額へ魔力が集中されていくが、それより早くヴィータが頭飾りの中心に3度目のラケーテンハンマーを叩き込む。
「おいおい無茶するなぁ」
 激しい衝撃により飾り全体に罅が入り、中途半端に集まった魔力が暴発した。
「うごぐがぁ!」
「これは効いただろ」
 非殺傷設定にする前に爆ぜちゃったらしい。顔面からは黒い煙が立ち上り、自慢のフェイスは内部のメカがあらわになっている。
 避難が間に合ったからよかったものの、逃げ遅れればただでさえ紅い騎士服が、俺とお揃いの色になるところだったろう。
「よくもダイセイオーの顔を!」
「フェイスオープンで売っていけばいいじゃないか」
 ちみっ子の反応は微妙だろうが、お父さんは懐疑心に涙するって、たぶん。
「ふざけるな。この借りは倍にして返すぞ!」
「やってみやがれ三下台詞野郎」
 おうおう、騎士様もノってきたね。
 新たな鉄球と一緒に三度目の突撃をかける。
『拓馬、右に回り込んで援護しろ』
『へいへーい』
 俺は俺で、ヴィータと念話して援護をしつつ、次はどうやってヒーロー気取りを転ばせてやろうかと思案する。
 しかし、ここからが長かった。
 凶悪な装甲って程じゃないが、やはりデカい。
 ちまちまダメージを与えても、元のサイズ差が大きいのであまり状況は変わらない。
 こっちは一発たりとも攻撃を受けていないので、有利は有利だが、攻めっぱなしのヴィータはじわじわと残存魔力が減ってきている。
 どうにも、でこハンマー以降形勢を変えるほどの与えられないでいる。それが地味につらい。
 それでも、追い込まれているのはあちらさんも同じだが。
「己ぇ、ちょこまかと逃げ回りおって!」
「デカいなりしてトロくさいお前が悪りぃんだろうが」
 戦闘が開始されてから、いい所が一つもない本郷を、ヴィータが挑発する。
 だが、口に出しているような余裕はない。あえて喧嘩売っているのは、それを悟られないようにするためだろう。
「こうなればこちらは切り札をださせてもらうぞ。ダイセイブレェェェド!」
 本郷はダイセイオーの手を突きだし叫ぶ。
「なにが来たってぶっ潰すだけだ」
 本郷の叫びで、お約束のようにダイセイオーの前方で魔力が渦巻き、巨大な剣が出現。そいつを掴みとって大袈裟にポーズを決める。
 遅せぇ! とアイゼンに殴られてなければそれなりに決まったろうに。
「うごげっ。くそ、貴様もか! 騎士ならば相手の武装を待つ位したらどうだ!」
「無駄に長々とポーズつけてんじゃねぇ」
 同じミスの連発率が高い男だなあ、逆ギレする前にまずお前が学習しろよ。
「こうなれば必ずこの剣で切り裂いてくれる!」
「んな剣持ったって、当たらなきゃ意味ねぇぞ」
 ヴィータの言葉通りだ。ただでさえサイズ補正が大き過ぎて当たらないのに、あんな剣振り回しても脅威にはならない。
 だからこそ、本郷には当てる算段があるのだろう。
「ならばその身に受けて知るがいい。聖王斬!」
 ダイセイオーの剣、セイオウブレードとやらの刀身が持ち主と同じ鮮やかな清蒼に染まる。
 そして大きく振り抜かれ、蒼き光は空を直進。
 軌道は単純でも人間を軽く呑み込める巨大で濃密な魔力。
 初撃を危なげなくかわしたヴィータの表情も、芳しくない。
 これ単体では大した脅威ではないが、キャノン砲で足を止められながらならば被弾率は大幅に上がる。
「ははは、次々いくぞ。俺の正義で撃墜しろ」
「くそ、バカの一つ覚えかよ」
 わかりやすい火力一辺倒ではあるが、持ち味を生かすという意味では間違ってはいない選択だ。
「拓馬、あたしが次にあいつの剣をよけたら、投げれるだけナイフを投げろ」
 俺にシールドの代替させて自分は勝負を決めにいく気か。
 大火力魔法で焦りが入ってきているな。
「やめとけ。一か八かに賭けるには、まだ早い」
「あの攻撃をもらってからじゃ遅いんだよ。いくぞ!」
 ヴィータは一方的に話をうちきり大聖斬を切り抜け発進してしまった。
 やれやれ、直情的なお子様だ。直情的でも直感的でも勝利のために必要な選択を取っているといえなくもないが、ここでの選択がどう転ぶかはまだ見えづらい。
 俺ならあいつの剣の性能を探るため、まだ様子を見る場面だ。
「スカーレットナイフ」
≪いいのか?≫
「止めたって聞きやしないんだからしょうがないだろ。もしものときは俺が“調整”する」
 今までヴィータの援護に使用していたのと同型のナイフ片手に4本、計8本作り出し投擲。それを二セット。
 まだ数は作れるがコントロールが落ちる。
 これの目的は攻撃ではなく防御なのだから、操作性が低いのは論外だ。
「万策尽きて特効か、鉄槌の騎士よ!」
「ほざけ、こいつで決着だ!」
「ふん、これるものなら来てみるがいい」
 ヴィータは魔方陣を展開しカートリッジ二つを消費する。
≪ギガントフォルム≫
 ヴィータのデバイスが新たな変化を遂げる。
 有り体に言えばデカい。
 ヴィータ本人より遥かに巨大なハンマー。
 それこそダイセイオーとまともに張りえる。
 当然、蓄えられる魔力の規模も違う。
 だがあれでは、小回りも効かないし、あっという間に魔力が枯渇するだろう。まさしく鬼札――なのは達風に言えば全力全開だ。
「させるか、ダイセイキャノン!」
 攻撃体勢を整えようとするヴィータに、砲撃が迫る。
 そいつを俺のナイフが食い止めるため、光に特攻し殉死していく。
「空気読みなよ、正義の味方さん」
 正義のヒーローなら、敵の必殺技には真正面から対峙しないとね。
「貴様はどこまでも俺の邪魔を!」
「するさ、敵だもの」
「うぉのれぇ!」
 流石に今は俺にかまっている場合ではないと判断したか、ダイセイオーはヴィータを見据える。
「いくぜ、これで終わりだ」
「いいだろう。その勝負、受けて立つ」
 ギガントフォルムの柄が激しくしなり、振りかぶられる。
 本郷も腹を括ったらしく、展開していたキャノンを元に戻し、純粋に剣のみを構える。
「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」
「聖王斬! 超一閃!」
 獲物の大きさに見合う魔力を発する、聖剣と巨人の金槌。
 そいつらが互いを倒すためにぶつかる。
 蒼と紅の魔力光が粒子となって散り合い、二人の魔導師はせめぎ合いが始まった。
「潰れやがれえ!」
「正義は負けんのだぁ!」
 どちらも譲らない。退けばそこで負けるから。
 だからこそ必死で、だからこそ見学者は見ていて面白い。
「さてと、じゃまぁ援護でもしますか」
 このよくできたシュールなSF映画の結末を、純粋に知りたいとも思うが、ちみっ子が負けた時のリスクが大き過ぎる。
 非力な俺でも本気で射撃魔法を撃てば、ディバインバスターくらいの出力は出せる。この均衡を崩すだけならばそれで十分だ。
 そう考えナイフで腕を派手に裂こうとした。
 しかし、その必要性はすぐに失われる。
 片方が均衡を崩しだしたのだ。
「ぐぬぬぬぬ」
「うおああ、カートリッジロード!」
 グラーフアイゼンに魔力が追加され、サイズがさらにアップされる。
 ヴィータ自身にかかる負担も比例し上がっていくはずだが、そんなのはおかまいなしだ。
「だらああああ!」
「うぐぅ……おあぎゃあ」
 魔力に押し負けたか、硬度の限界を超えたか、はたまた両方か。
 ダイセイブレードは鈍い金属音をたて真ん中辺りでへし折れた。
 中途半端に裏返った情けない悲鳴をBGMに殴り飛ばされたダイセイオーがマンションと一戸建てを破壊しながら、なす術もなく撃墜した。
「まさか、一人で倒してしまうとは。やるもんだなぁ、ちびっ子騎士」
 ヴィータも反動でどこかの建物の壁を破壊し不法侵入していたので、あまり無事とは言い難い。
 様子を見て、必要なら救助してやりたいが先にやらないといけないことがある。