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FMO1章 第9節『Lの世界/ジェノサイドを食い止めろ』≫1

2024年4月21日

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 殺戮猟兵オプリチニキは機械的に街を巡回する。
 彼らは皇帝の畏怖そのもの。ヤガであればまず逆らう者はいない。
 もしいたとしても、武力によって無慈悲に即刻排除される。その性質から、彼らはもはや兵士というよりも監視システムに近い。

 故に、これから起きる一連の出来事には周囲のヤガはおろか、殺戮猟兵オプリチニキすら対応できなかった。

 いつものように街を巡回していた殺戮猟兵オプリチニキの死角から緑の異形が飛び出す。異変に気付き銃を構えようとしたが、異形は猛スピードで肉薄し、手にした鎌を振るった。
 発砲音は響かない。銃を持つ腕ごと切断されたためだ。

 理解が追いつかず腕の断面を見つめている間に、今度は首が宙を跳び殺戮猟兵オプリチニキは消滅した。
 これでこの街の管理システムは文字通り死んだ。

 異変は直ぐ様街に広まり、市長が何事かと状況確認へとやってきたが時すでに遅し。周囲に隠れて展開していた叛逆軍のヤガ達が、即に街を占拠し終えていた。
 そこで殺戮猟兵オプリチニキを倒した異形、水澤悠は街を取り仕切る市長と対峙する。

「貴様らは一体何だ!?」

「我々はイヴァン雷帝に反旗を翻す意思を持つ者達の集団だ」

「叛逆軍か……!」

 こうして叛逆軍による食糧強奪が始まった。
 そうは言っても戦闘はない。殺戮猟兵オプリチニキを瞬殺する戦力に、都市一つを占拠する迅速な動きと統率力は、街人達から反抗の意思を削ぐに十分な効果をもたらした。

 悠のやるべきことは相手の弱みにつけ込んだ交渉である。
 この都市は他の村や町のヤガ達から隠している秘密の狩場があるのだ。そこに入ったよそ者のヤガが殺害されたという情報もある。

 他にも、圧政に耐えかね逃亡を企てた辺境の村を売り、殺戮猟兵オプリチニキに媚を売っていた。
 そのため食糧の半分を強奪したとしても、この都市はまだなんとか生き残れる。
 叛逆軍は全て承知した上で奪いに来ていた。その事実を理解した市長は、大人しく悠の出した要求を飲んだのだった。

 都市を滅ぼすつもりなら食糧は容赦なく全て掻っさらうはず。
 そうしないのは、あくまで欲しているのは叛逆軍が生き延びるための量だから。それが手に入るなら何もせずに引き下がるだろう。

 下手に抵抗すれば、勝ち目がない上に犠牲だけが増えていくことになってしまう。
 ならば理不尽でも食糧を渡してしまうことが、最も犠牲の少ない落とし所だと市長のヤガも判断した。

 故に略奪は、量と内容の交渉だけで血を流すことな進む。
 その最中、たまたま叛逆軍と子供のヤガがぶつかり、その親と口論に発展していた。

皇帝ツァーリへの恩も忘れて! 恥知らず!」

「何だと! 俺の妹は殺戮猟兵オプリチニキに殺されたんだ!」

 そこにディエンドライバーを手にしている海東大樹が割り込み、双方に距離を取らせる。

「そこまでだ。無駄な口論だとわかっているだろう? お互い大人しく離れたまえ」

「っち」

「ふん!」

 過熱する前に物理的な距離を離してしまう。そうすれば、しこりは残っても一先ずこの場は収まる。

「海東さんが止めてくれたんですね。ありがとうございます」

 荒げた声が耳に届き、いさかいを止めに来たのだろう立香が頭を下げた。その傍らには士とパツシィの姿もある。

「略奪中に言うのもなんだけど……この状況、あまり良いとは言えないね」

「泥棒がそれを言うか」

 呆れた口調で士が横から茶化すが、海東は気にした風もなく続ける。

「僕はトレジャーハンターだけど、結果として誰かのお宝を掠め取ることもある」

 士の言った通りそれは泥棒では……? というツッコミを立香は飲み込む。トレジャーハンターとは一見夢のある職業だけど、現実は良くて怪盗に近そうだと理解した。

「だからわかるのさ。奪われる側の激しい怒りから、思わぬ反撃を受けることもある」

「そんなのは言われるまでもない」

「本当にそうかな、士? この都市は今奪われる側に立っている。今みたいな少しの火種から一気に燃え広がることもあり得るよ」

『一気に……』

「ああ、そうだともマシュ君。そうなると一番危険なのは都市の市民だ。サーヴァントである僕達なら手心を加えることもできるが、他のヤガ達はそうもいかないだろう。最悪、虐殺になる」

『虐殺……そこまで発展するのですか』

「おい、ボスは出発前に市民への危害は加えるなと念押ししていたぞ」

 海東の言に対してパツシィは不服そうに否定した。
 リーダーの悠は暴動にならないよう細心の注意を払っているし、ヤガはそんなに愚かではないと信じたいのだろう。

「周りを見渡したまえ。怒り、正義感、焦燥、恐怖。多くの人と弾圧行為が揃えばどうしたってパニックの引き金になる。そしてこの手の暴動は起きてしまうと制御できない。人もヤガも関係なくね」

『今の状況はミスター海東の言う通りだ。残念ながら虐殺が起きる条件は十分に整っている』

「……それなら、今は俺達にできることをしよう」

 ホームズまで肯定したのならもう認めるしかない。重要なのはそうならないよう先に対処することだ。
 今できることを全力でやる。立香にとってそれはいつも通りであり、忘れてはならない大事なことだ。

「そういえば海東、駆紋戒斗にはこの件をどう言っている?」

「略奪についてなら、彼にはあえて連絡してないよ。どんな理由であれ弱者から一方的に奪う行為を、彼は絶対許さない。特に今はバーサーカーで融通が利かないからね。伝えれば間違いなく同盟破棄さ」

『どちらの立場にも理由はあって……けれど、わたし達の行為はどんな理由を付けても、弱い人達への一方的な略奪です……』

 マシュの言葉と同様に、この場にいる誰もが息苦しさを憶えていた。
 したくてしている行為ではなく、誰かを傷付けたいわけでもない。

 しかし、これは必要悪なのだともわかっている。
 立香達は早く終ることを願って、暴動が起きないよう監視員に徹するしかないのだ。

「わかったのなら、君達は君達の持ち場へもどりたまえ。より広い範囲で見張るのが最善だろう」

 立香が頷いたその時、やや離れた位置から歓喜の混ざる叫びが上がる。

殺戮猟兵オプリチニキが来てくれたぞぉー!」

 突如、市民のヤガから叫びが上がった。
 途端に市民と叛逆軍の双方にどよめきが起こる。

 叛逆軍との交渉を引き受けていた市長も例外ではない。一転して歓喜の表情で悠へ強気の態度に出る。

「やった! 皇帝ツァーリは我らを見捨ててはいない! 叛逆軍ども、皆殺しにされると思え!」

「よりによってこのタイミングで……危険なのは貴方達だ!」

「なんだと?」

殺戮猟兵オプリチニキが貴方達を守ることはない。このままだと挟み撃ちになる」

「………………え?」

 予想外の言葉に、市長は思わず悠達叛逆軍と殺戮猟兵オプリチニキが来たと声の上がった方角を往復して振り返る。

「くそ、こうなったら戦うしか」

 早々に武器を構えようとする叛逆軍のヤガも出てきていた。悠はそれを強くたしなめる。

「まだ武器は構えるな! それより急いで食糧を運びだせ!」

 混乱を始めたヤガ達の間を立香達は走り抜けていく。

 悠は奇襲をかけてから高圧的に出て、素早く略奪を為そうとした。
 市長のヤガは犠牲者を出さないため奪われる量の交渉をするだけに留めた。
 彼らは敵対していても、一定のルールに則って互いの立場と生命を守ろうとしていたため、最低限のやり取りは成立していたのだ。

 しかし殺戮猟兵オプリチニキの増援が来てしまうと、その時点で問答無用に戦闘となり、多くの被害が出てしまう。

「まったく、言ってるそばからこれとはね。いくよ士、それにマスター君!」

「うん、虐殺は起こさせない!」

 市民達と距離を取りながら士と海東は変身する。
 迫ってくる殺戮猟兵オプリチニキが視界に入ると、ディエンドは即ディエンドライバーにカードを挿入する。

「僕はお宝を得るために人殺しはしない主義なんだ」

『KAMEN RIDE RIOTROOPERS!』

「頼んだよ、兵隊さんたち」

 召喚されたのはライオトルーパー。量産型が特徴であるため一度に三体を召喚できる。
 彼らはアクセレイガンを短剣状にして殺戮猟兵オプリチニキの軍勢へと向かっていく。
 とはいえ所詮は量産型。大量の敵が相手では時間稼ぎがいいところだ。

 最初からそれを加味して海東はこのカードを選んだ。
 迫る殺戮猟兵オプリチニキが振り切った手鎌と、ライオトルーパーの握る短剣がぶつかり合い硬直する。そこへディエンドの弾丸が降り注ぐ。
 そこから抜けてきた残りの敵を、ディケイドがライドブッカーで切り裂き倒していく。

「この調子でなんとか食い止めて!」

『いや、残念だが始まってしまった』

「え……」

 それはホームズからの無情な報せだった。
 別方向から奇襲をかけていた殺戮猟兵オプリチニキが叛逆軍へと襲いかかっていく。
 アマゾンオメガが応戦しているが、とても追いつく数ではない。

「ぎゃああああああああ!」

「ぐげえ!」

皇帝ツァーリの威光に陰りを持たせる者に死を。安らかに眠れ」

 あちこちから悲鳴が上がる。
 その叫びは叛逆軍のものだけではない。
 殺戮猟兵オプリチニキが外した弾が、市民のヤガへと直撃する。

 彼らの優先事項は叛逆軍の殲滅。そのための被害は配慮せず、ただ戦い続けるだけ。
 市民を逃そうとする者はこの場に存在しない。最前線で一人でも多く殺戮猟兵オプリチニキを相手取ろうとする悠にもそんな余裕はなく、皆自分が生き残ることに必死だ。

「この! くそ!」

「ぎゃあ!」

 叛逆軍の一人が撃った弾が市民に当たった。それを見たパツシィが胸倉を掴んで凶行を止める。

「おい! 市民を撃つな!」

「こいつは武器を持ってるだろうが!」

「あれはただの箒だ! よくみろ!」

「あ……」

 パニックに陥った叛逆軍は、焦りと恐怖から市民の戦意すら見分けられない。全て海東の言った通りだった。

 そして叛逆軍が市民を傷つけると、市民のヤガ達も銃を手に取り防衛と報復という名の応戦を始める。
 恐慌へ至った流れはもう止められない。殺戮猟兵オプリチニキと叛逆軍と市民が入り乱れる地獄が始まった。

 


 

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