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 馬車は薄暗い森の中で止まり、そこからは徒歩で目的地を目指すことになった。

 その道中、ルイズは何とはなしに、昔家族で森にピクニックへやって来たことを思い出していた。
 珍しく家族全員が揃っていたことと、その後一人で森の奥に行こうとしたルイズが亜人に襲われそうになり母と姉に散々怒られたため、未だに忘れられない記憶だ。ルイズにとっては、嫌な方に分類される思い出だった。

 ――あれは本当に恐かったわ……亜人に襲われたのも。お母様に怒られたのも。

 気が付くと他のメンバーに遅れかけていたルイズは、いけないいけないと頭を振る。
 ここからはこっちを先に見つけたフーケが攻撃してくるかもしれない、もっと集中しなくちゃと気合を入れ直す。

 林道から逸れた小道を暫く歩くと、空き地が広がりその中央に廃屋が取り残されたように建っていた。

「あの中に、盗賊フーケがいるのかもしれないのね」

 木の間に隠れるように、廃屋から少し距離をとってルイズが呟く。

『大泥棒との永きに渡る因縁に、決着を付ける時がきたというわけだ』
「何勝手に変な話を追加してるのよ!」

 正しくは、昨夜の事件からまだ半日も経っていない因縁である。
 しかし、因縁の浅深を決めるのは時間だけではない。

「今度は逃がさないわ」
「状況は把握。次に作戦会議」

 少なくともキュルケとタバサにとっては、昨日の借りを返すためここで決着を付けねばならない大敵となっている。

「わたくしは万が一、周囲にフーケが潜んでいないかを調べてきますわ」

 四人が一旦腰を下ろすが、ロングビルはそのまま見回りに出ようとした。

「相手は強力なメイジよ? 一人で大丈夫?」
「わたくしもライン程度ですが魔法は使えますし、何かありましたらすぐに合流します」

 ルイズの心配にロングビルはそう答えて、森の中へ消えていった。
 元より、これからフーケの隠れ家に突入する自分達の方が遥かに危険度は高いのだ。タバサは残ったメンバーに立案した作戦を説明する。
 まず囮役の一人が廃屋に侵入して、フーケを外に誘き出す。そして残りが一斉に奇襲をかけてゴーレムを生み出す前に倒してしまう。それだけのシンプルな作戦だったが、問題は誰を囮役にするかである。

『僕は囮役にルイズちゃんを推薦するよ』
「開口一番にご主人様を囮にしようってどんな神経してんのよ!」

 説明されても一切理解できないとわかるわけもないと思いつつも、言わずにはいられなかった。

『だって戦闘力ゼロのルイズちゃんは奇襲なんてできないじゃない』
「わ、わたしだって奇襲くらい!」
「できてもできなくてもルイズの囮は却下よ」
「どうしてよ!」

 囮役にされてもされなくても怒っている理不尽さにルイズ自身は気付いていないが、キュルケはそこを指摘することもなく説明する。

「囮だって少しくらい戦えないと返り討ちか人質にされかねないからよ、ゼロのルイズ」
「だからわたしはゼロじゃ」
「囮は私がやるわ」
「キュルケ……貴女」
「これは私が言い出したから始まったのよ。だから直接フーケと対峙するのも私。文句ないわね?」

 一番初めにフーケ討伐に名乗りを上げたのもキュルケだ。何がキュルケをそこまで駆り立てるのか、ルイズにはわからない。
 しかし根幹にある原因は昨日禊に手痛くやられたことだろう。そこにルイズは一抹の不安を覚える。

「なんて顔してるのよ貴女」
「だって……」

 キュルケは両目をつり上げて、ルイズの両頬をつまみ引っ張る。

「にゃ、にゃにふるのほひゅるへぇ!」
「これで少しは思い出した? あんたと私は敵よ、敵」
「うう……わかってるわよ! これだからツェルプストーは!」
「それでいいのよヴァリエール」

 意地悪げに笑いながらキュルケが手を離すと、頬を手で押さえながらルイズは思い切り睨み付けた。

「それじゃ、行ってくるわ。作戦開始よ」
「気を付けて」
『キュルケちゃんの無事を心から祈ってるよ。僕はそこら辺でジャンプ読んで暇を潰してるから』

 親友がそっけなく、天敵が腹立つ応援するのを背に受けて、キュルケは何事もないように歩き出す。

「キュルケ……絶対失敗するんじゃないわよ」

 最後にかけられたライバルの言葉に、キュルケは振り返らず胸の杖を抜き振ってみせることで答えとした。
 他の三人もできるだけ音を立てず入り口を囲んで、いつでも突入できるように構える。

「中には誰もいないわよ」

 キュルケが廃屋へと入ってからすぐ、彼女は外へと声をかけた。ルイズを見張りとして外に残し、タバサと禊も廃屋へと入ってくる。

『これは、もう逃げた後かな?』
「破壊の杖」

 ちょっとした家捜しだけで、タバサがあっさりと目的の物を見つける。

「無用心にも程があるわね」

 恐らくは一番緊張感を持って廃屋に入ったキュルケは、拍子抜けの展開に呆れ顔だ。
 しかし、タバサは一ミリも表情を緩めずに呟く。

「危険」

 その矢先、大きな振動とルイズの悲鳴がない交ぜになりつつ、廃屋の屋根が吹き飛んだ。
 見晴らしがよくなった上を眺めて、禊がへらへら笑いを絶やさず一言。

『これは一本とられたね』

 そこに見えるのは、全長三十メートルを超える巨大な土のゴーレムだった。
 キュルケは既に抜いていた杖を差し向ける。

「ファイヤーボール」

 キュルケの杖から発される得意の火球は、ゴーレムの表面の一部を焦がしただけで消えてしまう。

「効かない……サイズが違いすぎるわね」
「退却」

 全員が急ぎ廃屋から逃げ出し、ゴーレムの巨大な足と拳を避けている間に、バラけていく。
 禊はデルフリンガーを引き抜き、ゴーレムの足を切り裂く。
 しかし切断された部分はすぐに繋がり元通りとなった。

『ギーシュちゃんの青銅と違って再生力があるみたいだね』
「何してんの! あんたの大嘘憑き(オールフィクション)なら一発で倒せるじゃない!」
『あれは一日一回しか使えなくてね。馬車の中で枝毛を(なお)すのに使かっちゃったんだよ』
「ここであからさまな嘘を吐いてどうするのよ!」

 この非常時にまで余裕の態度を崩さない禊にイライラしながら、ルイズはゴーレムから逃げ回る。

『それに、脳筋キャラよろしく力任せにゴーレムを倒しちゃって、その後どうするの?』
「そんなの、フーケを捕まえるに決まってるでしょ」
『そのフーケはどこにいるのかな?』
「え……」

 言われてルイズは気付く。暴れているのはフーケのゴーレムだが、フーケ自身の姿はどこにも見えない。恐らくどこか近くに隠れて、ゴーレムを操っているようだ。

『僕がゴーレムを無かったことにしたら、警戒したフーケはそのまま逃げちゃうだろうね』

 そりゃそうだった。魔法ですらない未知の能力で、学園の壁さえ破壊したゴーレムを消し去ってしまったら、危険を感じたフーケは即退却してしまう可能性がある。
 目的が破壊の杖奪還なので、その任務はもう果たしていると言えるが、このままフーケを逃がすのは貴族のプレイドが許さない。

「けど、今だってフーケが何処にいるのかわからないじゃない」

 倒せないなら逃げるしかない。そして、このままではこっちがやられるのも時間の問題だ。

『メイジは魔法を常に一つしか発動できないんでしょ? だったら空や、ずっと遠くからゴーレムを操作することはできないわけだ』
「つまり、フーケはゴーレムを動かすために近くに隠れてる……!」
『というわけで、フーケの捜索よろしくね、ルイズちゃん』
「ちょっと……!」

 禊が勝手に言葉でルイズを送り出した時、ゴーレムが手で足元を払った。手にこそ触れなかったが巨大な風圧に押されてルイズは後退る。
 ゴーレムはそのまま禊を優先して追いかけようとしていた。

 フーケがゴーレムを動かしているうちは、他の魔法が使えない。通常ならゼロのルイズが、推定でトライアングル以上のフーケに勝つことは絶望的だが、今ならば別だ。
 ここがチャンスと、禊にゴーレムの囮を任せてルイズは森へと突入していった。

          ●

 タバサは念の為に後ろを追跡させて付いてくるよう命じていた風竜を呼び出して、キュルケと共に跳び乗り、状況を立て直している途中だった。
 すぐにルイズと禊を回収するつもりでいたが、ルイズは先に森の中へと入っていく。
 仕方なく、禊だけでも拾おうとタバサは風竜の高度を落とす。

「乗って」
『安全地帯が見つかる前に一人で森へ行っちゃうなんて、ルイズちゃんは運がないなぁ』

 そう仕向けたことのが自分であってもまるで気にせず、そんなことを言いながら禊が風竜に手をかけた時、突如風竜が暴れた。

『おろ』
「きゃあ!」

 タバサの使い魔である竜は韻竜という、人間とも比肩しうるとても高い知識を持った種族である。
 明確な理性があるが故に、禊に触れられて風竜は本能的に拒絶反応を起こしてしまったのだ。

 禊と一緒にキュルケまで一緒に地面へと放り出されてしまい、そこにゴーレムが腕を振り下ろしてきた。

「竜にまで嫌われるって貴方どこまで過負荷(マイナス)なのよ……痛っ!」

 キュルケはすぐ逃げようとするが、足に鈍くズキリとした痛みが走りつんのめる。それでも何とか足を前に出していくが、これでは到底逃げ切れない。

『おいおい頼むぜキュルケちゃん。破壊の杖は君が持ってるんだから、しっかり逃げてよね』
「……こうなったのは誰のせいよ!」

 禊はいつものへらへら笑顔でポンポンと破壊の杖を叩いてアピールする。代わりに持って逃げるという選択肢はないようだ。

『空気読まずに僕らを振り落とした風竜ちゃんのせいだよ。僕は悪くない』

 お前が空気を読め! と思うが、訴えている余裕はない。一歩地面を踏む度に痛みも激しくなっていく。
 風竜はゴーレムが派手に腕を振り回しているため近付けない。

 咄嗟にキュルケがフライを唱えようとした時、ゴーレムから跳ねた岩の一つが、キュルケの鳩尾にめり込んだ。

「かふっ!」

 呼吸ができず、詠唱もままならない。逃げようにも足を動かせば激痛が苛む。たとえ呼吸が戻っても痛みでろくに魔法がコントロールできない可能性もあるだろう。
 なんという不運だと、キュルケは己を呪う。

 だが、この依頼を真っ先に受けたのはキュルケだ。その意地とプライドをかけて、破壊の杖だけは守りぬかなければ。
 そうしないと自分は前に進めない。キュルケがキュルケのままであり続けることができなくなる。

 ――そんなの、認めてたまるものですか!

 ルイズから激変したギーシュのことは聞いている。キュルケはあんな成れの果てになりたくない。

 ――私は私! ツェルプストー家、『微熱のキュルケ』よ!

 ルイズはルイズで在り続けようとしている。
 タバサも、昨日の決闘からも変わらず一緒に戦ってくれている。
 なのに、自分だけがこんな所で終わるわけにはいかない。変わるわけにいくものか。

 しかし現実は非常であり、身体は痛みに反応して、目から勝手に涙が溢れてくる。
 それでも禊への助けは……絶対に借りない! そう内心で決意を固めて立つ。ここで禊に助けを乞うてしまったら、それこそギーシュと同じになってしまう。
 こうなったらいっそ破壊の杖だけでも禊に渡して、と内心で覚悟を決めようとしていたキュルケに、禊が提案を出してくる。

『あーあ、このままだと任務失敗でまた勝てなかったと言うしかないね。これじゃあルイズちゃんにも申し訳が立たないし、ここはこれを試してみようか』
「試…………す……?」
『最近夢にも見ない安心院さんの言葉を借りるなら、球磨川さんのこれで負安心(ふあんしん)ゴーレム対策の時間さ』

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