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 禊の剣を購入した次の日、ルイズは一人で学院の図書館に足を運び、テーブルで書物を広げていた。
 本日の授業はすでに全て終わっているため、今は自由時間となっている。

「これも、駄目」

 調べ物は召喚とルーンについて。つまり禊のあれこれに関するものである。

 事の当事者たる禊は、ルイズの了承もなしにギーシュと二人でどこかへ消えてしまったため、いつ帰ってくるかもわからない。
 本音では、もう二度と帰ってきてほしくないけど。

 ルイズを守るという名目で買い与えた剣だったが、その役割は果たせそうもない。果たそうともしていない。
 あの使い魔はちょっとでも気を緩めるとこれだ。
 しかし、この件についてはもう手を打ってある。

 そのため、目下の問題は今この時だ。

「これも駄目だめ……はあ」

 溜め息を吐きながらも、積み上げてた本の山から次を手に取る。ルイズは探しものに関係のありそうな内容を、手当たり次第に漁り回っていた。
 それでも欲しい情報はヒットしない。掠りさえもしていなかった。

 ルイズ自身、始める前からそれほど期待しているわけではなかったが、もしかしたらなどという淡い希望くらいなら抱いていた。今やそれも風前の灯火ではあるが。

「おや、ミス・ヴァリエールじゃないですか」

 諦観を織り交ぜながら魔法書に没頭するルイズの背へ、不意に声をかけてくる者が現れた。

「ミスタ・コルベール」

 今のルイズにとっては、特定の人物以外に声をかけられる行為すら珍しく、ちょっとだけ驚いた様子で自分を呼んだ教師を見ている。

「何か調べものですか?」

「ええ、その、ミソギ……使い魔に関する本を」

 それを聞いたコルベールはどこか悲しげに眉尻を下げるが、すぐに元の顔に戻り、

「そうですか……」

 とだけ答えた。
 そう言えば、コルベールは珍しいと言って禊のルーンをメモしていた人だ。もしかしたらルイズの知らない何かを知っているかもしれない。
 本と同じく小さな希望の光を追って、ルイズはコルベールに頼ってみることにする。

「でも、どの本でも授業で習ったことしか書いてなくて。あのミスタ・コルベールは何か使い魔のこと、特に召喚の儀式について、ご存知のことはありませんか?」

 コルベールはああそういうことかという反応を示したが、本当に申し訳なさそうに首を横に振った。

「残念ですが、彼の凶行を止めるのに役立ちそうな資料は、図書室にはありませんでした」

「無かった……」

 コルベールが伝えたのは、ルイズが行っている行動の結末だ。これで、ルイズの行動は無駄足だったと決まったのだから。

「あれから彼はどうしているかね?」

「大人しくはしていますわ。いつ何を起こすかわかったものじゃありませんけど。ああ、今は他の生徒が代わりに監視してくれています」

 決闘以来、禊の表立った動きは昨日の買い物くらいだが、それで安心などできるわけもない。その決闘だって、気付いた時にはもう不可避の事態だったのだから。

「ミス・ヴァリエール、君には本当に申し訳ないことをした。謝って許されることではないが、謝罪させてほしい」

 一度佇まいを正したコルベールは、ルイズに深々と頭を下げた。コルベールの不測な行動にルイズは慌てて椅子から立ち上がる。

「頭を上げてくださいミスタ・コルベール! わたしは謝れるようなことなどされていません!」

「君に彼との契約を強要したのは他ならぬ私じゃないですか。そのくせ、教師でありながら困っている生徒に手も差し伸べられない始末だ」

 ルイズはコルベールを恨んだことなど一度だってない。
 召喚のやり直しを突っぱねられた時こそ、もう少し融通を利かせてくれてもと思ったが、コルベールはただ儀式のルールに従っただけだ。
 自分が教師だったら、同じようにしただろうともルイズは思う。

「ミスタ・コルベールはご自分の仕事をなさっただけですわ。それに資料が無かった(・ ・ ・ ・)ってことは、ミスタ・コルベールは探してくれた(・ ・ ・ ・ ・ ・)ってことですよね」

 ルイズには、ただその事実が嬉しかった。
 あんな者を召喚してしまった自分を、それでも見捨てずに助けようとしてくれる。教師の中にも、自分の味方はいるのだと知った。

「ミス・ルイズ、これだけは信じてほしい。今は辛いだろうけど、君は一人じゃないのです。私じゃ彼については何の役にも立てないかもしないが、困った時はいつでも相談してください」

「とても心強いお言葉ですわ。ありがとうございますミスタ・コルベール」

 それは皮肉ではなくて、心から出たお礼の言葉だった。元々魔法が使えぬ劣等感から心に孤独を抱えてきたルイズだが、禊を召喚してからそれはより顕著になっている。
 ルイズにとっての最大の敵は、自分を蝕み、ふと禊を受け入れてしまいたくなる心の弱さだった。

 しかし、その弱さを自覚しつつあるからこそ、ルイズは気付けた事実もある。どんな逆境でも、自分を支えてくれようとしている人が必ずいるのだ。
 きっとこれまでだって、自分から周りを威嚇していて知ろうともしていなかっただけで、ルイズを気にかけてくれる人はいたのだろう。

「それじゃあわたしは、もう調べる必要はなくなってしまいましたから、この本を片付けてきます」

「ああ。私も自分の用事を済ませるとするよ」

 ルイズが気にしなくていいと許したからと言って、簡単に気が和らぐ問題ではないだろう。
 そのため、ルイズは自分からこの場を動くことにした。

「すまない、ミス・ルイズ……」

 本棚の奥へ去りゆくルイズの背中に、コルベールはもう一度だけ、小さく謝罪の声をかけた。

         ●

 球磨川禊という人間は、人の視線や動きに敏感だ。それはキュルケが禊を見張るようになってから発見した事実である。
 それに気付けたのは見張りに失敗したからではなく、むしろ成功の報酬として得た情報の一つだった。

 人間が駄目でも、人間以外なら禊の認識は甘くなっている。キュルケは自分の使い魔であるフレイムに禊を尾行させたのだ。
 使い魔には視覚と聴覚を主人と共有する能力がある。これを有効活用し、禊の動向はキュルケ本人がチェックしていた。

 フレイムはサイズが大きいため監視には不向きという問題があったが、これはタバサが尾行における注意点とコツをキュルケに教えることによって解決している。
 どうしてタバサはそんな方法を知ってるのかという新たな疑問も沸いたが、キュルケはあえて追求しなかった。

 元々教えたくない話だからこれまで話さなかったのだろう。
 好奇心旺盛な性格ではあるが、親友が本気で話したくない事情まで無理に聞き出そうとするほど、キュルケは無粋な娘ではない。
 この距離間が、二人の間にある絆と呼べるものでもあるのだろう。

「またギーシュと話してるわね」

「ギーシュも要注意」

「大丈夫、わかってるわ」

 二人はわけあってルイズとは別に図書室の片隅で禊の監視を行いつつ、キュルケが情報をリアルタイムで報告し続けている。
 禊は授業が終わると、だいたいギーシュや平民達と厨房で紅茶を飲みながら雑談に興じている。本日もその例に漏れなかった。

 尾行によってキュルケが最も驚いたのは、禊の行動よりもギーシュの変化である。
 これが禊の周囲に与える影響ならば、こんな危険な存在は他に見たことがない。忌避すべき天敵であるエルフすらが、禊という最悪の前にはとるに足らない存在とすら思えてくる。

 ここまで来ると人格矯正や洗脳に近しいレベルだ。それを禊は魔法など一切使わずに実行している。
 これ(・ ・)がさらに広がっていくのなら、禊は誇張抜きで貴族社会を終わらせることができるのではないか?

「貴族としてのプライドだけなら、クラスで一番なルイズの使い魔とはとても思えないわね、ホント」

「でも事実」

「なのよねぇ」

 慎重に距離をとっての監視なので、厨房の会話までは聞き取れない。それでも和やかなムードであるのは遠目でもわかる。

 それが急に、厨房の皆が驚いた顔に変化した。禊だけはいつも通り涼しげに薄っぺらい笑みのまま。これもいつもとそう変わらない日常だった。
 パフォーマーな禊は、やたらと周囲に大きなリアクションをとらせたがるのだ。
 よくもまぁネタが尽きないものだと思う。

 キュルケは一応タバサに報告するが、現状維持はそのままで、平穏なる今日は過ぎていった……はずだった。深夜に、ルイズの部屋から禊が一人で部屋を出なければ。
 それに気付いたのは偶然で、キュルケが男子生徒を自分の部屋に連れ込んでいなければ、そのまま眠っていただろう時間である。

 監視と自己防衛を兼ねて部屋の前にいたフレイムが、視覚の共有をして禊の新たな動向を報せたのだ。
 そこからキュルケの行動は迅速だった。

「どうしたんだい、キュルケ?」

「今ね、一人、とても気になる殿方がいるのよ」

「おやおや、せめて今夜は僕だけを見て欲しいな」

 あからさまに機嫌を悪くした男子生徒に、キュルケは妖艶な笑みでその男が誰かを伝えてやる。

「ルイズの使い魔のミソギよ。彼がたった今、部屋から出ていったみたいなの。何か企んでるのかもしれないわ」

 かも、ではなく何かするつもりだ。とキュルケは確信を持っている。

「そ、そうなのかい!?」

「ええ、部屋の前に待機させてたフレイムが教えてくれたの。残念だけど、危険だから今日はこれでお開きにした方がいいわね」

「ああ、そうだね。本当に残念だけど、僕も自分の部屋に帰るよ」

 キュルケと夜を共にしていた男子は、顔を青くしてそそくさと帰っていった。
 正しい判断だとは思うが、俺が守るよの一言くらいは言えないものか。キュルケの微熱が再び彼に燃え上がることはないだろう。

 手早く着替えたキュルケは、まず隣の部屋にルイズの様子を確認しにいくと、ルイズは自分のベッドですやすや眠っていた。

「起きなさいルイズ」

 禊ならルイズが眠ったままにちょっかいを出すなんて造作もないことなので、念のためにゆすり起こしてルイズの安否を確認する。

「きゅるけー? なによう、もうちょっとでクックベリーパイが……」

「寝ぼけてる場合じゃないわよ! 禊がどこかへ消えたわ」

「ふえ? …………ええええ!」

 ようやく事態の重要性を認識したルイズが飛び起きる。そして使い魔専用の寝床である藁で宿主の不在を確認すると、ルイズは部屋を飛び出そうとした。

「何やってんのよあのバカ!」

「こら、あんたこそ何してるのよ」

「ミソギを追うわ!」

「少し待って、冷静になりなさいな」

 ルイズと比肩しえるプライドの持ち主であるキュルケだが、それでも一人で禊へ立ち向かえると思うような傲慢さはない。

「待つ? 待ってたらあいつは何やらかすかわったもんじゃないわよ!」

「だからって、あ、こら!」

 結局ルイズは制止の声に耳を傾けず、杖一本だけを手に走り去ってしまった。

「あー、もう。あの子ったら着替えもせずに」

 あの狡猾な使い魔の主人は、どうしてこう酷い癇癪持ちなのだろうかと呆れるが、禊がルイズをフォローすれば案外噛み合うコンビなのかもしれない。
 そんなことはあり得ないから、こうなっているのだけど。

「はぁ。ここまで想像できないイフもないわね」

 そもそも禊はフレイムがついて回っているので、追いつくのはそこまで難しくない。
 どうせルイズはネグリジェで行き辺りばったりに走り回って勝手に恥をかくだけだろうと放っておき、キュルケはタバサの部屋を訪れた。

 キュルケに起こされたタバサは、ルイズとは打って変わり、キュルケの真剣な面持ちだけでだいたいの状況を察して、二人はコンビで禊の追跡を始めた。
 フライを使えば追いつくのも早いだろうが、少しでも精神力を温存するために走って禊を追いかける。

 禊が向かった宝物庫のある塔だった。こんな夜中にそんな場所へ向かうのだから、狙いは一つしかないだろう。
 まともな者ならメイジだらけの宝物庫なんてそもそも狙おうとすら思わないだろうし、まず強力な固定化を突破すらできずに終わるはずだ。

 だがキュルケはもうよくわかっている。自分達の相手は、まともや常識を嘲笑の対象として扱う凶人だ。

 あの(マイナス)ならあえて狙う。
 あの過負荷(マイナス)なら固定化なんて、それこそ普通にドアを開けてしまうように突破できる。

 ここがトリステイン魔法学院だから安全なんて理由は、何の気休めにすらなりはしない。
 決闘時の対応からして、教師達だってアテにはならないからキュルケとタバサは二人だけで禊を追う。
 どんな理屈であれ、禊を無罪放免にして自由に振舞わせている者達など、信用できるものではずもないのだ。

 それに、こっちだって闇雲に禊を追いかけているわけでない。戦闘になれば勝ち目もある。
 決闘の日から二人は禊について分析し、どうやったら禊を無効化できるかを話し合ってきた。そして今日、図書室にてその答えを導き出したところなのだ。

 とはいえ、どんな策だろうがあの大嘘憑き(オールフィクション)に真正面から挑んでは、返り討ちにあっておしまいだ。
 タイミングは奇襲での一発勝負。フレイムで監視して禊が塔から出てきた瞬間を狙う。

 不安がないと言えば、それこそ嘘吐きになる。
 けれども、やれる自信がないというのをやらない理由にするのは負け犬の思考だ。

 ――やれる。わたし達ならきっと勝てるはずよ。

 キュルケは自分を鼓舞して覚悟を決めた。

「え?」

 だがその覚悟は、勝利への布石は、思いも寄らない形で霧散することになった。

「嘘……どうして? どうなってるのよこれ!?」

「禊に何かあった?」

「禊に、じゃないわ」

 キュルケの急変に眉をしかめたタバサが問いかけた。キュルケは焦りを多分に含んだ声色で今しがた起きた事実を報告する。

「フレイムから何も見えなくなったのよ」

「何も?」

 それは禊が角を曲がった時だった。標的を見失わないようフレイムの足を少し早めさせようとした途端、そのフレイムから送られてくる視界が完全に失われたのだ。
 説明を聞いたタバサはその事態を重く捉え、塔の近くに身を隠すことを提案して、二人はしばし様子を見る。

 キュルケはフレイムの身に何かあったのではと気が気ではなかったが、だからこそ冷静なタバサの判断に全てを託して大人しく従った。
 しかし一旦傾いた展開は、まるでずるずると滑り落ちていくように二人を予期せぬ方向へ向かわせていく。
 キュルケとタバサが身を隠してから十数分、その声は二人の背後から聞こえてきた。

『やあ。美少女と悪事は闇夜に紛れるより、月の光に照らされるべきだよね』

 そこにいたのは二人が追っていた悪事を働く者と、闇夜に紛れようとしていたはずの使い魔フレイム。
 キュルケは声を上げてこの場から逃げたい気持ちに駆られ、だけど不意に握られた友の手が、そんな自分を奮起させてくれる。
 少女達は逃げず、禊に挑むことを決意したのだ。

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