戦姫絶唱シンフォギア × 仮面ライダーオーズ クロスオーバーSS(二次創作小説)

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 平行する二つの世界。
 最上魁星もがみかいせいの企みによって、世界が重なり崩壊しかけるという未曾有の大事件が発生するも、ビルドとエグゼイドを始めとした仮面ライダー達の戦いにより瀬戸際で食い止められた。

 しかし物語はそこで終わりではない。
 世界を救済した立役者の一人、火野映司は事件解決後も個別に捜査を続けていた。
 主犯である魁星こそ倒されはしたが、この事件を陰で後押ししていた財団Xという闇の組織は健在だ。

 彼らは過去にも世界の危機となる事件を何度も巻き起こしてきた。
 仮面ライダー達を幾度となく苦しめたショッカーと同様に、放っておくことのできない危険な秘密結社である。
 財団Xを崩壊させない限り、いずれまた世界は危機に陥るだろう。

 元々今回の事件に財団Xの関りを発見した一人が映司である。
 事件後も何か財団を更に追い詰める方法はないかと、足取りを追っていたのだ。

 そして多少の時間はかかったものの、ジャーナリストであるジェイクの力も借りて、その手がかりを掴んでいた。

 映司が発見し忍び込んだ場所は、表向きは既に破棄された人気のないビル。
 しかしそこには本来あるはずのない地下通路があり、財団X特有の白服を着た職員が出入りしていた。

「これは……」

 そうして真相究明のために忍び込んだ映司は、地下の奥深くにある一室へと辿り付いた。

 薄暗い部屋の中に、ぼうっと翠の光が浮かび上がり、その中心には見たことのない物体が鎮座している。
 巻き貝のような物体で、どことなく楽器のホルンを連想させた。
 しかしそれは海産物にも楽器にも到底見えない。
 明らかに人工物で銀の光沢を放っており、何より大きな特徴の一つとして映司がよく知る物が見て取れた。

「財団Xはまだメダルを隠し持っていたのか」

 巻き貝状に沿って、いくつものコアメダルがはめ込まれているのだ。
 そこには紫のメダルを除く五種が揃っている。
 恐らくは、映司が倒したグリード達と同じ複製メダルだろう。

「お待ちしておりましたよ、映司君」

「あなたは……」

 背後から届いた声に、映司は驚き振り返る。
 そこにいたのは黒のスーツに薄青色のシャツ、眼鏡の下から鋭い眼光を放つ科学者。
 黒ずくめの格好に無表情、そして人形を肩に乗せるという独特な出で立ちが、彼の持つ不穏な雰囲気に拍車をかけているように感じられた。
 彼の左腕には素っ気ない白衣で、髪のない不気味な人形が座っている。
 映司はこの男をよく知っていた。

「真木博士、生きていたんですか!」

 彼の名は真木清人。
 かつてこの世界を滅亡させかけたマッドサイエンティスト。
 しかし真木は映司達との決戦で敗北した。世界崩壊は食い止められて、彼はブラックホールに吸い込まれ消滅したはずだった。

「まあ、貴方の歴史だとそうなるのでしょう」

 それは映司へ向けられた言葉だが、彼が見ているのは自分の腕にある人形だけ。
 真木はまともに他人とのコミュニケーションが取れず、こうして人形を介さなければまともに会話もできない。
 しかし、あの人形も真木自身が以前に手放したはずの物である。

「あなたがこれを作ったんですか」

「いかにも」

 真木は謎の物体を指差す。映司も釣られてそれに視線を戻した。

「完全聖遺物ギャラルホルンの有する、平行世界への共振機能及び次元跳躍能力……それらを基に私が開発した平行世界跳躍マシン」

 映司には真木の解説が半分もわからない。
 しかしあるその中に混ざる単語が彼の心に深く突き刺さる。

「平行世界……跳躍……まさか!」

「そのまさかです。最上魁星の開発した『エニグマ』と同様、平行世界へ移動する機能を有しています」

「そんな!」

「事実です。私はこれをグリードホルンと名付けました」

 それはあまりに衝撃的で理不尽な事実だった。
 多くの仮面ライダーや協力者達と共に必死で阻み、ようやく破壊した平行世界移動装置が、他にもまだ存在していたなんて。
 しかも映司にとって最も因縁深い者達の名と力が利用されているのだ。

「最上魁星……彼の発明は見事という他ありません。しかしエニグマには幾つかの欠点もあった。一つはその起点がスカイウォールのある世界に依存すること」

 エニグマは元々スカイウォールの特質を利用して生み出した装置である。必然、繋ぐ世界の片方はスカイウォールのある世界でなければならない。

「グリードホルンはスカイウォールではなく、ギャラルホルンの概念をコアメダルで再現し一部改良を施したもの。両世界にこの装置があるか、ギャラルホルンの共振をキャッチできれば行き先は自由に選べます」

 ギャラルホルン――真木がマシンの原点にした聖遺物は、危機に陥った世界と共振しアラートを鳴らし、その世界への移動を可能とする。未だ謎多き物体。
 映司がそれを理解するのは不可能であるが、その説明が意味することはなんとなくわかる。
 つまり平行世界は他にもあって、この装置は様々な世界への移動が可能なのだ。

「何より、エニグマの平行世界移動はカイザーシステムを完成させるためのプロセスに過ぎず、それによって生じる平行世界の崩壊は彼が力を得る副産物でしかない」

 故に、と彼は後の言葉を付け足す。

「その終末は美しくありません」

 終末と美。彼の理念はいつだってそこに行き着く。

「真木博士、やはりあなたの目的は……!」

「当然、世界の終焉です。それこそが私の欲望」

「そんなことはさせない!」

 一度倒そうとも、この男の思想は全く変わっていない。
 ただ研究の拠点が鴻上ファウンデーションから財団Xへと移っただけだ。
 ならば今一度、彼の野望をここで止めてみせる。

「それは無理です。私はこの装置を完成させるためにこそ、貴方をここに招いたのですから」

「何ですって?」

 彼の言い分が真実ならば、映司はここを探し出したのではなく、誘き出されたということになる。
 全ては彼と財団Xの計画通りだったのだ。

「エニグマにも欠点があったように、私のグリードホルンにも一つ制約があります。装置の初期起動にはメダルの器となった者の認識が必要なのです」

 メダルの器。
 映司はオーズとなってオーメダルの力を使い、ヤミーを始め多くの怪人を倒してきた。
 それだけでなく、かつては紫のメダルや大量のセルメダルを肉体に取り込み、自らがグリードになりかけていた時期もある。

「本来は複製したグリードがその役割だったのですが、あなたが全て倒してしまいましたからね」

「メダルの器というなら、あなたもでしょう?」

 しかしそれは真木も同様だ。彼もまた紫のメダルを取り込んでグリードと成り果て何度も戦っている。
 器が必要というのなら、彼自身がその資格を十分に満たしているはずだ。

「残念ながら現状だと、映司君はこれを起動できる唯一の存在なのです」

「それはどういう……!?」

 映司の言葉は途中で途切れてしまった。突如グリードホルンからアラートが鳴り響いたのだ。

「このタイミングで共振が始まりましたか……これは面白い」

 そう人形に告げる彼の表情は、けれどあくまで無表情のままだった。

「これは私の促した起動ではない。どうやら貴方がここへ来たことで起動要素を満たし、オリジナルの共振を受信したようですね」

 真木の設計したグリードホルンは、別世界にあるギャラルホルンが受けるはずだった危機の発信を、代わりに拾う機能もある。
 それが初期起動と共に作動したのだ。
 これは狙ってできるものではない。ある意味で運命といえるだろう。

 そんな事実は映司の知る由ではない。いや仮に知っていたとしてもやるべきは変わらないだろう。
 彼はあくまで真木の凶行を止めるため、オーズドライバーを取り出す。
 映司の正義感は、しかしむしろこの場においては逆効果となった。

「コアメダルの力を宿す媒体。それはむしろ共振を強める要素になる」

「マシンが……うわあああああ!」

 グリードホルンから眩い光が溢れ出し、変身する前に映司の体を飲み込んでいく。

「それでは……善き終末を」

 真木の言葉を最期に、火野映司の肉体はこの世界から消失した。

 ●

 光が収まると、映司は建物の外に居た。
 しかしそこはビルの外の風景ともまた異なる。よく見る街の風景ではあるが同時に見知らぬ土地だった。

「ここは……どこだ?」

 元々世界中を渡り歩いていた彼にとって、知らない土地自体は大した問題にならない。
 しかしついさっきまで財団Xのビル内で真木と対峙して、新たな平行世界移動装置が起動したのだ。
 あの場で語られた情報が確かなら、ここは映司の知る地球ではない。

 ある意味では全く未知の世界になるのだ。
 周囲を見渡してみるが、見えるのは立ち並ぶビルと夜空のみ。
 さっきまでとはいた場所こそ異なるが、一見すると自分の居た世界とさほど変わらないため、果たしてここが本当に平行世界なのかも確かめようがない。

「とにかく、状況を確認しないと」

 そう思って近辺の人を探そうとするが、それはいきなり中断させられた。
 突如、町中に警報が鳴り響いたのだ。

 それが何を意味しているのかは不明だが、どんな世界だとしても警報は緊急事態で鳴るものだろう。
 そこへ向かえば、この世界を知る手助けになるだろうという気持ちはある。

 しかし火野映司という男は、それよりも先にという感情が優先される。
 事故にせよ事件にせよ、逃げ遅れた人や被害者がいるかもしれない。

 自分の手が届く範囲に助けを求める人がいるなら迷わず伸ばす。

 だから行った。
 そこに迷いや躊躇はない。

 警報と平行して、緊急事態を報せる音声も発された。
 ノイズの出現や危険区域と、そこからの避難誘導を告げている。

 雑音ノイズと称されるそれが何かは判別できないが、真っ先に思い浮かぶのはだ。
 ヤミー、バグスター、インベス、ゾディアーツ……。それぞれに悪意や思惑を持って人を襲う異形達。
 数多の怪人達と幾度も戦い続けてきた映司が、何かの出現と聞いてそれらを連想するのは自然な流れだろう。
 そしてそれは大きく間違った発想ではなかった。

 慌てふためき逃げ惑う人々と何度もすれ違い、あえてそちらへ走り続けた彼が辿り着いた先には、やはり……というか見たことのない生物らしきものが大量に闊歩していたのだ。

 生物的な外見はしているものの、体はのっぺりした印象でどこか非生物的にも見える。
 それらの形状はいくつか種類があるものの、種類ごとの共通点はあまり見当たらない。
 強いて言えば、どの固体にも液晶ディスプレイみたいな部位があるが、その形や色は様々だ。

「これが、ノイズってやつなのか?」

「た、助けてくれえ!」

 叫び声に反応すると、逃げ遅れたサラリーマンに、人型のノイズが襲いかかろうとする寸前だった。

「危ない!」

 映司が駆け寄ろうとするが、サラリーマンとノイズもはその場で黒い炭になって崩れ落ちた。

「え……っ!」

 その惨い光景を前にして、鳴り響く警報の意味を彼は十分に察した。
 そして、だからこそ逃げるのではなく救うという決意を固める。

「町の人を助けないと!」

 それは普通に考えたら無謀で愚かしい行動だろう。
 だが今の映司には必死に逃げる人達を救うための力がある。

 苦しむ人々に救いの手を伸ばすために、彼は懐からオーズドライバーを取り出す。
 それを腰に装着して、三枚のメダルを握った。
 だが、そこで何者かが彼の手を掴んでメダルの装填を止める。

「待て映司!」

「ア、アンク!? どうして!」

 それは数日前に別れたはずのアンクだった。
 金髪に鋭い目付き、そして赤い異形の腕。それこそ映司が見紛うはずもない。
 だが、彼が今ここにいるはずがないのだ。

「話は後だ。そいつらにはオーズの力でも太刀打ちできない」

「それ、どういうこと?」

「こいつらには普通の武器が通じない。コアメダルの力でもいいとこ半減ってとこだ」

「そんな力まで……」

 人が炭になって殺される場面は今しがた見たばかりだが、通常の兵器まで通じないというのは完全に想定外だった。

「おまけに物質を透過して人間だけを確実に殺す。オーズに変身しても、中身だけ炭になって終わりだ」

「随分厄介な相手みたいだな」

「あれはそういうもんだ。いいからここは逃げるぞ」

「なんとかする方法はないの?」

 確かにアンクの説明通りなら分が悪い。
 けれど周囲にはまだ逃げ遅れた人がちらほら見える。はいそうですねと見捨てられる程、映司の物分りはよくなかった。

「それは元々俺達の役目じゃない……来たか」

「歌……?」

「あの歌は気にしておけ」

 それは力強く、けれど何処か閉塞感を感じさせる歌だった。
 そして、歌の主はオーズのベルトではない。別種の戦闘スーツに身を包んだ年若い少女だった。
 彼女だけはノイズに触れても炭化せず、それどころかノイズだけが一方的に倒されていく。

「あの子は? 味方なの?」

「俺が知るか」

「知るかって、無責任な!」

 急に現れて勝手に説明しだしたのにこの態度だ。
 ある意味で本物のアンクだと思える安心感はあるが。
 たとえ今しがた探ったポケットの中のメダルが、未だ割れたままそこにあるとしても……。

「ふん、だがこれでわかったろ。ここはお前のいるべき世界じゃない」

 そう言ってアンクは映司の手にある三枚のメダルを奪った。
 盗むという雰囲気はなく、聞き分けをよくさせるためにした行為だろう。

「それは……」

 その通りだ。映司はあくまで真木の策略によってこの地へ飛ばされた被害者でしかない。
 ここは本来自分がいる世界でないのはよくわかったし、この地で人を襲う怪物と戦う者は他にいる。

「だとしても、さ」

 メダルが無くなっても映司は駆け出した。
 向かう先は死の恐怖で固まる女性。

 今の映司に一人でノイズへ立ち向かう力はない。
 、それは目の前にいる人へ手を伸ばさない理由にはならないのだった。


火野映司の世界移動の理由で、ここから第一話へと繋がります。

話の時期的には『平成ジェネレーションズFINAL』後ですが、これは単に私がオーケン好きで最上魁星を名前だけでも出したっというだけの事情。

モチベーションアップのために作品評価をお願いします!(切実)

 

仮面ライダー感想・考察ブログも書いています。
小説と同じくらい力を入れていますので、よければ読んでください!

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