仮面ライダー × FGO クロスオーバーSS(二次創作小説)
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門矢士の旅はある日突然、誰からの言葉も何の前触れもなく、唐突に終わった。
もし、その終わりに始まりがあったとすれば、恐らくはこの時だろう。
士は今日もまた一つ旅を終えて、光写真館へと戻ってきた。
様々な世界を巡り、けれども物語のない彼の旅に終わりはない。
かつては世界を救いながら自分という物語を探すの旅だった。
今は旅こそが士の物語なのだ。
いつものように、士がトイカメラの写真で切り出した世界は歪んでいた。
それを現像した店主の老人、光栄次郎は「士君にしてはよく撮れている」と好意的に微笑む。
確かに歪んではいたが、その世界で出会った人達は一様に楽しそうで、不思議と彼らの笑顔が強調されるように加工されているようにも見える。
その評価に対して何故か尊大な態度で栄次郎が淹れたコーヒーを飲む士に、それを呆れ顔だけど楽しそうにツッコミを入れる小野寺ユウスケ。
そして彼の反省を促すように、店主の孫である光夏海が『笑いのツボ』を押して、強制的に士を爆笑させる。
そんな彼らの周りを、小さな白いコウモリ形のモンスター、キバーラが自由に飛び回っていた。
いつもの旅。
いつもの日常。
だから次もきっとそうのだろう、皆が思っていた。
そして次の旅、その行き先を示すように写真館の撮影スペースにある、背景の絵が下ろされる。
「なんだ、これは?」
下ろされた背景を見た士が、最初に疑問の声を上げた。
毎回、次の旅先を暗示するような絵が現れて、次の世界へと移る。
その絵が、明らかにいつもの様子と違ったのだ。
いや、正確に言えばおかしかったのは絵ではない。
そこにあるのはただの無地で、何も映っていなかったのだ。
「これは、どういうことでしょう?」
夏海も不思議そうに小首を傾げる。
こんなことは今まで一度もなかった。
「おかしいなあ?」
「私は何もしてないわよ?」
栄次郎にも思い当たる節はなく、元々敵のスパイだったキバーラは自分の仕込ではないと疑われる前に否定する。
「まさか、今回で旅は終わりってことか?」
ユウスケは何も映ってないことから連想した思いつきだった。
「そんなのはここを出てみればわかる」
「あ、ちょっと待ってくださいよ士くん!」
行動力のあり過ぎる士は夏海の制止を聞かず、一人先んじて店の扉を開き外へ出た。
彼のマイペースと自由さに皆が振り回されるのはいつものことである。
けれど、外の光景は写真館全員の予想を遥かに超えていた。
最も近いことを言い当てたのは、旅の終わりを口にしたユウスケだっただろう。
外には何もなかった。
ただただ白一色の世界。
他には何もない。
白い地面だけが延々と広がっており、空だけが青く澄み渡るような快晴だった。
白しかないのだから、写真館の絵も白しか描きようがなかったのだ。
「おい――」
士は思わず振り向いて事態を報せようとした。
「嘘だろ…………」
しかし振り返った先も、虚無の白以外にはなかった。
写真館はいつも外観だけを変えて、世界の何処かと繋がっている。
もし、繋がる建物すら存在していないのなら、写真館もまた存在し得ないのだ。
彼があちこち振り向いてみても、色の付いた物は何も見当たらず、写真館の皆がどこに消えたのかもわからない。
士はたった一人、白の中に取り残されてしまった。
「何がどうなってる!」
ややこしい話は『大体わかった』の一言でバッサリ切り捨てる彼だが、こうも情報がなくてはそれすらできない。
「世界は漂白されました」
不意の声が耳に届くと同時に、視界に闇が下りてきた。
突然夜になったかのような現象。
しかしこのまま延々と白いままよりはマシだったろう。
それにこの声には聞き覚えがあった。
「久しぶりにお前か、紅渡」
呼びかけた主へと振り返った士はそう返した。
彼が過去に渡った世界の一つ、キバの世界。そこにいた仮面ライダーキバのオリジナルといえる存在である。
かつて彼は世界の融合と崩壊を止める方法として、世界を旅して破壊せよと命じた。
始まりを伝えた男が久方ぶりに、士の前に現れた。
その意味は士も薄々察している。
「こういった形で再び貴方の前に現れるのは、僕としても不本意です」
「そういうのはいい。世界が漂白されたってのはどういう意味だ」
「貴方が今さっき見たままです」
渡は無表情で告げる。
あれが今地球の全てに起こっていることなら、それは世界の終わりを告げられたに等しい。
「何故こうなった。全ての世界がこうなのか」
「ある者達が世界の地表にあるもの、テクスチャを全て書き換えました。かつて世界にあったものは全て喪失したと言っていいでしょう」
「なんだ、それは……なつみかんやユウスケ達はどうなった」
「光写真館が漂白された世界と繋がった時点で消失しました。彼らだけじゃない、未来が全て白紙となったのです」
信じられなかった。信じられるわけもなかった。
士にとって旅とは戦いでもあったのだ。
「抵抗していた国も人達も、貴方が様々な世界を旅している間に漂白されました。貴方が先ほどまでいた世界もじきにそうなります」
「これは……」
周囲の暗黒にいくつもの地球が現れる。
以前に何度か見た平行世界の映像だった。
けれど、今そこに浮かんでいる地球はどれもこれもが白い。
これが今の世界だと、これ以上ない程わかりやすく突きつけられた。
「じゃあ、俺のこれまでの旅はなんだったんだ!」
「貴方の旅は終わりました」
世界を繋ぐ旅が、出会いが、全て白に塗り潰されていく。
抵抗もできないまま、気が付くと全てが終わっていた。
「しかし、まだ抗う術は残されています」
「それはどうすればいい」
「僕を含む多くの仮面ライダーは聖杯と契約を交わしました」
「聖杯?」
「万物の願いを叶える器。そこには過去偉業をなした英雄達の魂が収められている『座』があります」
それは士の知る仮面ライダーというシステムや力とはまったく異質なものだった。
「聖杯には人の歴史を守護できる力がある。仮面ライダーを終末への抵抗力として取り込み、彼らもそれを受け入れたのです」
「その聖杯とやらと契約するとどうなる」
「聖杯を通じて、僕達は召還されます。そして召還したマスターと契約を交わし、世界を漂白した者達との戦いに参加できる」
未知の話。
そして未開の世界。
異質にして異端。それは仮面ライダーという在り方すらも変えてしまうものだった。
しかし、もはやこうでもしなければ抵抗することもできないのだろう。
「聖杯との契約を交わした仮面ライダー達は、ある者は召喚を待ち、ある者は戦いを始めています。仮面ライダーディケイド、貴方も聖杯と契約して戦いに参加してください」
士は目を閉じた。
思い浮かぶのは光写真館の仲間達。
旅してきた世界で出会った者達。
そして……。
「断る」
「何故ですか?」
渡にとって彼の返答は予想外だったのだろう。
門矢士もまた様々な敵と戦い人々を守ってきた存在だったから。
「俺は旅を続けるだけだ」
「もう旅をできる世界なんて残っていません」
「随分と真っ白になったが、俺はまだこの世界を見ていない」
ついさっき真っ白な大地に立って周囲を見回したばかりだ。
士にとってはまだそれだけ。他には何も見ていない。
「俺の行く先は俺が決める。それだけだ」
「……そうですか。あの時も貴方は壊すはずの世界で仮面ライダー達と手を取り合った」
思えば、元々彼はこうなのだ。
自分がやるべきことは自分で決める。やろうと思ったことをする。
彼は終わっている旅を、なお続けるという選択をした。
「貴方はまた間違った道を歩む」
「ならその正解とやらを決めるのは誰だ?」
紅渡は何も答えず背を向けて去っていく、世界は再び白一色に戻っていた。
士は一人で、再び歩き出す。
世界はどこまで行っても白かった。
白くて、白くて、ひたすらに白くて、白しかない。白しかなかった。
これだけ何もないとどれだけ歩いたかもわからず、時間の感覚もわからなくなってくる。
それでも行く。
そうすべきだと思うから。
「なんだ、やっぱりか」
白い世界が、白いままに歪んだ。そこからコート姿でメガネをかけた一人の男が出てくる。
「おのれディケイドォ!」
「今はお前のような奴でもありがたく感じるから最悪だ、鳴滝」
それは予定調和なやり取りで、白一色の大地で士はむしろ心地よさすら感じていた。
「クリプタ―達の計略により世界は漂白されてしまった!」
「それが敵の名前か」
渡の言っていたある者達というのが、クリプタ―と呼ばれる連中なのだろう。
世界規模の事件だ。ショッカーのような組織を作っていると考えた方が自然だ。
「そうだ。そして奴らに抵抗できるのは歴史から切り離された存在。ディケイド、お前しかいない!」
「切り離されたとは酷い言いようだな。そういえば、何で俺は無事だったんだ?」
光写真館さえ消失したのに、士は変わらずここにいる。
まるで世界から除け者にされような気分だった。ある意味、いつものことだが。
「ディケイド、世界の破壊者であるお前には物語がない。即ち漂白される歴史もない」
「やっぱりか……。じゃあお前はなんだ鳴滝」
「知れたこと。お前がいるならお前を倒すため私もいる」
説明になっていないが、士にはそれで十分だった。
この男ならば、きっとこの状況でも己の前に現れる。
目を閉じて頭の中に鳴滝が浮かんだ時、不思議とそう確信した。
「鳴滝、お前なら知ってるんだろ。どうすれば世界を救える」
「世界を救うだと? お前には無理だ」
「なんだと?」
「そんなもの決まっているだろう。お前が世界の破壊者だからだ」
結局、士はライダー達を倒して世界を破壊することでしか、世界の融合を止められなかった。
破壊からしか創造は生まれない。
「なら、俺はどうすればいい」
しかし今この世界には何もない。
何もなければ破壊もできない。
「ディケイド、お前が旅以外何をするというのだ?」
それは渡とは全く異なる答えであり、なによりも士の望んでいたものだった。
「お前に物語はなく、だから世界を求めて旅をする。終わらない旅こそがディケイドの物語」
「ああ、その通りだ」
それこそが聖杯の協力を拒んだ最大の理由。
聖杯に喚ばれ戦うだけの存在は、もはや自分では、ディケイドではない。
鳴滝と士はどちらともなく笑みを作った。
この男は敵でありながら、同じ仮面ライダーであるはずの渡より、むしろ士をよく知っている。
「行け、私の宿敵! 旅する仮面ライダー!」
鳴滝は歪んだ空間を指し示すように腕を伸ばす。
行き先はわからない。
行った先で誰と会うのか、何を求められるのか。
それもわからない。
それでいい。
それがいい。
ずっとそれが門矢士の旅だった。
だから行く。
宿敵に導かれて、新たな道を歩き出す。
「行ってくる」
迷うことなく、時空の歪みへと入っていく。
二度目の旅立ちは一度目と同じく唐突に始まった。
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