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 ルイズの一撃で上半身が大きく消し飛んだゴーレムは、しかし歩みを止めない。
 さらにタバサからエア・ハンマーの直撃を受け、残った下半身を木に打ち付けられる。ぶつかった衝撃で体が弾けてべっとりと泥の跡が木にこびりつけせて、ようやく活動を停止した。

「どれだけしつこいのよ!」
「ほぼ全身を破壊しないと止まらない」

 禊がデルフリンガーでゴーレムを叩き切るが、腕や足を切り飛ばした程度ではまだ動き、バラバラにしてようやくぐずぐずに崩れて活動停止する。
 次々と連続してルイズ達に追いすがろうとする泥ゴーレムは、有体に言って弱かった。強度も低ければ動きも鈍いので、こちらが捕まることがなく一方的に攻撃できる。

『これはボスを倒した僕達に与えられたボーナスステージに違いないね』
「だったらもっと倒しやすいのにしなさいよ」

 弱い。が、とにかくしぶとい。体の一部が壊れただけでは戦闘不能にならず、執拗にこちらを追いかけてくるのだ。

「この気持ち悪い動き、まるでミソギね」
「確かに……」

 キュルケの意見にルイズは同意する。似ている、というかまるで禊の動きを真似て動いているようにも思えてくる。倒れても立ち上がってくる妙なしぶとさも、それっぽさへと繋がっていた。

『侵害だなあ』

 その呟きと共に、全てのゴーレムが身体のあちらこちらを螺子で貫かれ、木々に突き刺された。

『この程度の気持ち悪さで負完全()を語らないで欲しいね』

 そうして、ゴーレムが泥に戻り崩れ落ちていく。一匹残らずゴーレムの生成が無かったことにされたのだ。残りのヒットポイントなど関係ない、まさしく一撃必殺である。

「初めからそうしなさいよ!」
『やれやれ、楽を覚えたら人間終わりだよ?』
「ご心配どうも。既に人間として頭が終わってるあんたには関係ない話ね」
「やられた……」

 皮肉の押収を繰り出す禊とルイズを無視して、タバサは周囲を見渡しある一点で視線を止めた。そこは本来、気絶していたフーケが倒れていた場所だったが、

「ちょっと、フーケは何処に行ったの?」
「確かにしてやられたわ。泥ゴーレムを囮にされている間に逃げられたみたいね」
「あれだけやられて逃げられましたじゃすまないわよ! まだ近くにいるかもしれないわ。探しましょう!」

 肩を竦めるキュルケの隣で、諦めきれないルイズが強く提案すると、元々そのつもりだったのだろうタバサが風竜を呼び出し空から周囲を探索する。
 それでも、フーケを見つけることは叶わなかった。泥のゴーレムからして計画的な逃走だったのだろう。

 見晴らしをよくするため周辺の木々を全てなかったことにしようかと禊が提案するも、他の全員が許可をするわけもない。
 本当にそれができたらどれだけいいか、という心中は誰もが思っていたけれど。
 結局フーケの再発見はできず、ルイズ達は破壊の杖のみを手に帰還となったのだった。

          ●

 ルイズ達の申し訳無さそうな報告を聞いたオスマンは、しかし手放しで彼女達を褒め称えた。

「よくぞフーケを討伐して破壊の杖を取り戻してくれた」
「ですが、肝心のフーケを取り逃がしてしまいましたわ」

 本願を遂げられなかった悔しさが見えるキュルケだが、オスマンは気にせんでええと言ってのける。

「私が命じた通りにこうして破壊の杖は無事戻ってきたんじゃ。皆よう頑張ってくれた。フーケの追跡だけなら、それこそ王室に依頼したらいいわい」
「そうです。皆が無事に帰ってくれただけで安心しましたぞ」

 失敗を責められるのではと不安だった所でかけられた教師二人の暖かい言葉で、ルイズはようやく肩の力を抜くことができた。

「それはそうと、フーケはどうやってロングビルとして学院に潜り込んだのですか?」
「ああ……それなんじゃが、のう……」

 ルイズの素朴な疑問に、オスマンは急にバツが悪そうな態度になる。
 それもそのはずだった。居酒屋でおだてられた挙句、尻を触っても怒らなかったというのが理由だったのだから。
 これには生徒達だけでなく、コルベールまでもが呆れていた。

『学院長はエリート中のエリートかと思っていましたけど、案外愚か者の方でしたね』
「うるさいわい!」

 禊にまで茶化されるが、こればかりは自業自得だろう。
 あ、これ素で言い返してるなんて皆がこれまた引いていると、オスマンは一つ咳して空気を改めて、真面目な顔に戻る。

「とにかく、破壊の杖は無事宝物庫へ収まった。君達には『シュヴァリエ』の爵位を、宮廷に申請しておいたぞ。ミス・タバサについては既に『シュヴァリエ』の爵位を持っているからの。精霊勲章を申請しておいた。各自に追って連絡が入るじゃろうて」
「シュヴァリエ、本当にですか?」

 思ってもみなかった褒美に、ルイズは素直に驚いていた。しかし、キュルケは真面目な表情を崩さない。

「ありがとうございます、オールド・オスマン。シュヴァリエの爵位、謹んで頂戴いたしますわ。それと一つ、質問があるのですが、よろしいですか?」
「なんじゃね、ミス・ツェルプストー?」
「私は報告した通り、この度起きた戦いで、破壊の杖を実際に使用しました。それも、ミソギに使用方法を聞いてですわ」
「そうじゃったな。三十メイルのゴーレムを一撃とは、やはり『破壊の杖』の名に相応しい威力じゃわい」

 ルイズはキュルケが何を問おうとしているのかがわかった。恐らくはオスマンもそれはわかった上で、キュルケを止めていないのだろうことも。
 それはルイズもまたずっと気になっていた事柄である。

「あれは私の知っているマジックアイテムとはまるで違いました。上手くは言えませんが、まるで道具としての作りがそもそも全く違うような……。教えてくださりませんこと? 破壊の杖とは一体どうやって作られたのか、そしてミソギが何故使い方を知っていたのかを」
「残念ながら、私もあれがどこでどのように作られたのかはわからんのじゃ」

 オスマンは深い溜息を吐きながら、立派な顎の白髭を撫でる。彼の目はまるで昔を思い起こしているようだった。
 破壊の杖は、オスマンが若い頃ワイバーンに襲われた時に、助けてくれた男が持っていた物らしい。
 男は破壊の杖の一本を使いワイバーンを倒したが、その後負っていた怪我が原因で治療の甲斐なく死亡した。その一本は男の墓に埋められたが、もう一本は形見として宝物庫へと収めたのだという。

「彼は死ぬまで、うわ言のようにある言葉を繰り返しておった」
『元の世界に戻りたい』

 オスマンの言葉を、禊が代わりに答えた。オスマン以外の全員が、驚きの目で禊に注視する。

「……その通りじゃよ」
『つまり、その恩人がどうやってきたのかもわからず、彼からすれば見知らぬ地でセクハラジジイ助けて野垂れ死んじゃったわけですね』
「当時はまだ純朴な青年だったわい」
「元の世界って……」

 くるり、と禊がルイズに向き直る。本来あるはずの感情を全て塗りつぶしたような笑顔に、ルイズは後ずさりそうになった。

『だから言ったでしょ? 僕は別の世界からここに召喚されたのさ』

 禊は手の甲をルイズへ向けて、使い魔のルーンを強調するように見せつける。言外にお前が召喚したからだと責任を問うような仕草だ。
 元々妙な信憑性の高さはずっと感じていた話だったが、オスマンとキュルケの話がそのまま裏付けになってしまった。二人が禊のように嘘を吐くわけもないのだから、もう信じる他はない。

「そっちのルーンなら知っておるよ。恐らくは、ミス・ツェルプストーへの答えにもなるじゃろう」
「オールド・オスマン! 主人であるミス・ヴァリエールだけにならともかく……」

 今度慌てたのはコルベールだ。心底焦っている様子の彼をオスマンは片手で制した。

「これ以上隠し立てはできんじゃろ。彼女らにも知る権利はあるわい」
「ええ私達だってここまできたら聞かずにはおられません……というより、ミソギについてもう学園全体の今後に関わる話ですわ」

 キュルケのそれはまさしく正論だった。だからこそコルベールは慎重にこの件を取扱たいと考えている。
 されど、オスマンはまたコルベールとは別の意見を有しているようだった。

「そのルーンはの、伝説の使い魔と呼ばれるガンダールヴと同じ印じゃ」
「伝説の使い魔、ですか?」

 事の当時者であるルイズは、まるで実感が沸かないままオウム返しする。

「ガンダールヴは、いかなる武器でも自在に操る力を持っていたという。ならば破壊の杖の使い方を理解できたのも、その力があったからじゃろう」

 オスマンがガンダールヴの話をしている間、タバサが目を細めてどこかいつもの寡黙さとは違う雰囲気を醸し出しているように感じたが、まだ付き合いの浅いルイズには気のせいの範疇でしかなかった。

          ●

 伝説の使い魔、ガンダールヴ。
 タバサは、その単語を何度も頭の中でリフレインさせた。

 それは小さな可能性だ。
 しかし、確かな光でもある。
 もし、伝説の使い魔と言われたのが普通の少年だったならば、タバサはここまでの感慨を抱かなかっただろう。

 自分には関係ない何処か世界の話として処理していたかもしれない。
 だが、それが禊ならば話は別だ。
 球磨川禊だけは、そこに込められる意味が大きく変わってくる。

 過負荷というまさに次元の違う、魔法ですら測れない能力(スキル)に加わり、ガンダールヴの力までもが備わっていたのだ。
 もっとも、それら全てがおまけにしかならない、もっと異常なものが、もっと過負荷なものが、禊にはある。

 負完全。
 禊の螺子くれて螺旋を描く特異な精神こそが、禊を禊たらしめる危険性だ。
 禊という危険極まりない精神の上に大嘘憑き(オールフィクション)とガンダールヴという付加価値が与えられたことに意味がある。

 恐らく、タバサはどう足掻いても大嘘憑き(オールフィクション)を手に入れることはできないだろう。よしんば得たとしても、自分に使いこなすことができるだろうか?
 全てを喪失させる力を得た時、タバサはタバサという人格のままあり続けられるか?

 タバサの中にある闇が暴走して、『あの男』だけでなく、この世界の全てを憎み消去してしまうのではないだろうかという恐怖が先に立つ。

 それは、同時に禊への疑問でもあった。
 何故、勝利を手にすることができず、どこまでも敗北を重ね続ける禊は、それでも世界に絶望しない。

 人生に負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負けて、負け続ける人生で、禊は何を糧に生きている?
 絶望しきらず世界を壊さない心はいずこから生まれて育っているのだろう?
 もしかしたら、禊の過負荷は禊の歪んだ心根から生まれたものではないだろうか?

 禊が大嘘憑き(オールフィクション)を得たから過負荷であるのではなく、禊が過負荷だから大嘘憑き(オールフィクション)を得たのではないか?
 それがタバサの考察だった。

 正しいこともあれば、間違っている個所もある。
 全ての解に辿り着くにはまだ遠いが、タバサは一人でずっと球磨川禊とは? 過負荷(マイナス)とは1? という自問自答を繰り返している。

 ルイズとキュルケは過負荷(マイナス)に反抗することを選んだ。
 タバサだけはただ一人マイナスの果てを追い求めているのだった。

          ●

「なる程、完全に、とは言えませんが理解できましたわ」
「なら、これまでの話を質問の答えとしてもいいかのう?」
「もちろんですわ。ありがとうございました」

 なんだか、急展開が次々と起こりまくっているが、ルイズは全然付いていけていない。禊が只者でないと言われても――そんなのは疑う予知がない話だが、いきなり別世界の人間が使っていた武器や、伝説の使い魔なる単語が現れ始めたのだ。
 そのどれもこれもが、ルイズの理解を遥かに超えた世界の話である。

『学院長。僕からもいいですか?』
「なんじゃ? お主は貴族ではないから、何の謝礼も用意できてないからのう。何か聞きたいことがあるなら、私の知る範囲で答えよう」
『いいえ、僕から一つ提案があるんです』
「提案、お主がか? ……まあ、言ってみい」
『それじゃあ当然の権利を振りかざして遠慮無く』

 禊は朗々と、予め用意していたようにその『提案』を語りだす。いやその内容からして用意していないわけがなかった。

 それを聞いたルイズは、いやキュルケやタバサでさえ目を丸くして混乱に陥った。
 コルベールに至っては、禿げ上がった頭を手で抑え、忌々しく禊を睨みつけている。
 禊が話を終えた時、ルイズは頭に浮かんだ言葉を、そっくりそのまま禊へぶつけた。

「あんた、頭おかしいんじゃないの?」

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