戦姫絶唱シンフォギア × 仮面ライダーオーズ クロスオーバーSS(二次創作小説)

翳り裂くオーズ 第九話『夢と乱入と時空を越えた再会』

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 最近よく同じ夢を見る。
 目覚めると完全に覚えているわけではないけど、どんな夢だったかの輪郭は記憶に残っていた。

 もう一つの世界。
 もう一人のわたし

 わたしは毎日楽しそうだ。
 仲の良い親友がいつもそばにいる。
 手を伸ばせば、いつだって届く。
 陽だまりのように優しいぬくもり。

 それだけじゃない。
 困っていると何も言わなくても自然と誰かが助けてくれる。
 わたしのことを放っておけないと。
 友達の輪が簡単にできていて、皆が笑顔だ。

 わたしだから、皆が手を差し伸べてくれる。
 わたしじゃないから、皆が愛してくれる。
 バラバラになった、もう元には戻らないはずの家族ですら、そこにはいた。

 なんで、夢の中のわたしは幸せなの?
 なんで、わたしとは違うの?

 わたしは一人でいい。
 ううん、わたしは一人がいい。
 どうせいつか皆いなくなるなら、最初から誰もいなければ、苦しい気持ちなんてならずに済む。

 なのに、だから……。
 こんなもの見せないで。
 楽しかった気持ちを思い出させないで。

 昨日も夢を見た。
 けれど、いつものわたしの夢ではなかった。

 見たことのない風景。
 見たことのない人達。

 知らない場所、なんてレベルじゃない。
 肌の色も目の色も言葉も、食べ物も、売っているものも、感じるものもまるで違う。
 知らない国。別の文化。

 『彼』は旅人だった。
 色んな国を渡り歩いては様々な人々と交流する。
 困っている人を手伝って、色々な文化に触れて世界を学んでいた。

 けれど『彼』が旅にいく国は、いつも安全な場所ではなかった。
 むしろ日本に比べると文化の水準は低くて不便なことが多い。それどころか内戦や他国の侵略を受けて多くの怪我人や死人がでている国も珍しくなかった。

 そんなところへ好き好んで向かうのだから、旅先ではいつも日本人特有の黒い髪や肌の色を、奇異の目で見られ強く警戒される。
 邪魔者や厄介者扱いされることも少なくないし、好奇の視線だってあまり気持ちのいいものじゃない。

 けれど、『彼』にとってそんなことは慣れっこで、奇異の目はむしろ興味を持ってもらうことに利用した。優しさの中にも抜け目のなさが垣間見える。
 邪魔者扱いでもおかまいなしに関わっていく。
 いつだってニコニコと笑顔を振りまいて、皆が避けたがる雑用でも嫌な顔ひとつせずにこなす。
 それが皆の役に立つならと何だって一生懸命に。

 そうして、好奇の視線は信用を得る近道に変わり、平和な国からわざわざ首を突っ込みにきた偽善者と呼んでいた人が『彼』は良い奴だと噂している。
 邪魔者はいつの間にか異国の友人になっていた。
 まるで『彼』の笑顔が皆に移っていくようだ。

 ああそうだ。『彼』もの人間なんだ。
 わたしとは違う。

 どれだけ苦しくても、わたしの前に優しい手は現れない。
 ノイズという人を殺す怪物を倒しても、皆がわたしを避ける。
 わたしも怪物だから。
 怪物を殺せる怪物。

 何より、わたしの正体を知れば皆の恐怖は怒りに変わる。

 お前だけが生き残った。

 私の娘は死んだのに。

 人の金でのうのうと生きやがって。

 税金泥棒。

 なんでお前はまだ生きてるんだ。

 そんなの知らない。わたしは偶然生き残っただけ。
 皆に笑顔で囲われる『彼』の姿が、わたしは辛くて仕方なかった。

 ●

 ああまた、嫌な夢を見た。
 いつもとは違うけど、嫌な夢には違いない。
 一人の部屋で響は目覚めて、知らぬ間にこぼれ落ちていた涙を拭う。
 なんで泣いてるんだろう?
 考えても答えは出ない。もっと嫌な気分になるだけだ。

 学園に行く気にはなれなかったので、外を散歩することにした。普段からサボりがちなのであまり抵抗はない。
 着替えている時にバッタ缶が自己主張したので、肩に乗せてやる。
 そうして出かけてはみたけれど、歩いても気分は一向に晴れない。

 それに、前の戦闘で遭ったノイズのこともある。
 訓練しようといつもの場所へ向かうことにした。

 水中に引き込んできた敵も厄介だった。
 けれど、あれはそういう風に行動するノイズもいると警戒していれば、避けることはできるだろう。

 それ以上に警戒すべきノイズがいる。
 あれを倒すには、もっと強くなるしかない。
 もっと、もっともっともっと。

 全てのノイズを倒せるように。
 全ての雑音を消し去ってやる。

 けれど、そんなことをして何の意味があるのだろう?
 自分の人生をめちゃくちゃにされたことへの復讐――でも、ノイズをどれだけ倒したって、何も変わらない。

 壊れた日常は何をしたってもう元には戻らないことはわかっている。
 ああ、それなら、どうしてこの手を握るのかな。

 いつもの場所にやってくると、吊るされたサンドバックに一発拳を打ち込んだ。
 衝撃を受けて物言わぬそれはただ軋みながら揺れる。

 激しく動いたからか、肩に乗っていたバッタ缶が地面に下りた。
 なんだか、じっと見られているようで気になったため、なんとなく声をかけてみる。

「暇ならノイズでも探してきて」

 前に火野映司が、バッタ缶に自分を探させたと言っていたので、半ば冗談でそう伝えてみた。
 すると了解したと言わんばかりに一回その場で跳ねたバッタ缶は、そのまま何処かへ走り去っていく。

「………………まあ、いいか」

 しばらく一人で特訓を続ける。
 そういえば、あのバッタ缶は見つからなければずっと探し続けるのだろうか?
 そうだとすると、このまま見つからなければどこかで燃料切れになって倒れてしまうかもしれない。
 少し触ってみたけれど、バッテリーや電池入れのようなものはパッと見わかなくて、どうやって動いているのかも不明なのでいつ止まるかもわからない状態だった。

 気が付いたら時間は昼をとうに過ぎていて、お腹も減っている。
 食事のついでにバッタ缶を探しに行こうかな。
 なんて、ほんの少し心配になった矢先だった。

「戻ってきたんだ……」

 バッタ缶は無事に響の元へと帰ってきた。
 ほっとした。いや、別にしてない。
 心の中で無意識にそう唱える。
 バッタ缶を拾おうとしたら、やたらと激しく跳ね出した。

「もしかして、本当にノイズを見つけてきたの?」

 返答代わりにバッタ缶が勢いよく走り出したので、響も後を追うため駆け足になった。

 ●

「ちっ……こいつは不味いな」

 オーズはジリジリと追い詰められつつあった。
 映司はサゴーゾコンポでノイズの群れを蹴散らしているが、肩で息をしており疲労が色濃くでている。

 二課への連絡はアンクがいれたものの、アイドル活動をしていた翼は、到着まで後十分はかかると言われた。
 市民の避難活動は始まっているが、肝心のオーズがノイズに囲まれつつある。
 逃げ回ろうにも数が多く、ある程度敵を減らさなければすぐに捕まるだろう。命賭けの鬼ごっこをするには分が悪すぎる。

 ラトラーターコンポで高速戦闘しながらの離脱が理想だとわかってはいるものの、これ以上のコンポチェンジは確実に映司の体力が保たない。
 そうなると後はこのままサゴーゾで敵数を減らして、突破口が見えたところで足をチーターに変えて一気に戦線離脱すべきだとアンクは考えている。

 だが、ノイズの数は増える一方だった。ここまでの増加特性があるなど二課からも聞いていない。明らかな異常事態だ。
 短期決戦での殲滅戦略だからこそサゴーゾを選択したのたが、こうなると今度は機動力の無さがマイナスとして重く響いてくる。

「映司、上だ!」

 疲労によってオーズの攻撃も精彩を欠くようになっていた。
 他のノイズとぶつかり合い、一匹の飛行型ノイズが重力の嵐から弾き出された。
 そして回転しながらオーズへと迫る。

「っ! やああっ!」

 高速の体当たりに対してオーズが取った行動は回避ではなかった。
 逆に自分から一歩踏み込み、頭部から生えるサイメダルの角をぶつけたのだ。
 重力の嵐で脆くなっていたノイズは、その一撃で炭化した。

「ひやひやさせやがる……」

 人体のパーツからかけ離れている上に硬質化している角なら、ノイズの攻撃も無効化できてダメージを与えられる。
 動きが鈍く避けきれないと判断して咄嗟に取った行動だろう。

 しかしあんな際どい手に頼らざるを得ないのは、それだけ追い詰められている証左だ。
 あんな強引な危機回避はそう何度も続かない。

 ――こうなったらアレを使うか。
 
 アレは今のアンクが有する最後の切り札のようなものだ。リスクも高く、ごく短時間しか使えない。
 これでしくじれば確実に映司は死ぬ。
 だが、このままでは遅かれ早かれ同じ運命だ。
 なら……アンクが決断しようとした瞬間、背後から駆け抜けてくる足音と歌が聞こえた。

 そのままアンクを通り過ぎた影が、オーズに迫りつつあったノイズ達へと突っ込み瞬時に蹴散らしていく。
 巻き上がる炭を気にせず乱入者は次々と叩き潰す。

 現れたのは立花響。ガングニールを纏う孤高の装者。
 翼に比べるとアームドギアを持たず徒手空拳でノイズと戦う少女だ。
 けれど打撃と瞬発力が生み出す突破性能は、十分に兵器の役割を果たしている。

「遅いぞ!」

「うるさい」

 アンクの理不尽な悪態を一言でそっけなく返しながら、新たなノイズを殴り潰した。

「おい映司、急いでこっちに変えろ!」

 アンクは、この流れに勝機と危険性を見出した。
 既に激しく消耗している状態で、響の歌によるコンボの負担増加はそれだけで映司が倒れかねない。
 瞬時に選択して投げ渡したメダルをオーズはキャッチする。

「わかった!」

『サイ! ウナギ! チーター!』

 コンボを避けて負担の増大を抑えながら、ウナギウィップでまともに攻撃が通るようになったノイズ達を倒していく。
 鞭で間合いを取りながら、チーターの俊足で危険な攻撃は確実に避ける。
 そうして確実に敵数を減少させていく。

 それよりも速く、響はひたすらにノイズを打倒していく。
 英司の肉体疲労もあるが、それ以上に徒手空拳の縛りがあっても響のノイズに対する格闘能力がずば抜けているのだ。
 力任せなようで効率的に、囲まれても一人で対処できるように組み上げられた独特な戦術。
 ノイズを倒すために鍛え、ノイズを倒すことで磨いてきた技だった。

 響が参戦したことで、これまでの劣勢が覆されていく。
 そうして目に映る最後の一体を響の拳が一撃で打ち抜き倒した。
 これ以上の増援も現れる気配がない。

「やっと倒せたか……」

「ありがとう、響ちゃん」

「わたしはただノイズを倒しに来ただけ。別にあなたを助けたわけじゃない」

 全滅を確認すると急いで響の元へ駆けつけた映司に響はまたも突き放すように返す。
 それでめげるような彼ではない。

「それでも響ちゃんのおかげで助かったのはかわらないから」

「なら、お礼はこの子に言えば? ノイズを見つけたのはバッタだから」

「そうなんだ、君もありがとうね!」

 促されるとあっさり従いバッタ缶にもお礼を述べる。
 その姿もほとんど無視して、用は済んだと言わんばかりに響はその場を去ろうとした。
 しかし、直後にその判断は早計だったと思い知らされる。

 突如、響の視線が向いた先に黒く禍々しい霧のようなものが広がり出した。
 中から現れたのは新たなノイズ。タコ型をしており数はたった一体だけ。
 そして、もう一つ他のノイズと異なる部分は、体色がほとんど黒であるということだった。

 外見はこれまでのノイズと同じなのに、何故かその体から独特の気配と禍々しさすら感じられる。
 その姿形を確認すると、響とアンクが同じ言葉を同時に発した。

『あの時の、黒いノイズ……!』


今回はまさかの延長による長時間メンテの哀しみで書き上げられました。

モチベーションアップのために作品評価をお願いします!(切実)

 

仮面ライダー感想・考察ブログも書いています。
小説と同じくらい力を入れていますので、よければ読んでください!

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