戦姫絶唱シンフォギア × 仮面ライダーオーズ クロスオーバーSS(二次創作小説)

翳り裂くオーズ 第七話『アンクと王と眠る彼』

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 映司がシャウタコンボで水中のノイズを撃破して響を救出した後、映司を強制的に休ませたアンクは大型モニターの前にいた。
 モニターの向こう側にいるのは鴻上会長と秘書の里中だ。
 アンクの近くには映像調整を兼ねた監視員がいるものの、彼らは会話に口を挟まない約束となっている。

「映司君には秘密で、アンク君が私に話したいことがあるそうだね」

「そっちの映司はどうなっている」

「残念ながら相変わらずだよ」

 『そっち』の――つまりアンクがいた世界における映司について質問されると、いつもすこぶる高い鴻上のテンションが珍しく低く落ち着いたものになった。

「こちらの映司君は今も眠ったままだ」

「っち、やっぱりか」

「原因は明白だ……我々の世界に現れた、あの特殊なノイズ。風鳴司令にも報告はしたが、そちらではまだ出現報告がないそうだ」

 真木がグリードホルンを起動したことで溢れ出したノイズ達との戦闘中、それは現れた。
 他の個体とは比べ物にならない程、強力な力を有する黒いノイズが出現。

 オーズやバースはおろか、その場にいたグリード達にも攻撃を加えだした。
 普段は敵対しているグリード達と、一時的とはいえ共闘関係が生じたのもあの黒いノイズが原因だ。
 それでも圧倒的な戦力差は覆せず劣勢へと追いやられた。

 その時だ。
 いや、恐らく映司は狙っていたのだろう。
 窮地に陥ったことで、映司の体に入り込んでいた紫のメダルが排出され、プトティラコンボに再変身したのだ。

 恐竜グリードから生まれたプトティラコンボの強大な戦闘力はカルマノイズにも有効だった。
 ノイズの攻撃減衰効果すら紫の力は無効化して、確かなダメージを刻み込んでいた程だ。

 けれど、黒いノイズから溢れ出している黒い邪気のようなものに触れると、オーズは異常なまでに苦しみだした。
 やがてオーズは暴走を始め、それでも最後に放った一撃はノイズの群れとグリードホルンに直撃。
 軒並みノイズ達は消し飛ばされ、周囲にはけたたましい爆音と共に大炎上した。

 そこで力を使い果たしたように映司は人間の姿に戻り気を失った。
 起こそうとアンクは駆け寄ったが、怒鳴りつけても激しく揺すっても映司に起きる気配はない。

 そして気が付くとグリードホルンのあった位置は真っ黒な空間となっていた。
 あらゆる光を通さないせいで、まるで平面のようにも見える異質な何か。
 その闇を中心に発生した、大気を振動させるような衝撃波をアンクは浴びしまい、気が付くと見知らぬ町――今となってはシンフォギアの世界とでも言うべき地にいたのだ。

「だがアンク君が盾となりこちらの映司君が飛ばされることはなかった」

「ふん、別にあいつを庇ったわけじゃない」

 人によっては照れ隠しで悪態をついたようにも思える台詞だが、アンクの場合は本心だ。
 欲望の塊であるグリードのアンクは、自分が正体不明の危険に晒されるなら人間を見捨てるのに躊躇いなんてない。
 偶然漆黒空間に背を向けていたため、不意の衝撃波から逃げられなかっただけである。

「だが、あっさりと君が二課への協力を同意したのは、こちらの映司君を救う方法を探すためではないかね?」

 もし、前回の状況説明で向こう側の映司が意識を取り戻していたのなら、鴻上はその事実を伝えたはず。
 そして、恐らくアンクを心配した映司ならば無理を押してでもモニターの会話に割り込んできそうだ。これはあくまでアンクの想像でしかないが、火野映司とはそういう男だと半ば確信を得ている。

「メダルのためが七で、映司が三だ」

 いつぞやのセルメダルの分前交渉みたいな言葉で、アンクは自分の内訳を語った。

「会長が手配した特別スタッフにより常時体調管理と調査は行っています。それでも治療法は依然不明のままです」

「それに恐らく、紫のメダルによるグリード化も絶えず進行中だ。意識を失い何の抵抗力も持たない今の映司君では、どれくらい持つかはわからない」

「だろうな」

 切れ者のアンクなら、それぐらいは想像の範疇だった。
 映司は紫メダルの暴走を肉体の慣れだけでなく、精神力で抑え込んでいる節がある。
 その精神が長期間切れて眠ったままの状態が続けば、映司の肉体にどのような悪影響を及ぼすかはわかったものではない。

「おい、このことは絶対こっちの映司には教えるなよ」

 わざわざそのためにアンクは映司に隠れて一人で通信を行ったのだ。
 鴻上もそのつもりだから映司にぼかした伝え方をしたのだろう。
 この男も自分の欲望を叶えるためには手段を選ばないタイプだが、念を押しておいた。

「そちらの火野さんが同じ状態になる可能性を教えないようにするためですか?」

「はっ! あいつにそんなことをして何の意味がある」

 里中の質問をアンクは真っ向から否定した。
 そんなもの、教えても教えなくても結果は同じだ。
 が今更そんな程度のリスクで恐れをなすハズがない。
 これもまたアンクの想像であるが、同時に完全な確信もあった。

「あの馬鹿はそっちの映司を知れば絶対に助けようとまた無茶をしやがる。あいつに自分でない自分まで背負い込ませても状況が悪化するだけだ」

 もちろん、アンクが完全体になるためには残りのメダルは必須だ。
 しかし、そのためには映司の復活がコアメダルと同じくらい重要になる。

 敵対するグリード達や真木と戦うため、オーズは手元に置いておくべき最強の駒だ。

「まだ姿が見えなくとも、あの黒いノイズはシンフォギア側の世界から現れたはずだ。ならこっち側で、あいつの謎を解いてやる!」

 鴻上が、『それでこそアンク君だ!』とでも言いたげな笑みで満足気に頷いている。
 腹立たしい態度だが、そんなもの知ったことか。

 アンクにとってこの世界は呪いと同じだ。
 決して満たされぬ地獄のような欲望の世界。

 何を手に入れても実感がない。
 何に触れても感じない。
 何を食しても熱いか冷たいかくらいしかわからない。

 けれど欲しい。欲しい、欲しい、欲しい! 満たされたい!
 もう一度、夢に見た美しい翼で空を羽ばたき、己と同じくらい美しい景色が見たい!

 この呪いを解く方法は唯一つ。

 覚悟を決めたアンクは、自分の欲望を叶えるために我が身を削ることさえ厭わない。
 全てはアンクというグリードの欲望、コアメダルを揃えて完全復活を遂げるために。

 鳥類の王として、他の鳥達を従えどこまでも高く飛び回っていた、夢の景色をもう一度。そして――

 ●

「おいアンク! アンクってば!」

「っち、なんだうるさい!」

 映司との買い出し途中に、アンクは鴻上から聞いた状況を思い出して、これからどうするかの考えに没頭していた。
 ふと気が付くと、買い物の支払いを終えた映司が、そのことを手に持った袋でアピールしている。
 中身の派手な柄のパンツがちらりと見えて、アンクのイライラが少し加速した。

「そっちが返事しないからだろ」

「ふん、とっとと次にいくぞ。アイスだ!」

「はいはい……」

 買い出しで何より明日のパンツを優先する男と、やるべきことがあっても今日のアイスをキッチリ要求する怪人。どっちもどっちである。

「なあ、アンク」

 アイスクリーム屋に向けて足を進めだしてすぐ、映司が話題を変えて問いかける。

「なんでこの世界のノイズにオーズの力が効くんだろう?」

 シンフォギアとオーズはそれぞれ違った世界で生まれた別系統の力だ。
 二人がこの世界に来てから理解したことだが、たとえ半減であってもオーズの攻撃がノイズに通用するのは異常事態であるといっていい。

 『歌』という共通点はあるものの、別にオーズの歌は戦闘にそこまで重要な要素を有してはいない。
 なんせアンクが変身時、真っ先に気にするなと言ったぐらいである。

「それは恐らく、オーズとシンフォギアに何らかの共通点があるからだろ……って、おい、何だその驚いた顔は」

「ああいや、ごめんよ。聞いてはみたものの、多分いつもの『知るか』で返されると思ってたから」

「じゃあ最初から聞くな!」

「だからごめんって! でもさ、二つは別世界の力だろ? それがどうして」

「こっちの世界じゃ、オーズとメダルがまだ見つかっていないだけの可能性もあると鴻上が言ってただろうが。俺もそのケースはあり得ると思ってる」

 実際アンクはこれまで、オーズの意味不明な歌に関して気にも留めてなかった。
 だが、あるいはそこに何らかの意味があったのかもしれない。

 そもそも、八百年前の『王』は何故オーズの力をあれほど欲したのか。その理由が重要だ。

 鴻上が真木に作らせたバースにキャノン砲や武装を合体させコントールする機構があるように、メダルの力は様々な方向に応用が効く。
 バースが基本的に人型なのは、街で暴れるヤミーの多くが人型であり、周囲の被害を極力抑えるためでもある。

 けれど、オーズは違う。先にオーズが作られ、その後にグリードが生み出された。
 結果としてオーズというシステムは完成に至ったが、元の目的は強欲な王がより強い力を欲したことが発端である。

『私は、この世の全てを手に入れる! そして、新たな世界を誕生させる!』

 それはかつてアンクが『王』から直接聞いた言葉だ。
 オーズもグリードも、強大な力を手に入れるため作り出された兵器。そして他国への侵略と支配が目的だった。

 それならば、もっと巨大な武器や、大量生産が可能な兵器を生み出して兵士に使わせた方が効率的だ。
 オーズは強い。ガタキリバを使えばどこまでだって増えるし、シャウタならば艦隊すら壊滅できた。
 しかし、どこまで行ってもオーズの本体は一人だ。そして人のサイズである以上、自ずと限界は生じる。

 それでも『王』は自分が力を付けることをどこまでも拘った。
 『王』が成ろうとしていたものは神だ。
 否、その神すらも倒すに足る力を手に入れ、新世界を生み出そうとしていた。

 いや待て。神なろうとしたのはわかる。
 権力者が最後に行き着く欲望としてはむしろありがちだ。
 ただ、あの『王』は欲の深さがそれこそ底なしだったが。

 なら――『新たな世界の誕生』とは何を意味していた?

「じゃあさ、逆に俺やアンクの世界にも、まだ発見されてないだけでシンフォギアのような力があるかもしれないってこと?」

「かもな。フォニックゲインってのはノイズに対抗するため積極的に研究が進み発展してきた力らしい。ならノイズのいない世界じゃ発見や進化が遅れても不思議じゃない」

 あるいは、既に発見はされていて、極秘裏に研究されている可能性もあるだろう。
 鴻上ファウンデーションがメダルの研究をしていたように。

「ふーむ……ならノイズは?」

「ああもう鬱陶しい。知るか! 少しは自分で考えろ! それにアイス屋はどこだ!」

 考えながら話していた中で矢継ぎ早に質問を繰り返され、元々沸点の低いアンクはあっさりとキレた。
 怒らせて会話を強制的に打ち切られたのに、映司はどこか懐かしそうに微笑んでいる。

「アイス屋なら、この角を曲がれば友里さんオススメの店が見え……」

「おい、どうした? なに……!」

 映司が手にしていたメモ通り、アイス屋ならば確かにあった。
 屋台形式で、客がくればその場で注文を受けてアイスを盛り付け渡すタイプの店。
 本来は客が立つだろう場所には黒炭の山が出来ていた。

 他にも同じようなものがあちこちにある。そして――

「危ない!」

 まだ残っている女子高生の娘が、恐怖で驚きで固まり動けなくなっている。
 彼女に迫っているのはやはりノイズだった。
 とっさに駆け寄った映司は少女を押し倒すように庇う。
 そのスレスレを、オタマジャクシ型ノイズがその身をぶつけるよう通り過ぎていった。

「あのバカ、生身でも無茶しやがる!」

「早く逃げて!」

「は、はい……!」

 一度衝撃を受けて我に返った少女は脱兎のごとく逃げ出した。
 その背を見ると、映司はすぐにノイズの群れへと向き合う。

「クソ、またノイズか!」

「それも結構大量にね……」

 ノイズは突然現れて周囲の人を襲いだす。
 たまたま人のそこまで多くない場に出現して近くの人間に襲いかかったのなら、その一角だけ大量の炭が生み出されて、すぐ近くを歩く人間はその事実に気付かないこともある。
 今この場がそういう状況だ。

「馬鹿が! さっさと逃げるぞ! ここには調律者がいないんだ!」

「そうもいかないかな。すぐ近くにはまだたくさん人がいる。ノイズがさっきの子を追いかけたら、近くにいる人達にも襲いかかってすぐパニックになるだろ」

 恐怖や混乱は一度始まれば容易く伝播する。
 この通りに人が少ないだけで、ちょっと角を曲がれば急激に人が増える繁華街だ。
 ここで映司達が止めなければ、予想した通り最悪のシナリオが始まるだろう。

 それがわかっていて自分だけ助かろうとする映司ではない。
 そんなことはアンクも嫌というほどわかっている。

「だったらこれだ! いいか、絶対攻撃に当たるな!」

「このメダルは……なるほど、流石アンク!」

 自分が囮になるよう近くのノイズを誘導し続けざまの体当たりを避けながら、映司はアンクの投げたメダルをキャッチしてオーズドライバーを装着。メダルを装填してスキャンする。

「変身!」

『サイ! ゴリラ! ゾウ! サッゴーゾ……サッゴーゾ!!』

 パワーと頑丈さに特化している分鈍重なサゴーゾコンボは、一見大量のノイズを相手取るのには向かない。
 だが、二つの条件が揃うと、それはひっくり返る。

 一つ目は周囲に味方がいないこと。
 サゴーゾの特殊能力は、コンボの中でも比較的広範囲のものが多い。

 二つ目が特に重要だ。

「調律者の歌がないなら、コンボの負担は減るからなあ……!」

 歌による負荷増大がなければ、今の映司ならほとんどのメダルは使いたい放題だ。
 ただし負担は大きく軽減されるものの、本日は既に何度もコンボを繰り返している。
 長期戦をするにはスタミナ的にも危険だ。

「おおおおおあああああああああ!」

 己を誇示するかのように、オーズが高らかに吠えた。
 普通の人間なら気圧される勢いの叫びでも、人間のような意思を持たぬノイズ達は構わず押し寄せる。
 それがいかに危険な行為かを理解せずに。

 雄叫びは止まらず、豪腕の両腕を振り上げて力強く胸を連打し始めた。
 それはまさにゴリラがドラミングする行為に似ているが、効果は全く異なる。
 響き渡る重低音は地面を引き裂き、めくり上げる程の衝撃波を生み出した。

 重力を操る、サゴーゾの特殊技能。
 たとえ威力が半減されても、圧倒的な重力支配から逃れられない。
 空中に打ち上げられたノイズ達は飛び散った瓦礫ごと一箇所に固めて落とされる。

「まとめてぶっ潰せ!」

「うおおおおおお! はあっ!」

 一纏めにしたところへ両碗に取り付けられたガントレットが射出され、ノイズ達を一気に粉砕され大量の炭が撒き散らされた。
 撃ち出したガントレットはすぐに再装填される。
 全ては倒しきれなくても二撃、三撃。

 逃げようとしても再び重力の嵐が巻き起こり、絶え間ない連携に次々とノイズ達は撃破されていく。

 パワー型のサゴーゾならば少ない手数でノイズを撃破できるし、更には飛び道具まである。
 対ノイズ戦における理想的かつ安全な遠距離攻撃。

 人を守るためどうせ映司は無茶をする。そして一度決めたら絶対に逃げず戦う。
 こっちの映司だと少しは人を頼ることも覚えたらしいが、アンクからすると根っこのお人好しは全く変わらない。

 納得は絶対できないが、こうなる予想ができるなら対策も練っておくことはできる。
 こういう事態を予め想定していたアンクだからこそ、よどみなくメダル選択と受け渡しができた。

「今ので数はかなり減らしたはず……って、むしろ増えてる……!?」

「クソ、どうなってやがる!」

 ノイズは確実に倒している。それは間違いない。
 積み上がっていく炭の量からもそれは明らかだ。
 けれど、迫りくるノイズは減少することなく、じわりじわりとオーズへの距離を縮めつつあった。


シンフォギアXDでグリッドマンコラボ決定によりテンションアップなう。

モチベーションアップのために作品評価をお願いします!(切実)

 

仮面ライダー感想・考察ブログも書いています。
小説と同じくらい力を入れていますので、よければ読んでください!

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