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 トリステイン魔法学院の女子寮廊下を男女のペアが歩いていた。意気消沈したルイズと定番の笑みを貼り付けた禊である。

 ルイズと禊の両名は休校になった午後の授業時間を、学院の会議室で過ごすことになったのだった。
 そこで待っていたのは、保険医を除く全教師からの質問責め、そして糾弾の数々だった。あの酷さは思い出しただけでも頭が痛くなる。主に禊の発言で。

 ルイズは自室に戻りベッドへ腰かけ禊を床に正座させた。

「あーもう、本当にどうすればいいのよ、これ!」

 ルイズが両手で頭皮をかきむしりながら、「わたしの人生終わりだわ」等次々に悲観的な言葉を吐き散らかす。

『どうにもならないんだし、希望にあふれた明日でも空想してようよ!』

「だから問題なんでしょうが!」

 馬鹿なの? 馬鹿だわ! 馬鹿だから! と三段階で禊を罵倒するが、禊にはノーダメージだ。

 教師に質問された禊の出身地は、禊が勝手に東方の国出身の平民だと取り繕った。これは異世界人とか言われるよりはよっぽど説得力があるのでかまわない。

 問題は決闘についてである。
 ギーシュについてはあっちから仕掛けてきた決闘であり、話は和解という展開によって一応の決着は付いたため、学院長の判断により部外者が立ち入る話ではないとされた。

 しかし、途中禊が視力と声帯を無かったことにした生徒については別だ。
 あれは禊がいきなりギャラリーの貴族を襲ったという別問題にして大問題なのだった。

 またモンモランシーとケティも、記憶の改竄しているためにこれも同じく重罪だ。しかしこれについても禊はギーシュを通して話を付けると言っていた。どうするつもりかは知らないが、禊による被害者の増加を防止するにはしっかりと見張っておかねばならない。

「どうして決闘の最中に、ギーシュ以外へ危害を加えたのよ」

『それは取り調べでも言ったけど、大嘘憑き(オールフィクション)の効果を証明するためだよ』

 そんな理由で貴族の人生を完膚なきまでに破壊しておいて、証明したかったんですで済むわけがあるか。とルイズは憤る。

『僕の過負荷(マイナス)は取り返しが付かないからね。派手に使っていきなりギーシュちゃんを再起不能にしちゃ、親友になれないでしょ』

 大嘘憑き(オールフィクション)で最も恐ろしいのは、まさにその取り返しが付かない部分だった。

 一度無かったことにした事柄は再び無かったことにはできず、つまり元には戻せないのだ。
 このルールに乗っ取るならば、あのギャラリーにいた少年は二度と日の光を拝めない。これではもう学院にいる意味さえも無くなったのだから、彼は自主退学するしか道はないだろう。

 犠牲となった生徒には申し訳がないし、戻せるものなら戻してあげたいが、そもそもにして方法がない。実行者である禊でさえ手の加えようがないのだから、詰んでいるとさえ思う。

「どうにもならないわよ、こんなの……」

『じゃあこう言い換えよう。どうにもならないし、どうということもないぜ』

 禊は喧嘩を売っているのだろうか。
 どうということはない、が該当するのは禊だけだ。禊なら何が起きても持ち前の過負荷(マイナス)で自分の窮地すら台無しにするのだろう。この男にはどんな脚本だって意味をなさない。

「なんとかできるものならしてみなさいよ。ただし、大嘘憑き(オールフィクション)は使わせないわ」

 大嘘憑き(オールフィクション)を封じる方法なんてありはしないので脅しにすらなりはしないのだが、ルイズが常に禊へ付きまとってでも被害の拡大を防ぐつもりであるのは本心だった。

『僕の大嘘憑き(オールフィクション)がいくら最低(マイナス)だからって、今回は元々ないものを無かったことにはしてないぜ?』

「はぁ? 何の関係もなかった人間の人生を台無しにしておいて、まだ『僕は悪くない』って言いたいわけ? 貴族を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」

『なんだ、そんなことかい?』

 ――そんなことですって?

 人をいきなり奈落に突き落とすような行為でさえ、禊には“そんなこと”に過ぎないと言うのか。いや、過ぎないからこその過負荷(マイナス)なのだろう。
 好きに勝手を行って、無責任にヘラヘラ笑う。

『だってそれ、どうせ無罪放免になるからね』

「あんたまた……」

 予め策を仕組んでいたのか。
 過負荷(マイナス)を知らないルイズを、本人の気付かぬよう精神的に追い詰めたように。
 あれだけ勇ましかったギーシュが、いつしか弱さで塗り固められていたように。

 あの貴族も、狡猾に計算した上で壊していたんだ。
 しかも恐らくはもう手遅れだ。大嘘憑き(オールフィクション)が必要ないと言い切って尚無罪放免になる理屈があるとしたら、その仕込みはもうとっくに終わっているのだろう。

『ルイズちゃんの様子から察して言うけど、僕は何もしていないよ』

「それをわたしが信じると思うわけ?」

『彼は貴族の中でも所謂問題児でね。気に食わない平民を悪戯に痛めつけて、かつて学院から停学を言い渡されたりもしていたんだよ』

「あの生徒が問題児だからって、あんたがやったことは何も変わらないわよ」

 もしあの生徒が、罰せられて当然の立場だったとしても禊が裁く権利はない。
 それに、これまでも学院側から処罰を受けているのならば、それはもう決闘と同じく他人がとやかくいうことでもないだろう。

『彼は貴族のステレオタイプなのさ。平民を見下して自分の自尊心を満たしてた。そしてそれは彼の実家も同じでね』

 ルイズはこれまでとは違う意味で驚嘆していた。禊が計算しての行動だったのは思った通りだったが、やり口はこれまでと大きく違っている。

『そんなわけで、天下の貴族様が使い魔の平民にいいようにやられましたー! なんて認めちゃうわけにはいかないのさ』

「あんた、どこからそんな情報を……」

『ここは外界から隔離され閉じられた学院(せかい)だぜ? 自分の無能(ゼロ)がどれくらいの速さで学院中を駆け巡ったか思い出してごらんよ』

 学院という閉じられた世界では、あっという間に情報は伝達される。ここで一年以上生活してきたのだ。そんなのは禊に言われるまでもないし、問題はそこではない。

「誰かに聞くにも、あんたがクラスメイトとまともに会話できるはずがないでしょ」

『ルイズちゃんらしい貴族(プラス)視点だね。この学院で噂好きなのは何も貴族だけとは限らないよ』

 禊がプラスと言う時は、限って上から目線で物を見ていることを指してきた。そして禊の目線はいつも下から見下すように不愉快なのだ。
 プラスとマイナス。
 幸福(プラス)不幸(マイナス)
 そして、貴族(プラス)平民(マイナス)

 ――そうだ! あの平民(メイド)

 ルイズの中で、禊の決闘にわざわざ引っ付いてきた彼女の存在が繋がった。シエスタとか言ったメイドが、禊と他の平民達を繋げていたのだ。
 その情報網を駆使して、禊は学園や生徒の情報を集めていたのか。ギーシュとケティの浮気だって、その筋から確証を得ていたのかもしれない。

「学院で働く平民から生徒の話を……!」

『貴族は平民になら裸を見られても平気なくらい無関心なんでしょ? 言い換えると、平民の目線は、もしろ貴族の本心を覗くのに適してるとすら言えないかな。僕の国では“家政婦は見た”なんてタイトルの物語があるくらいさ』

「だからって、その問題児の生徒が決闘を見に来て、それを都合よく見つけられるなんて限らないわ」

 半ば自分の視野が狭かったというミスを指摘され、やけくそになったための返し文句だが、自分で言ってみて的外れではないと思った。
 これまでの話だけでは計画が偶然に頼りすぎている。禊に直接誘導されたわけじゃないなら、あの生徒には昼休みをどう過ごすかの選択肢と自由な意思が残っていたはずだ。

『そうかい? 平民を嬲って喜ぶ根っからのサディストなら、僕が合法的に虐められる決闘なんて、最前席陣取ってかぶりつきで観戦すると思っていたよ』

 ギーシュは自分で決闘をするという宣言を広げて回っていたのはルイズも憶えている。
 それを耳に挟んだあの生徒は、嬉々として平民がいたぶられる姿を見るため、早めに観戦する準備を整え一番よく見える位置を確保していたのだ。まさか自分が狩られる側に回るなんて思いもせずに。

「そこまで計算してたって言うの? だからこの後の展開も」

『家族からもあれこれ言われたみたいだし、よくて自主退学で引き籠り、悪くても勘当されて目が見えなくて喋れない浮浪者になる程度かな』

「貴族としての面子を守るため、向こうは泣き寝入りするってこと……?」

 これはあり得る話だ。自身の中身より家柄を大事にするような貴族なら珍しくもないことで、そういう貴族が年々増えているのはルイズだって知っている。
 どちらにしても問題児の人生は、もう取り返しがつかなくて終わっていた。手の施しようがない最低(マイナス)だ。

 そういう意味では、彼もまた不幸(マイナス)に堕とされたのだ。
 ギーシュと同じく、台無しにされ堕とされたのだ。

「何がしたいのよ、あんたは」

 どうして禊はここまでやるのか。
 何がしたくて、他人にこんな仕打ちをするのかがわからなくて、わからないから怖い。澄みきった禊の笑顔が気持ち悪かった。

『幼い子供ってさ、よく蟻とか小さな虫を潰したがるよね』

「ミソギの言ってる幼い子供が、貴族と同じだって言いたいの?」

『僕は、幼い子供に踏み潰される小さな虫達の気持ちを、君達にわかって欲しいだけなのかもしれないね』

「そんなの一方的よ!」

 貴族達が幼い子供だなんて偏見と間違いだ。少なくとも、平民と貴族にある格差にはれっきとした理由がある。

「貴族は魔法によって平民にはできないことをやって、その恩恵で平民達を守ってきたわ。平民が貴族に税金を払ったり、雇われて働くのはその代償よ」

 暮らしや身分の差があるのはいつだって貴族が前に出て、世界を引っ張ってきたからだ。
 より優れた力を持つ者が、持たざる者を守る。そうやってハルケギニアは長きに渡る繁栄を得てきた。

「そりゃああんたが言うみたいに、私利私欲のために他人を傷付ける貴族だって中にはいるけど、それは法に則って裁かれるべきだわ」

 禊みたいに自分の理屈だけで貴族を嫌い貶めていたら、国は成り立たない。だから今禊は学院中から危険視され忌み嫌われているのだ。

『それが持つ者・・・貴族(持つ者)の世界の人間だった。
 誰より貴族(プラス)であることに誇りを持った人間だった。

          ●

 平穏で退屈なトリステイン魔法学院の学院長室で、秘書へのセクハラに精を出すオスマンに急な報せを持ってきたのはコルベールだった。

 かつては偉大なメイジと讃えられ学院長の座に付いているものの、今は色ボケジジイでその名を馳せているオスマンである。
 だがコルベールの持ってきた書物と一枚のスケッチを見てその表情が一変した。

 鋭い眼光で秘書のロングビルに退室を命じ、コルベールに詳しく説明するんじゃと話の詳細を促す。
 これまで魔法を成功したことがなかった生徒が召喚した平民の使い魔。そんな彼に刻まれた見たこともないルーンに、学者としての知的好奇心を刺激されたコルベールは様々な書物を漁った。
 その末に辿り着いたのは始祖ブリミルについての文献だった。彼自身も全く想像していなかった事態である。

 始祖ブリミルとはまさしく神にも等しい、偉人として敬われている伝説のメイジでありハルケギニアにおいて知らぬ者はほぼいないだろう。
 そして世界最高峰のメイジが引き連れていた使い魔のルーンこそが、ルイズの使い魔に刻まれていたものと同じだったのだ。

 その名は『神の左手ガンダールヴ』。
 学者肌で、いつも周りに理解されない研究に精を出す変わり者のコルベールだったが、今度ばかりはとんでもないものを見つけてきた。それこそ場合によってはトリステインを覆しかねない大発見である。

 時代を塗り替えるかもしれない力を持ち、また一歩扱いを間違えれば同時に大惨事を引き起こす引き金になりかねない情報だ。まずはその真偽を確かめねばなるまい。
 これがただ偶然の一致だったならばそれでよし。もし、本当に……。

 さてどうしたものかと思案していた時、扉のノック音が聞こえてきた。そして部屋に戻ってきたロングビルが、ヴェストリ広場にて決闘が行われていることを告げる。

 決闘者はギーシュとたった今話題になっている件の使い魔。
 教師達は決闘を止めるため『眠りの鐘』の使用を求めているようだが、オスマンはそれを突っぱね、再び去っていくロングビルを見送った。

 暇な貴族は碌なものではないと思うが、これは絶交の機会である。
 オスマンが杖を振ると、部屋にかけられていた大鏡にヴェストリ広場の様子が映し出された。
 そこに映っているのは、決闘を観戦する多くの貴族達。その中心で杖を操りゴーレムに司令を出すギーシュ、そして槍で背を貫かれ地面に横たわり暴行を受けている使い魔の姿があった。

 数分見続けても、その状況に変わりはない。
 なんだ、やはり偶然の一致だったか。それよりいくら決闘とは言えこれはやり過ぎだ。
 仕方ないから『眠りの鐘』の使用許可を出し、やんちゃ坊主を叱り飛ばすか。などと思っていたオスマンは、すぐその両目を見開くことになった。

 ただしそれは『神の左手ガンダールヴ』の文献とは遠くかけ離れた、全く別次元の力によってだが。

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