「俺は言ったぞ、勝つってな」
「愚かな、穢れた魂はまだ敗けを受け入れないか」
 武器がないから勝てない。
 そういう考え方が、質の悪い魔導師を量産させるんだよ。
 素手で勝てなければ、ナイフを持てばいい。
 ナイフで勝てなければ銃を弾けばいい。
 ちょっと前にも同じ手を使用したのが、俺という人間の限界を感じさせる。
 しかし真に大事なのは生き残りであるという観点から、あえて問わない選択をしておく。
「たっ君は、優しくないけど、穢れてなんかないよ」
「何奴だ!」
 声の主は、ダイセイオーより高い位置で魔方陣を展開し、杖――レイジングハートの発射態勢を整えていた。
 おいでませ、白い悪魔さん。ダイセイオーが赤くないのが、ちと残念である。
「エクセリオンバスター!」
「むおおう!」
 魔力砲よりは桜色の激流と呼んだ方がしっくりきそうな一撃が、ダイセイオーを吹き飛ばした。
 ダウンせずに空中で踏み留まったのは、中身が腐っていても強化型ってとこだろう。
 少女に力押しされる巨大ロボ、存外絵になるな。シュールな方向性限定で。
「俺の勝ちだ」
「どこがだ、たまたま仲間が着ただけだろう」
「だって俺の役目は時間稼ぎだったし」
 ならば仲間が来た時点で俺の勝利だ。勝利条件晒した憶えもないから、言ったもの勝ちだ。
「敵との接触は気づかれている。そこから前回の叶の結界解析にかかった時間を考慮すれば、救援が来るまでの時間は大まかに割り出せる」
 俺のスタンスは力を技術でからめとる。パワーバトルはパワーファイターにお任せすべし。持ち味を生かすのは大事なのさ。
 けど、本郷がすぐにカッとなる我慢のできない現代人じゃなければ、これすら難しかった。
「屁理屈を。それに、貴様達が得意な卑怯の一手にはもう慣れた!」
 慣れるだけで、対応策は講じていないのがいかにも本郷だ。
 同じ“正義の味方”でもプロとアマの差は埋め尽くせない溝をあけている。
 ダイセイオーはすぐに立ち直り、乱入者を敵視。
 なのはは視線を受け止めるが、巨大ロボが敵であるまさかの事実に戸惑っているようである。
 しかしそれだけで終わる管理局のエースではない。
「はぁっ!」
 金色の大剣が、バランスを失っているダイセイオーの顔面に叩き降ろされた。
 黒と金がよく似合う少女フェイトのお出ましだ。
「ふごぉ」
 また間抜けな声を上げ、バランスどころかコントロールまで手離した巨塊は、陸へと不時着を余儀なくされる。
「やほーいフェイフェイ」
「たっ君達は無事みたいだ」
 巨大ロボをなぎ倒した少女は、安堵し表情を和らげる。
 フルコース料理なら、これでもまだ足りないよな。
「響け終焉の笛」
 立ち上がる間も与えはしないと、詠唱を開始したのは黒き翼と白いバリアジャケットのはやてだ。
「ま、待て、三対一なんて卑怯だぞ」
 お前は何体合体してんだよ。
 慣れた卑怯の中に多対一は含まれていなかったようだ。
「ラグナロク!」
 三角形で形作られたベルカ式の魔方陣の各頂点から3連の砲撃が発射された。
 ダイセイオーへと着弾した魔力は拡散しダイセイオーを包み込む。
「うぐあばばばばばば!」
 意味不明な奇声を上げながらダイセイオーは広域魔法の中でもがきあがく。
 ポーズは犬掻きだったり平泳ぎだったり。リアクション芸人にでもなればいいのに。
「ふごー、ふごー、ふごー」
「なんて装甲なんや……」
 はやては、自分が使用できる最大魔法を受けてもまだ、戦闘続行可能なロボに目を見開いている。
 先になのは達が仕掛けているし、破壊が困難であることは否定できない。
 俺の仕事はまだあるようだな。
「やってくれたが、今度はこちらの」
「アハハハハハ!」
 ダイセイオーが戦闘再開を宣言しようしたが、甲高い笑いが打ち消した。
 頭上には巨大な魔方陣が出現している。
「おいおい、マジかよ」
 輪廻さんが展開したと思われる白銀の円。そこから召喚された最後の一機は――
「球太郎改、推参!」
「推して参らなくていいから帰れ。脱衣マシンと男の娘」
 球体のみで形成された脚のない戦闘兵器。やたら凶悪なデザートがまだ後に控えていた。
 腕の近く、肩部に該当するのだろうか、見慣れない球が二つ追加されている。
 しかしあのディテールは間違いなく、俺を非日常に突き落した、あの球太郎だ。
 犯人捕獲用と言っていたが、マジだったのか?
 しかも強化までしちゃって、輪廻さんの本気感が伺えてすごく嫌なんだけど。
「トルバドゥールが造り上げた巨大兵器か!」
 お恥ずかしながら、Exactlyだよ。
 おまけに強化型は中の人までいやがる。巨大ロボと女装趣味の組み合わせって、どんなけ狭範囲の需要を狙い撃ちしにきたんだ。
「行くわよ無敵に素敵なスーパーロボット!」
 すごいハイテンションでノリノリにポーズを決める鏡とロボットが心底ウザい。
 ここまで割と充実していた俺のやる気が、大根おろしにかけられたようにごりごり削られてく。
 もうお家に帰って、円の膝の上でごろごろすーはーくんかくんかしたい。やったことないけど。ないんだよ!
「拓馬」
「なんだ?」
「今北産業」
「め。ど。い」
「ノリが悪いわよ」
 一言を3つに区切ってみた。駄目だった。
 ノリとか言われても、そののっぺり面を見ただけで、俺のモチベーションはガタ落ちなんだよ。
 ボスボロットのような表情変更装置を設けてから出直してこい。
 ふと思ったが、あれってマジンガーよりもはるかに高性能だよな?
「隙あり、セイテイブラスター!」
 余程不意打ちされ続けたのが堪えたのか、本郷が遂にやり返した。
 容赦のない魔力砲に、球太郎が無防備なままに被弾する。
「戦場で気を抜くからそうなるのだ」
「ちぃっと効いたわよ、スパロボ野郎」
 魔力爆発による煙が晴れ、球太郎の姿を確認する。
 ビームの直撃を受けた装甲は、熱で融解しているが、これくらいなら戦闘に支障はない。相変わらず、魔力としてのダメージは薄いようだ。堅牢さではこいつもダイセイオーに負けていない。
「よくもこの私に熱いのをかけてくれたわね。私は責められるより責める方が好きなのよ!」
「そんな本音は漏らさんでいい」
 ほらもう、少女達が首傾げたり、恥ずかしそうに俯いたりしてるじゃないか。
 球太郎の半球(顔)についている口が開き、球(手)からはそれぞれ五本の砲身が生えだした。
 球(腹)についている砲台はまだ封印するらしい。
 あいつの身体は表現しやす過ぎるから、かえって嫌いだ。
 戦闘態勢に入ったのだけど、どうにも口の形が欠伸しているように見える。
 緊張感ブレイカーでも発射したいのか?
「鏡さんを助けないと」
 同じ射撃戦を得意とするなのはが、いち早く援護にまわろうとするが、早くも怒髪天なオカマが許可をださない。
 連係プレー、それはお前達の鑑賞会だろ。みたいな。
「手出しは無用よ。こいつは私が消し飛ばす」
「殺すなよ?」
 こいつには釘を刺しておかないと、それこそ中の人を忘れて爆破四散させかねない。
 なのは達は非殺傷で戦っていたのに、全部ぶち壊しかねん。
「一割生かす」
 九割殺して生命を維持させる方が、生かすより難しくないだろうか。
 現実で体力一をドットだけ残すのは至難の業だぞ?
「ファイヤー!」
「くるか、セイテイダブルキャノン!」