「お前はAIに頼り過ぎなんだよ。銃に弾を込め、撃鉄を起こして、照準を付けたのも全部AIだ。違うか?」
「何を言う。貴様を打ちのめしたのは……」
「まさしくAIだろうが」
「ぐぐっ」
「球太郎となのは達もな。お前自身は何もしていない」
無茶苦茶だ危険過ぎるという、聞き飽きたブーイングをはたき落とす。
リスク抜きで逆転なんて出来るわけがないだろう。
これでも現実的な意見を出しているつもりなのだ。
「ヴィータは、ヴィータは俺が倒したぞ」
「倒されたと訂正してもらおうか。ライオン共が奇襲しなければ、あの時点でお前の一人負けだっただろう?」
やるしかない。ギャンブル的な要素はある。だが戦いに不条理などつきものだろう。
後は身投げするように自分の身体を闇へ任せるしかない。ここで引くような奴に勝利など与えられるものか。
「俺の心はダイセイオーと一心同体! つまりダイセイオーの勝利は俺の勝利だ!」
「ストレートなジャイアン理論だなぁ。俺の物は俺の物。お前の物の俺の物。お前ならダイセイオーが俺を仕留めていても、納得していたような気がするよ。AIの心、主知らずってな」
想定よりは早く意見がまとまりつつある。作戦における不安要素が俺とヴィータなわけだが、片や提案者に片やすぐ暴れさせろだ。 それに後もないという事実が話を押し切る推進剤となる。
「それはどういう意味だ?」
「さあな。すぐに答えを求めるのはよくない」
「まぁたくだらないハッタリだな。もう飽き飽きだ、ワンパターンめ」
「お前が言うな」
作戦の開始の合図を決めて、準備は万端だ。
一部キーワードに不満の声が出たが無視した。
「ふん、何をほざいてももう無意味だ」
「そうだな。もう無駄話は必要ない」
「ようやく観念したか。元々確定事項だったのだ」
「本郷、お前の破滅がな」
“破滅”を合図になのは、フェイト、はやてのオフェンス組が飛翔する。ダイセイオーよりも高度まで。
三人が並んで十分な高さまで上り、揃って魔方陣を展開。巨人を撃ち墜すために、狙うは直射型の三人同時砲撃。
「むう、諦めが悪い奴等めぇ! ならば私も最強兵器、セイテイノヴァで相手をしよう!」
対抗してダイセイオーにも魔力が集約しだす。
魔力を回収されるのも、大型魔法をされるのも不都合だ。だからやらせない。やらせるわけがない。
「鏡!」
俺のかけ声で、鉄片となった球太郎から、ある物体が飛び出した。半球のパーツ、頭部だ。
球太郎のコクピットは胴体ではなく頭。AIはそれに気付いていたから、派手に球太郎の“胴体”を破壊したのだろう。
あいつらにはトルバドゥールを殺せない制約があるのだから。
鏡は鏡で自分の生存率を上げるため、頭だけ無事なのを怪しまれないよう他のパーツに紛れこんでいた。
応答が無かったのは、回復と奇襲をかけるタイミングを独り図っていたため。
俺が作戦を説明した時は諦めて参加した……というかさせた。生存確認がされた時のなのはは、ものすごい驚きようだったなぁ。
「まだ生きていたか。潰れろ!」
一直線に突っ込む球太郎ヘッドを、ダイセイオーは鷲掴み。卵でも握り潰すみたいにあっさり砕いた。
「所詮は死に損ないだな」
≪Sword Form≫
しかし、武器を失った球太郎は囮でしかない。鏡自身は一足先に脱出している。
鏡にしては珍しく使用頻度の低いソードフォームを使用して、残りの距離は自分自身で突貫する。
「遊びは終わり。逝かせてあげる」
≪Impact Noise≫
機体に刃の切っ先を突き立てギターの玄を弾き、魔力衝撃の波を内部へと送り込む。
ダイセイオーの装甲を無理に捻じ曲げて開けた。
「こしゃくな。ええぃ、あんな子蝿は無視だ」
開き直った本郷は、標的をなのは達に絞る。
そろそろ俺の出番かな。俺も前衛に加わるため、立ち上がってみる。どうにも視界がぶれて、足取りが怪しい。
まぁいい、俺の役割は動ければ成立するしなんとかするさ。
「お前のがぼろぼろじゃねぇかよ」
結界が解除されたヴィータが正面に立ち見据えている。
俺は軽く視線を外して歩きだそうとしたが、半ば強制で止められた。鉄槌を眼前に突き付けられて。
「役割はこなす。お前だけじゃ確実性が薄い」
「てめえはウォルケンリッターをなめすぎなんだよ」
ヴィータにとっては実力の問題だけではない。誇りの話でもある。
さっきは深紅が真紅を押し留めた。今度は真紅が深紅を押し退ける。
ヴィータの口調は乱暴だが、冷静さは失われていない。ただたださっきの仕返しがしたいわけではないようだ。
口論に割く時間も勿体ない。ここは騎士の誇りに賭けてみてもいいだろう。
「やってみせろよ騎士」
「てめえは指をくわえて見てやがれ。ペテン師」
不敵に笑い合う俺達を、ユーノが不思議そうに見ていた。
「急に出力が上がらなくなっただと!?」
「氷の世界にようこそ」
ダイセイオーの魔力の集中速度が緩やかになっていく。
いぶかしむ本郷に鏡が語りかけた。復讐タイムに突入のようだ。
「トルバドゥールもう一人の悪魔か」
「道化よ。あまねく万物はみな温度を失えば活動を停止するわ。熊も人も巨大ロボットのエンジンもね」
俺がユーノに頼んだ仕事の一つはエンジン部分の把握。
鏡の冷凍能力により急激な温度の低下にさらされた動力炉は、本来のポテンシャルを発揮できない。
おまけに居場所が炉心というのも本郷にとっては不味い。
下手に鏡を攻撃して、自爆するわけにはいかないからだ。
もしあいつが本物のヒーローなら己の身だけで鏡に挑むかもしれないが、そんな度胸は備わってないのはもう知っている。
「せせこましい真似を! ならばチャージを必要としない武器を使うまでだ。ダブルセイテイキャノン」
「始めからそうしてればいいのに。かっこつけしーね」
なのは達は未だ魔力のチャージが完了していない。彼女達が負っている傷を考慮し魔力の収束速度を緩めてある。
加えてはやてには別方面のハンディキャップもある。
はやてのラグナロクは夜天の書を一時的に消耗しないと使えず、すでに一度使用していた。
その回復を待たねばならないし、加えて本来の効果である着弾後拡散広域方式を二人合わせて直射貫通型に変更しなければならない。これはリインフォースが行う調整であり、今はそれを自分で行なっている。
そのために通常よりはやては遅れて、発射までにかかる時間が飛躍的に増えてしまっていた。
ダイセイオーはあれだけ武装が充実していれば、多局面に対応できるだろう。
ダイセイオーの中でも、最も使用頻度の高い装備肩キャノンが火を吹く。
本来まともに守れないなのは達を撃墜するのみなら、あの砲撃で事足りる。鏡の言った通り変に格好つけようとするから一手遅れるんだ。
そして、ありふれた手の対策もこちらは打ってある。
「通さねぇ!」
ヴィータの巨槌が魔力と質量から生まれる純粋な力で、魔力砲撃を弾き返した。
解き放たれた真紅の花が心を繋いだ主と友のため、打ち砕く鉄槌から砕かれぬ鉄壁と化す。
もはや彼女を縛る檻はない。鬼にも化せる気迫でもって、魔力塊を塵に返し続ける。
「一発足りともはやて達には触れさせねぇ!」
一見無茶に見えるが、あれが勝利への本流。ヴィータの最善手だ。
あいつのスタイルは、守りより攻めを優先している。だけどただ攻撃一辺倒しか頭にない馬鹿でもない。基本を熟知した上でヴィータは自分の持ち味を生かした戦いを優先した。
ダイセイオーのキャノンは、なのはのディバインバスターが矢継ぎ早に飛んでくるようなもの。下手に守りに回れば押し切られて潰される。
ならば魔力の消耗は激しいが、一撃の重さで対抗すればより時間を稼げるはずだろう。
「死に損ないが、そこをどけえ! セイテイブレイド」
本郷は射撃線では埒が明かないと見たようだ。
ダイセイオーが砲撃を発射したままでヴィータに急接近し、剣で直接叩き落としにきた。
「それ以上は進ませねぇ。アイゼン!」
≪Jawohl≫
「今度こそ斬り飛ばしてくれる!」
キャノンは移動により射軸がズレ命中率が落ちる。その空白を利用し、ヴィータはカートリッジを使用。ギガントフォームをさらにサイズアップさせる。
「ギガントォォ! シュラーク!」
「とおりゃあ!」
序盤戦の再現するよう巨大ロボと紅い魔法少女が身一つでぶつかり合った。
前回との差違として両者がベストコンディションではない。
強制リミッターと疲労が蓄積多された身だ。一撃で決着とはいかない。
両者共が発露する魔力に耐えられずに数メートル弾き飛ばされ次弾に持ち越される。
こうなるとエネルギーが無尽に近いダイセイオーの有利のはずだが、ヴィータが俺の予測を覆してくれた。
弾かれたヴィータは止まらない。グラーフアイゼンの柄が限界までしなり、ヴィータを軸に慣性任せで一回転。ラケーテンハンマーでの加速方式をギガントシュラークで使っている。
「うおあぁぁぁ!」
「セイテイブレイドォ!」
次弾が激突する前にカートリッジをロード。これでヴィータは初撃よりなお威力を高めている。
それは打ち合いの結果から見ても明らかだ。
「さらに重くなっているのか!? セイテイブレイドが押し返されるぅ」
ダイセイオーの剣は弾かれて、ヴィータがアイゼンを振り抜いている。
直接直撃はしなかったが、本郷に畏怖を与えるには十分。
戸惑いからすぐに再攻撃のアクションを取れず、棒のように突っ立ってしまった。
「ダイセイオーが、力負けしたのか!?」
「もう、いっぱぁぁつ!」
ヴィータはまだ停止せず回りきる。
いくら魔法で制御しているとはいえ、あの質量を振り回してガタがこないわけがない。全身が軋んで激痛に襲われているはずだ。
そもそも大型魔法は負荷が大きいのに、あいつはあいつでダイセイオーにやられる前にいつでも自滅しかねない。
緋色の平穏 Ep6『独善の剣12』
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