか、そもそも考え直してる時間があるとは思えないわよ? あんた達に代案があるってんなら別だけど』
鏡の方は高い魔力値と射撃魔法があるから、修一よりはマシな状況だ。それでも数と勢いを増した弾幕で。さっきみたく無駄な打撃戦を挑むような真似はできなくなってる。
こいつも前線で暴れ続けるのなら、とてもじゃないが時間切れまでには保ちそうもない。
今弾幕巫女ゲーのエスクトラクラスと化した段幕の大部分を処理してるのはあいつら二人だ。余力を考え、アースラチームは全員を半ば無理矢理下がらせているとはいえこれは不味い。
『それは……』
急速になのはちゃんの勢いが弱まった。攻撃をもらったとしても自分達は服で済むが、修一は命ごと持っていかれるかもしれない。その現実が効いているのだろう。
『だけどよ、これはそういう問題じゃねぇだろ』
ヴィータちゃんも同様だ。そりゃ判断に困るだろう話を、俺はしている。
はやてちゃんは全体を一度眺めつつも、迷って答えを出せない。
『失敗したら拓馬さんが死んでしまかもしれないんですよ!』
他に作戦がなければ修一が危険で、この作戦を実行すると俺が危ない。実際は鏡も危ないんだけど、あいつは今のままでも十分に危ないからな。
『ああそうさ、しくじればね』
『それならわたしが前に出て戦います』
あくまでもフェイトちゃんは俺に反対する。ほんの僅かとはいえ、一緒に戦闘だの尋問をやった人間の暴挙を認められないのだろう。
『だとしてもフェイトちゃんが墜ちれば、いずれは俺が狙われるのだから、遅いか早いかの違いさ。意味のない自己犠牲だね』
フェイトちゃん達は球太郎が時限式だと知らないから、本来なら吹っ切れる迷いが吹っ切れない。
修一と鏡は溢れ出る殺傷本能が逃げるよりも破壊を選び、口裏を合わせないでも残り時間の情報を与えずに戦闘し続ける。
『わたしには拓馬さんだって、自己犠牲してるようにしか聞こえません』
『それは違うよ。俺は俺が生き残るためにやるんだ』
甘いな。
俺が誰かのために戦うわけがないだろう。この戦略だって、俺自身が生き残るために立てているのだ。
この前の円との会話だってそうだ。
あいつが誰かに襲われて助けるとしても、結局それは自分のため。結果として親友を救うだけで、根源は“自分の平穏”を護るためだ。
だから俺は敵と戦う。
だから俺は策を練る。
だから俺は人を謀る。
だから俺は死なない。
だから俺は生き残る。
『俺は犠牲になる気なんてさらさらない。これは勝利するための作戦だ』
『拓馬さん……』
『フェイトちゃん、わたしらの負けや。拓馬さんは危険も何もかんも分かった上でやる気や、止められへんよ。それにこのまま話し合いを続けてたら、前で戦ってくれてる人達が危険や』
迎合はできないが、もう行くしかない。と、そういう声が上がってくる。
そして最後の一人が覚悟を決めた。
「わかりました。けど約束してください」
念話ではなく、正面切っての肉声でフェイトちゃんは俺に伝える。
「絶対、死なずに生き残るって」
「ああ、約束だ」
俺達は互いの目を見て頷きあう。これで俺の作戦を阻むものはなくなった。
『それじゃ、いくよ皆。フェイトちゃん!』
『はい!』
フェイトちゃんの瞳に炎が灯ったように見えて、彼女は勢いよく飛び上がった。
俺も両指と足で体重を支えるようにその場で屈む、クラウチングスタートの体勢だ。
『おい! 今回はお前を信じてやっけど、しくじったら絶対許さねぇからな!』
紅い幼女が叱咤激励してきた。これはリアルツンデレなのだろうか?
『安心しなよ。君の主は剥かれずにここから出れるさ』
『バカ野郎! それだけじゃねえよ!』
ちょっとおどけて見せただけなのにこの反応。この子も、言葉遣いは荒いけど根は良い子だなぁ。アースラチームは居るのはどうしてこうも頬擦りしたくなるロリっ娘達ばかりなんだだろう?
『任せろ。もうこれ以上犠牲は出させない』
『……ったく、わかってんじゃねぇかよ』
フェイトちゃんの周りに、幾つものリングに入った金色の魔力弾が生成される。どうやら準備完了のようだ。
「さあ、始めようか」
勝つために、生き残るために、俺は思いきり大地を蹴り飛ばし、球太郎に向かって走り出す。