仮面ライダー × FGO クロスオーバーSS(二次創作小説)

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 檄文の配達を終えてカルデアに戻ったマシュは、その足でダ・ヴィンチの身体検査を受けた。
 立香達を呼び戻した要因の一つが、この定期検査だった。

 検査自体は一通り終えて、メディカルルームでマシュとダ・ヴィンチは二人で向き合う形で椅子に座っている。

 万能の天才ダ・ヴィンチ。
 男だったはずの天才は、彼自身が描いた理想の女性へと姿を変えた。
 そして、今はその姿形すらも捨て去って、愛くるしく幼い美少女へと変貌している。

 その経緯を知らなければ、彼女がかのダ・ヴィンチだと推察できる者はまずいないだろう。
 もっとも、二度目の変貌は彼女自身が望んだものではなかったのだが……。

 今はその姿でありながらカルデアの技術顧問を務めている。

 ダ・ヴィンチが検査結果を確認している姿を、マシュは緊張しながら見つめていた。
 必要なものだったとはいえ、無理を押してのサーヴァント化。そして戦闘だった。
 身体への負荷は相当にあるはず。

「メディカルチェックはこれにて終了~☆ うむうむ、大きな異常はなし」

 マシュの予想とは裏腹に、ダ・ヴィンチから伝えられた検査結果は良好だった。
 そんなはずはない。だって、事実として前回の戦闘もサーヴァントとしては満足に戦えていなかったのだから。
 門矢士が召喚されなければ、一人で藤丸立香を守り抜くことは到底できなかっただろう。

 マシュの不安を先読みしたように彼女は続ける。

「サーヴァントとして不安定なのは相変わらずさ。でも人体としては問題なし。から話していることを除けばね」

 マシュは疑似サーヴァントと呼ばれる特別な存在だ。その影響もあり、かつてのマシュは短命の宿命を背負っていた。
 しかもこの体は今、人間とサーヴァントのバランスが大きく崩れている。
 現在の彼女は、戦闘ではかつての力を半分も引き出せていない。

「あの、ダ・ヴィンチ技術顧問。少しお話をしてよいでしょうか?」

「ん? 改まって何の話かな? 私で力になれるジャンルかい?」

「…………率直に質問します。わたしはあと何度、サーヴァントとして戦闘できるのかを」

 今の体が万全とは程遠いのは、自分が一番よくわかっているつもりだ。
 それを気遣ったダ・ヴィンチはきっと大事なことを伏せているに違いない。

「うーむ……」

「デミサーヴァントとして活動できないことは分かっているのです。それでも、わたしはもう一度前へ出ないと……」

「う――ん……むむむ――うぅぅ……」

 マスターの前に立って、守らないと。
 しかし、ダ・ヴィンチの反応はマシュの想定を越えていた。
 首をひねって考え込む仕草は、今の幼い姿だとむしろ可愛らしいのだが、そこまで伝えにくい程悪いのだろうか。

「ええと、その、ダ・ヴィンチ技術顧問?」

 しばらくすると彼女は決心したように、マシュと正面から向かい合う。。

「いいや、伏せるのも遠回しな回答もやめやめ! あと何回か。その質問は不適切だ」

「それはどういう意味でしょうか?」

「キミはもう何度でも戦える。一年をかけて眠らせていた霊基はもう目覚めてしまったからね」

 ダ・ヴィンチは幼い微笑みを向けて、マシュの考えとは真逆の回答をした。

「そうだったのですか? ですが、わたしの中にいたギャラハッドさんはもう」

 マシュを疑似サーヴァント足らしめていた存在である英霊ギャラハッドは、人理焼却の戦いを終えるとマシュの中から去った。
 何も告げず教えることなく消えたのだから、ダ・ヴィンチから見てもそれは無責任な行為だと感じている。
 しかし、それでも彼女は戦えている。つまり、

「もうキミは、あの戦いを通して、ひとりの“盾の騎士”として成立できるぐらいに成長した。キミに憑依して霊基を譲り渡した英霊とマシュ・キリエライトは別の存在だ」

 本来ギャラハッドとマシュは縁もゆかりもない別人だった。故に彼が去っても疑似サーヴァントとしての力は、マシュの中に今もそのまま残っている。
 ギャラハッド由来の能力スキルは喪失したが、戦うに足るだけの性能はマシュの中で眠っているのだ。

「ならばわたしは、再び戦えるように――皆さんのお役に立てるんですか?」

「問題はいくつか残ってはいるよ。一つはギャラハッドが抜けたことで、キミの霊基は大幅にレベルダウンした。けれどまあ、これは対応策がある」

 カルデアにとっては、ギャラハッドの力によりマシュが強化されたのは偶発的な要因が大きい。
 異常事態から特異点解決がスタートして、切迫した状況を解決するため例外ケースをそのまま運用していたようなものだ。

 ギャラハッドが消えた喪失分の力は別の形で補填する。むしろそちらこそが正道であり、オルテナウスと名付けられた計画だった。

 そういう事情を簡潔にまとめながら、ダ・ヴィンチはマシュに説明した。
 彼女は自分がまだ戦えるという事実を上手く飲み込めていないようだったが、容易く納得できるようなら、彼女はもっと己の力を引き出せていただろう。

「問題はもう一つの方だよ」

「もう一つとは?」

「これは以前君の体内から未知の成分が検出された件の続報だ」

 未知の成分、と聞いてマシュの体が強ばった。
 この話は以前にも聞いている。最初はシャドウ・ボーダーでの逃亡中、一度目の検診でだ。

 元々はクリプター襲来により生じた、突発的な戦闘の影響を見るためのメディカルチェックだった。
 検査結果は全て正常値。しかし一つだけ、これまで検出されたことのない成分がマシュの体内から発見された。

 サンプルケースは他になく、肉体にどういう影響を与えるかもまったくの不明。
 そもそも、カルデアで生まれたデミ・サーヴァントのマシュは体調管理は繊細かつ入念に行われてきた。

 それも主治医は長らくロマニ・アーキマンであり、彼の消滅後はダ・ヴィンチの担当として引き継がれている。
 突然未知の成分が検出されるなんて、通常なら考えられない事態だった。

「成分Xに何かしらの変化が起きていたのでしょうか?」

 成分Xとはカルデアにいたアサシンを由来とする仮の呼称である。
 あまりに例がなくて、ダ・ヴィンチが命名にすら迷っていたところをマシュが提案した。

 この子のネーミングセンスは時々不思議なところに着地する。多分マスターの影響だろうと、ダ・ヴィンチはスルーした。

「それがごく微量ながら、成分値……というか濃度が高くなっている」

「そ、そうなのですか。最初の検出報告を受けた時と同様ですが、自分では自覚症状らしきものは体感できていないので、あまり実感はわきません」

「未知の成分が増えていて、有効な対処法も不明なままなんだ。微量とは言えこれだけは慎重にならざるを得ない」

 万能の天才と名乗るダ・ヴィンチとしては自身の不甲斐なさに歯噛みしていた。

「マシュがシャドウ・ボーダーで生活していた間は値に変化はなかった。なら、藤丸君と探索していた中での行動が影響を与えている可能性が高い」

「それは、もしかしてサーヴァント化でしょうか?」

「その可能性もあるけど、まだ何とも言えないかな」

 成分Xがマシュに注入されたタイミングと方法はある程度絞られている。

 ダ・ヴィンチはマシュの主治医となったものの、ロマニ亡き後は彼女がカルデアの最大責任者であり、様々な業務に日々追われていた。
 マシュの定期チェックはできる限り自分の手で行っていたが、どうしても手が離せない時は他の技能ある職員に頼み、最終確認のみをダ・ヴィンチが行っていたことが数度あった。

 その中の一度が、ゴルドルフ達のやってくる前日に行われていたのだ。
 またマシュからの話によると、この時は特別なチェックにより短期間だが睡眠状態にあったらしい。

 ダ・ヴィンチはそのような指示は出していないし報告も受けていなかった。
 この時に提出データを改竄されていたら、ダ・ヴィンチには確認する術がない。

 正確な検査データのバックアップも、犯人と思わしき人物の命も、カルデアに置き去りとなったのだから。
 犯行に及んだ者はカルデア崩壊の日に、殺戮猟兵オプリチニキによって殺害されていた。

 マシュにとって一番のショックは、成分Xを注入されたことよりも、苦楽を共にした信頼するカルデア職員に裏切り者がいたことだ。
 今でさえ、何かの間違いであってほしいと思っている。

 そして一人の裏切り者が発覚したのなら、他のメンバーも疑ってかからねばならない。
 成分Xと裏切り者の情報は、シャドウ・ボーダーの混乱を防ぐ意味合いから、二人を除けばホームズにしか開示されていない状態だ。

 今やマシュのメディカルチェックは完全にダ・ヴィンチが専属となっており、その他ボーダー内のデータは全て彼女の管理下にある。
 ダ・ヴィンチがボーダーと接続可能なのが幸いして、極秘裏かつ自然に裏切り者対策が実行できていた。

 立香にまで伏せることにはマシュが難色を示したものの、今は状況が状況だ。
 マシュの体調問題を知れば、彼は余計な心配を抱え込んでしまう。
 戦いの場では過剰な心配が致命的な判断ミスに繋がりかねない。
 彼には折を見て早めに話すということで、マシュには納得してもらった。

「ロマニがいたら大目玉……いや、ごめん。これはわたしが言うべき言葉ではないね」

 これは言い訳だ。
 ロマニがいたらきっとどうにかできていた。そういう弱気な感情からついこぼれ落ちたものだ。

 それに今のダ・ヴィンチはロマニと直接の面識はない。あるのは記憶だけ。

 失敗しちゃったなあ……。
 彼女は心の中で反省する。

 普段ならともかく、環境的にも戦況的にも追い詰められつつある状態。しかも仲間の中にも裏切り者がいるかもしれない。
 不安が積もる中で率先して皆を引っ張っていくべき自分が、軽々けいけいと口にしていい名前じゃなかった。

「いいえ、ドクターならきっと困った顔をして、けれど前向きに解決方法を模索するのではないでしょうか?」 

「ああ、確かにそうかも」

 突っ込むのはそっちなんだ。とダ・ヴィンチは苦笑する。

「あ、いえ。すみません! 言いたいのはそこではなくて……ダ・ヴィンチちゃんが怒っているドクターの姿を想像したのは、自分を奮い立たせるためだと判断しました」

「私自身を、か……」

 なるほど、そういう解釈もあるのかもしれない。
 もっとしっかりしろと、そう怒っているのは自分の中のロマニ。結局それは自分自身なのだ。

 マシュは自分の胸に手を当てて目を瞑る。 

「それに、わたし達はたくさんの犠牲の果てにここまで辿り着きました。もう会えない皆さんのことを思うと切ない気持ちにります」

 ですが、と続けて目を開いた彼女は微笑んだ。

「思い浮かべた皆さんの顔は笑顔で、胸にあたたかさが広がるのです」

 ダ・ヴィンチが怒ったロマニを思い浮かべたのと同様に、それはマシュの心象風景なのだろう。

「今はとても厳しい状況ですが、皆さんことを思い浮かべると、今を繋げるためのもう一歩を踏み出せます。ドクターロマン、所長、英霊の方々、局員の皆さん……そして、もう一人のダ・ヴィンチちゃんも」

 マシュは本当に成長した。肉体的な強度ではなく心が。

「だから、ダ・ヴィンチちゃんの言葉はとても好ましいと感じられました」

 だからこそ、次なる試練はきっとマシュの心を強く苛むだろうとわかってしまう。

「ありがとう。そう言ってもらえると、カルデアにいた私も浮かばれるよ」

 記憶や人間性を引き継いだためダ・ヴィンチはかつてと同じように話し、振る舞っている。
 それはごく自然な行為であり、元々サーヴァントとはそういうものだ。
 それでも、かつてカルデアでの日々を過ごしたのは、やはり今ここにいる彼女ではない。

 背後から冷たい凶刃に胸を貫かれながら、それでもマシュ達に未来を託して消えたダ・ヴィンチは、あの場にいた彼女だけ。
 あの時の『ダ・ヴィンチ』もちゃんとマシュの中で微笑んでいて、彼女と一歩を進ませる力になっている。それが嬉しかった。

「まあ、とにかく成分Xに関してはこれからも慎重に経過を観察するとして……」

 どのみち、この問題は解決に時間はかかる。
 もちろん解析は進めているが、いかんせんシャドウ・ボーダーの設備では限界があり、進捗は芳しくない。

「マシュ、もう君は戦える。大事なのは君の気持ちだ。これが最後の問題」

「わたしの気持ち……」

 もし、彼女の体が本当にボロボロだったとしても、再び藤丸立香を守る盾となってほしいと言えば、マシュは必ず首を縦に振るだろう。その確信がダ・ヴィンチにはある。
 しかし今回の戦いは、これまでとはある点において大きく違う。

 自分の命と引き換えとはいえ、ゲーティアの全力からすら立香マスターを守り抜いた盾の騎士。
 それでもこれから直面する出来事は防ぎようもない。
 ただ、一緒にぶつかり一緒に苦しむことはできる。

 確定には至ってないが、確信するだけの材料はもう揃っていた。
 そして、このことはマシュも薄々感じ取っているのだろう。

 あの名探偵ならまだまだ焦らしているところだろうけど、天才の才能は知らしめてこそ意義が出る。
 だから、ダ・ヴィンチはあえてマシュに事実をぶつけることを選んだ。

「マシュ・キリエライト。キミは“相手が何の非もない隣人”であっても、自分の正義の為に戦えるかい?」


次回で第一章第一部完結な予定です。
(更新自体はその後も平常通り続きます)

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