仮面ライダー × FGO クロスオーバーSS(二次創作小説)

[作品トップ&目次]

「だいたいわかった」

 魔獣を全滅させて、洞窟の中で吹雪を凌ぎながら、休憩がてら立香達はその場に座していた。
 同時に自分の置かれた状況を改めて説明された士は、開口一番にそう言った。

 本当に理解できているのか、周囲の者達からすれば少々怪しいものではある。

「先輩、この状況はかなり不可解であると判断します」

 通信を介して会話している者を除いた、今この場にいるメンバーで、一番魔術関連について詳しいマシュがそう告げた。

「霊基グラフに存在しない士さんが現界したこと?」

「それもありますが、聖杯から喚ばれたサーヴァントであるなら、現状の知識は共有して召喚されるはずです」

「それは確かにそうだね」

 腕を組みうむうむ、と何度か頷き立香は同意した。

「それに門矢さんは、現状どころか聖杯戦争の知識すらほとんど有していません」

 以前聖杯から不安定な霊基で召喚されていたジャンヌ・ダルクも、聖杯戦争についての記憶はあった。士は必要最低限の知識すら有していないことになる。

『聖杯戦争の知識がないのなら、別の可能性を考慮すべきだろう』

 映像通信越しにホームズが会話に割り込んだ。

「別の……それは一体どのような可能性でしょうか?」

『例えば、彼は聖杯や世界のカウンター役とは別の手段でここへ喚ばれた』

「聖杯や抑止力の他にも召喚される手段がある?」

 ホームズの立てた仮説に、立香が即座に浮かんだ疑問を口にした。
 魔術の知識は深くない彼も、これまでの旅で通常形式の召喚以外にサーヴァントが喚ばれるケースには慣れている。
 しかし、この事象はそれらのいずれとも該当しないケースだった。

『あくまで可能性だよ。その答えは本人に聞くのが一番確実だと、私は思うがね』

「答え以前に、そのカウンターってのはなんだ」

『そうだね。士君は当事者だ、簡単に解説しよう』

 サーヴァントが召喚される条件はいくつかある。

 一つ目は聖杯を通じてマスターが召喚する方法。
 通常の聖杯戦争でならこの手続きがスタンダードとなる。

 今回の召喚は聖杯を用いていない。その代わりに、過去召喚したサーヴァント達の情報を丁寧に保管しており、それを用いて座から喚ぶ亜種的な方式を用いていた。
 そのため、本来ならここで召喚されるのは以前に契約した誰かのはずだったが、別の可能性が割り込みをかけたと思われる。

 二つ目は、聖杯がイレギュラーな手段で扱われた時。問題に対するカウンター役として自動で召喚が実行される。
 立香が戦った世界焼却においても、この手段で多くのサーヴァントが召喚されていた。

 最後の三つ目、世界が危機的状況に陥った時に、その要因を排除するための抑止力が喚び出される。
 これは二つ目に近いが、聖杯ではなく世界そのものが召喚するため、厳密には事象として別物だ。

『私は当初、三つ目の抑止力として、世界が最後の抵抗を試みたのだと考えたのだがね』

『それだと説明の付かないことがあるのさ。彼の霊基は通常と構成パターンが異なっている。マシュのような擬似サーヴァントとも違う。意外かもしれないけれど藤丸君が一番近い』

 イレギュラーケースの士を解析していたのだろう。ダ・ヴィンチが告げた。

「俺が?」

 立香は本当に意外そうな表情で自分を指差している。

『正確に言うとレイシフトしていた頃だね』

「レイシフト……でもあれはカルデアだけが使えるシステムだったよね?」

『全く同じではなく、近いんだ。門矢君は本来この世界に存在しない。しかし何かしらの方法で、彼はこの世界に存在証明が行われている形跡が見つかった』

 立香は本当に意外そうな表情で自分を指差している。

『正確に言うとレイシフトしていた頃だね』

「レイシフト……でもあれはカルデアだけが使えるシステムだったよね?」

『全く同じではなく、近いんだ。門矢君の存在は本来この世界にはない。しかし何かしらの方法で彼はこの世界に存在証明が行われている』

「えーっと、つまり……?」

 頭の中がこんがらがりつつある立香の横で、士はバッサリと話を切る。

「俺はここにいる。それ以外、気にすることなんてないだろ」

『こっちとしては非常に気になるんだけど……。それともう一つ。君はレイシフト状態でありながら、同時にサーヴァントとしての肉体を有している。問題はむしろこっちだね』

「そう言えば今の俺はサーヴァントってやつだったな」

 こちらについても士は思い当たる節があるらしい。だが、自分からは何も語ろうとしない。

『ちなみにクラスはライダーだよ』

「流石は仮面ライダー!」

「フォウフォーウ!」

 立香は目をキラキラとさせて、それに合わせて反応するようにマシュの腕に収まっていたフォウが鳴いた。

『ねえ、門矢くん、知ってることがあるなら教えてもらえないかなあ?』

「俺をここへ来させたのは鳴滝という男だ。あいつは平行世界を繋げる能力を持っている」

「平行世界ですか……ここが特異点の一種だと考えれば、並行世界を渡る能力は有効だと思われます」

『ふざけとるの? 個人でそんなものを保有しているなぞ、もはや魔法の領域ではないかね!』

 士の説明から可能性を見出したマシュに反して、魔術師の家系であるゴルドルフは納得がいかないらしい。

 本来、異聞帯への侵入は簡単な話ではない。
 シャドウボーダーも虚数潜航がなければこの地帯へは入れなかった。

「しかし、現実として士さんは今現在ここにおられます。その事実は変えようがありません」

『そのMr.鳴滝との接触は可能かな?』

「知らん。別に仲間ってわけでもない」

 やはりぶっきらぼうに彼は答える。まるで全てに対してやる気を感じられない。

「連絡手段は有していないのでしょうか?」

「ない。あいつはいつも勝手に現れるだけだ」

 そんな間柄でレイシフトさせたとなれば、それは立香が半ば詐欺のようにカルデアへ送られたに匹敵する理不尽さだろう。
 しかし、一応士も合意してはいたらしいので、とりあえずそこは不問とした。

「俺にとっては旅だ。そして、行先では戦いが待っている。今回もな」

『少なくとも門矢君は、世界を救うために召喚されたのは事実みたいだね』

 あまりに士の召喚は不可解で、ダ・ヴィンチとしても一旦そう結論付けるしかなかった。当人も否定しないので良しとする。

『私達としては門矢君に藤丸君と契約をお願いしたいな~。事情がどうあれ、私達には仲間が必要だという事実は今も変わりないよ』

 元々はクリプターを打倒する戦力を得るための召喚だった。
 しかもチャンスは一回こっきりで、やり直しはもう効かない。次に召喚できるタイミングがあるかどうかさえ怪しいのだ。

「断る。お前達の下でこき使われる気はない」

『なんだと! 形式はどうあれ貴様はサーヴァントとしてここへ召喚されたのだ。使い魔となって我々に仕えるのが当然だろう』

『まあ落ち付いてください新所長。どうやら彼は少々事情が特殊なようだ。それにMr.門矢は召喚方式が違うからか、現状でも霊基は安定している。今すぐ契約が必須というわけではない』

 召喚に使用した雷のエネルギー量では、短い時間しかサーヴァントの現界は維持できないはずで、喚び出してすぐの契約が必須だった。
 あらゆる事象がイレギュラーな士は、その有り様も他とは大きく違う。そして、そういう相手の意思を尊重するのが、立香のやり方だった。

「それなら、契約はしなくていいんじゃないかな。無理にさせるものでもないと思うし」

『けれどサーヴァントである以上、マスターなしで戦い続けるのには色々と制約がある。最悪、魔力が底をついて消滅もあり得るよ。それは門矢君の望む話でもないよね』

「マスター、士さんの意思はわたしも尊重すべきだと思いますが、ダ・ヴィンチちゃんのご意見ももっともです」

 戦力が他にもいるなら、誰と契約をするかしなかは選択肢がある。
 しかし今いる戦力は士を除いて不調のマシュのみ。戦況の悪さも考慮すれば、契約の必要性は考えるまでもない。

「うん、わかってる」

 立香はマシュに頷いてから士へと向き直る。

「士さん。俺もね、これまで色んな時代を旅してきたんだ」

 時間に置き換えれば二年半にも満たない程度だ。
 けれど、その中には数え切れないくらいの想い出が詰まっている。

「それは歴史を守るため、未来を守るための戦いだった。とにかく大変だったよ。つらくて、恐くて、痛くて……」

 楽な旅はどれ一つとしてなかった。
 挫けそうなことならいくらでもあって、それでも何とかここまでやってこれた。
 それも自分だけの力では決してない。

「俺は皆に助けてもらいながら、ただ必死に、自分のできることを精一杯やってきた」

 いくつもの世界があった。
 いくつもの出会いがあった。
 いくつもの別れがあった。

「だけど……」

 立香は静かに目を閉じた。
 考え事をするというよりは、何か大切なことを思い出すように。

「だけど、楽しかった。楽しかったんだ」

 旅の先で出会った皆は、どれだけ絶望的な状況でも決して諦めず、そしてある人は力強く、ある人は優しく、ある人は心から楽しそうに笑っていた。
 たくさんの話を、たくさんの英霊サーヴァント達と交わしてきた。
 だから楽しかった。

「旅の中で出会って、一緒に戦ってくれた英霊なかま達。最初は敵でも、今はとても心強く感じる反英霊なかまもいる」

 今だって皆の顔を思い出せば、折れそうになる心の支えになってくれる。

「皆と笑って泣いて繋いできた旅だった。そうしてようやく辿り着いた未来。それを俺はこんなところで、世界を真っ白にされたくらいで終わらせたくない」

 世界焼却を防いだ旅は、元々正しい歴史に戻った時点で消失する。
 全ては泡沫の夢のように消えていく。
 それでも、自分は憶えている。
 マシュも覚えている。
 カルデアのスタッフ達も。ずっと忘れずに残り続けている。

 誰が否定しても、誰に漂白されても、それらは決して消え去ることはない。

「俺は一人じゃ弱くて戦えない。それでも、まだきっとできることはあると思う。それをやりきりたい」

 もう一度、全力で走り出したい。
 そのために漂白された世界と極寒の地を、諦めずに歩き続けてきた。

「それにさ、俺、ここで出会えた士さんとも旅がしてみたいんだ」

 旅とは出会いと別れ。
 士の召喚は新たなる出会いだ。
 だから、この縁を大事にしたい。

 それもまた、藤丸立香の偽らざる本心だった。

「だから、俺達と一緒に戦ってくれないかな」

「先輩……」

 立香は目を開いて、右手を士へと差し出す。
 マシュはその様子を見て、自然と穏やかな微笑みを浮かべていた。

「そんなもの、口でならいくらでも言える」

 だが、それだけでは士の信用は得られなかった。明確な温度差が立香達と士の間にはある。

「契約とやらがしたいなら行動で示せ」

「それってつまり……」

「俺はここに通りすがって旅をする。ガイド役くらいならさせてやってもいいぞ」

『このサーヴァント、カルデアを使う側になると言っとるのだが!?』

 ゴルドルフのツッコミを無視して士は立ち上がる。
 差し出された手はそのままで、その甲に刻まれたマスターの契約はなされていない。
 けれどそれは、間違いなく一つの契約だった。

「俺はここに通りすがった。この世界を見て回るついでに飽きるまでは付き合ってやる」

「ありがとうございます、士さん!」

「はい。わたし、マシュ・キリエライトもよろしくお願いします!」

「フォフォーウ!」

「こちらはフォウさんです!」

 マシュは改めての自己紹介と、そして反応するように鳴いたフォウも抱き上げて主張した。

『うんうん。一先ず協力関係は結べたね。サーヴァントの契約はこちらを信じてもらえてから追々さ』

 今はそれでいい。
 一緒に旅してお互いをもっと知り合って、本当の仲間になれたのなら、その時は改めて契約をお願いしよう。立香はそう決めた。

「話はまとまったか。ならここから出ようぜ」

 これまで空気を読んで大人しくしていたパツシィが提案してきた。
 どうやらまた魔物が入り込んで来ないか見張っていたようだ。
 あるいは、士に倒されかけた恐怖から、誤解が解けても少し近寄りがたいのかもしれない。

「次はどこへ向かうつもりだ」

『次なる目的地は既に決まっている』

 特別顧問役の名探偵が、進むべき先を告げる。

『この世界の王……イヴァン雷帝の圧政を押しのけようとする有志達の集い、叛逆軍の隠れ家だとも』

前のページ     次のページ

モチベーションアップのために、良ければ品評価やコメントをお願いします!

 

仮面ライダー感想・考察ブログも書いています。
小説と同じくらい力を入れていますので、よければ読んでください!

[作品トップ&目次]