BLドラマ初心者におすすめの日本作品まとめ|初めてでも楽しめる注目作を紹介

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その者は、強者を善とする世界に生まれながら、弱者の救済こそ歩むべき道だと唱えていた。

金と黒を幾重にも重ねた法衣は、宗教家の装束というより王侯の礼服に近く、袖や裾には古い仙術文字と電子回路を思わせる紋様が刻み込まれている。胸元から垂れる数珠には色鮮やかな珠が連なり、足元では虹色の光を帯びた巨大な蓮華が、呼吸するように花弁を明滅させていた。

白と黒の毛並みに覆われた面立ちは、穏やかなパンダそのものだった。

しかし、慈愛を思わせる柔らかな輪郭とは裏腹に、細められた双眸には他者の生き方を裁定する者の冷徹さが潜んでいる。背後には精緻な曼荼羅を彫り込んだ黄金の円輪が浮かび、その周囲から伸びた光の棘が、後光というより侵入者を拒む刃のように煌めいていた。

さらに左右には、人の数倍はある機械仕掛けの腕が浮遊している。

片方は指を揃えて掌を掲げ、もう片方は敵を打ち据える直前のように拳を固めていた。慈悲と暴力を同時に掲げるその姿は、まさしく食鉄大師の思想そのものだった。

「私は武強主義を好みません。強者が弱者を虐げるなど、決して許されてはならないことです」

食鉄大師が片手を胸元へ添えると、黄金の円輪に刻まれた紋様が順番に輝き始める。蓮華の周囲には青緑の光が流れ、教主を仰ぐ黒白蓮教の信徒達は、その光景を奇跡として受け入れながら深々と頭を垂れた。

「人は皆、欲望を捨てて自然へ回帰するべきなのです。健やかなパンダのように、争わず、奪わず、あるがままに生きることこそ真の幸福でしょう」

穏やかな声が堂内へ響くたび、信徒達の祈りは熱を増してゆく。

食鉄大師の教義によれば、力を持つ者は、いずれ必ず弱者を虐げる。今は善良に振る舞っていようとも、未来において暴力を振るう可能性があるならば、その存在自体が既に罪を帯びているというのだ。

故に、強者こそ悪である。

弱者が傷つけられる未来を誰よりも早く見抜き、災いの芽が育つ前に己の拳で粉砕する。それこそが救済であり、正義であり、世界を穏やかな自然へ戻す唯一の道だと、彼は疑うことなく信じていた。

「あのEDENとかいう者達……あれも『強者』ですね」

食鉄大師の視線が、蓮華の前方に浮かぶ鏡面へ向けられる。

まだ形を完成させていない鏡の内部では、奪い取られたゾディアックの光が幾重にも交差し、遠い星空のような像を結んでは崩していた。そこに映るのは異世界を渡り、侵略者と戦い、弱き者へ手を差し伸べるEDEN達の姿だった。

だが、彼らが何者を守ってきたかなど、食鉄大師にとっては意味を持たない。

助けを求める者のために力を振るう者であろうと、多くの世界を救った英雄であろうと、強者である以上は弱者を脅かす可能性を秘めている。その一事だけで、彼らは討ち滅ぼすべき邪悪として認定されていた。

「強者であるならば、それは邪悪である証拠。ゾディアック・ミラーが完成した暁には、その行動を昼夜問わず予見し、逃げ場を失わせた上で片っ端から叩きのめしてくれましょう」

静かな宣告に呼応して、浮遊する巨大な拳が鈍い駆動音を鳴らした。

虹色の蓮華から噴き上がった光が黄金の円輪へ流れ込み、鏡面に浮かぶ星々の軌跡をさらに鮮明なものへ変えてゆく。信徒達は救済の完成が近いと歓喜し、教主の名を繰り返し唱え始めた。

弱者を救うために、全ての強者を排除する。

争いをなくすために、先んじて暴力を振るう。

慈悲深い聖獣の相貌と荘厳な装束で覆い隠されてはいても、その教義の根底にあるものは、恐怖と独善による支配にほかならない。

弱者救済を謳う王権執行者『食鉄大師』。

その思想は、どこまで慈愛の言葉で飾り立てようとも、紛れもなく魔教カルトであった。

「ゾディアック継承戦争も遂に大詰め! だけど、水鏡天満宮で異常事態が発生しちゃった」

水瀬・恋眞が大型モニターへ触れると、水鏡天満宮とその周辺を示す立体地図が展開された。

境内を中心とした一帯は赤い警戒領域で覆われ、中央では複数のエネルギー反応が渦を巻いている。通常のゾディアック反応とは異なる波形が幾度も重なり、完成間近の何かが内部で脈動している様子まで読み取れた。

「√仙術サイバーでカルト教団『黑白蓮教』を率いている食鉄大師。彼はドロッサス・タウラスから力を奪って、継承戦争の最後に漁夫の利を得ようとしているんだ」

地図の横へ、偵察によって得られた食鉄大師の映像が表示される。

虹色の蓮華に立つ巨体を、金黒の法衣と黄金の円輪が包み込み、その左右では巨大な機械腕が護法神のように浮かんでいた。パンダを思わせる穏やかな顔立ちと、全身から放たれる威圧感の食い違いが、見る者へ得体の知れない不安を抱かせる。

恋眞は画面を拡大し、彼の背後で蠢く鏡状の光を指し示した。

「戦場には、ドロッサス・タウラスから奪ったゾディアックが集積しているよ。それが鏡みたいなオーラを作っていて、食鉄大師達は『ゾディアック・ミラー』っていう神器に仕上げようとしているみたい」

鏡面の内部では、現実の景色と僅かに異なる像が何枚も重なっていた。

誰かが踏み込む姿、その直後に拳で打ち払われる姿、さらに別の方向から攻撃を仕掛ける姿。どれもまだ起きていない出来事でありながら、数秒後には現実となり得る未来として映し出されている。

「神器そのものにどんな能力があるのか、詳しいことはまだ分かってない。でも、食鉄大師の予知能力は既に『数秒先を予測可能』な域まで達しているよ」

戦場における数秒は、決して短くない。

攻撃を放つ前に狙いを見抜かれ、回避へ移るより先に退路を塞がれれば、どれほど優れた戦士であっても一方的な展開へ追い込まれる。予知された通りに動けば迎撃され、動きを変えようとしても、その変更さえ次の未来として読み取られる可能性があった。

「それに、食鉄大師は王権執行者である上に、仙術で強化されたカンフーを使う強敵なんだ。未来が見えるだけの相手じゃないから、予知を突破できたとしても油断しないでね」

モニターには、過去の戦闘記録が映し出される。

巨体からは想像できない滑らかな歩法で相手の懐へ入り込み、掌打と肘撃ちを繋げながら、左右に浮かぶ機械腕で別方向の敵まで同時に打ち据えている。本人の拳法と巨大腕の攻撃が重なれば、正面から受け止めるだけでも容易ではないだろう。

「最低限、数秒先の未来を読まれる前提で対策しないと、何もできないまま倒されちゃう危険性があるよ。予測しにくい動きを使うのか、複数の未来を同時に押しつけるのか、それとも相手が見た未来そのものを利用するのか……しっかり作戦を考えて挑んでね」

正面から力だけで押し切る戦法では、食鉄大師の教義を証明する材料を与えるだけになりかねない。

互いの行動をどう組み合わせ、予知によって得た優位をいかに崩すか。それぞれが独自に対策を用意しながら、必要に応じて仲間と連携することが重要になるだろう。

厳しい説明を続けていた恋眞は、そこで口元を少しだけ緩めた。

「もちろん、大変なことばかりじゃないよ。上手くすれば、食鉄大師が完成させようとしているゾディアック・ミラーを、ボクたちがゲットできるかもしれないんだ」

画面上の鏡へ、新たな解析結果が重ねて表示される。

未来を映す性質が星詠みの力と結びつけば、偶然降りてくる兆しを待つだけだった予知が、新たな段階へ進む可能性もあった。

「そうなれば、星詠みの予知を今までより深く読み取れるようになるかもしれない。もっと早く異変を察知したり、これまで見えなかった危機まで見つけたりできれば、その恩恵は今回の戦いだけじゃなく、EDENのみんなに広がっていくはずだよ」

あらゆる戦いは、星詠みが受け取る予知から始まる。

その起点が強化されれば、これまで間に合わなかった救援へ手を伸ばし、敵の策が完成する前に食い止められる可能性も生まれるだろう。

恋眞は地図を水鏡天満宮への進行経路へ切り替えると、集まった者達の顔を一人ずつ見渡した。

「ゾディアック継承戦争を終わらせるまで、本当にあともうひと踏ん張り。食鉄大師は強いけど、予知された未来が絶対に変えられないわけじゃないからね」

大型モニターに映る鏡面が、不吉な光を放ちながら揺らいでいる。

「大変だけど、みんなならきっと乗り越えられるよ。がんばって!」

恋眞の激励を受け、集った者達は水鏡天満宮へ向かう。

そこに待つのは、慈悲を説きながら強者を狩る食鉄大師と、数秒先の未来を映し始めたゾディアック・ミラー。

予知によって定められた敗北を覆し、魔教の手から未来を奪い返すための戦いが始まろうとしていた。

-その他