僕の君へ。

 僕が誰より愛する君へ。
 僕が最も畏怖する君へ。

 君と出会うまで、僕の世界は灰色だった。
 君は君の作った赤い服を着て踊り、僕の世界に色が生まれたんだよ。

 僕が詰まらなさそうな顔をしてる時、君は無邪気に笑っていたね。
 君に釣られて僕も笑って、初めて僕は幸福を感じたんだ。

 ありがとう、僕の君。

 君がくれた温もりは、ちゃんと肌で覚えているよ。
 だけど君が作る居心地の良さに甘えていると、きっと僕は駄目になるから。
 君とは此処でお別れしよう。

 心の折れた僕の世界を、君が変えてくれたんだ。
 君が与えてくれた世界に魅せられて、僕は甘い誘惑に酔いしれた。

 孤独な世界だったけど、君が居たから僕はここまで生きて来れたのさ。
 ゆっくりと死んでいくだけの僕に、君は尊い自由を与えてくれたから。

 ありがとう、僕の君。

 僕はまだ君を愛しているよ。ずっとずっと愛してる。
 それでも君が与えてくれる快楽に、溺れてしまうのは間違ってるから。
 僕はずっと、君という自由が怖かった。

 さようなら、僕の君。

 君はずっと、君の心のままにステップを刻んでた。
 誰の理解も届かない君の在り方が、いつしか僕の心にも伝わってきたよ。
 だけどね。
 だからね。

 僕は君とお別れするよ。

 だから君と、もう一度だけダンスを踊ろう。
 踊る君はどこまでも楽しそうで、赤い世界が広がっていく。
 そして僕はごめんねと呟き、滴る雫を拭った。

 建物の上、見上げる空はこんなにも青く澄んで。
 見下げた先には、たくさんの人が命を紡ぐ。
 もう会うこともないだろうから、最期にめい一杯のお礼を言わせて。

 ありがとう。
 ありがとう。
 ありがとう。
 愛してる。
 僕は今、決別の一歩を踏み出した。