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 気落ちしながら眠りに落ちたルイズは、寝覚めの悪い朝を迎えていた。
 薄らぼんやりした意識で周囲を見回すと見慣れぬ毛布の塊があり、自分が平民を召喚したことを思い出すが、そこに禊の姿はない。
 またぞろ使い魔が勝手に行動しているという事実を確認したら、怒りで目が冴えてきた。

「どうしてご主人様を起こしもせず、部屋からいなくなるのよ!」

 なんて喚いてみても、昨日の夜と同じく当事者がいないのだから意味はなかった。
 時計を見るとちょっと寝過ごし気味ではあるが、まだ朝食の時間には間に合う。
 ルイズは焦りつつもテキパキと着替えて部屋を飛び出すと、丁度部屋に戻ろうとしていた禊とばったり出くわした。

『やあ、おはようルイズちゃん。今朝はゆっくりだね』

「あんたのせいでしょうが!」

『んん? 僕はご主人様を起こすようにとは仰せつかってないよ』

「私の身の回りの世話は全部あんたの仕事なの! 朝はちゃんとご主人様を起こしなさい! というか何また勝手にうろちょろしてるのよ!」

 得体のしれない昨日の恐怖は、起き抜けからのストレスで喉元を過ぎ去ったらしく、ルイズは朝から容赦なくまくし立てる。

『ヒステリックご主人様が、常に素肌に密着させてないと気が気じゃないアレを、甲斐甲斐しく洗浄しに行ってたのさ』

「どういう表現よそれは!」

 ただの洗濯で、どうしてこんな如何わしい話になるのだ。意味もわからず自分がはしたない女みたいな扱いを受けて、ルイズはさらに激昂する。

「あら、おはようルイズ。朝から騒がしいわね」

「……おはよう。キュルケ」

 ルイズと禊が廊下で騒いでいると、隣の部屋から新たな少女が現れた。燃え盛るような赤の髪に褐色の肌をしており、背も高い。ルイズが年齢より少々幼く見える体型に比べて、キュルケはメリハリのある体つきであり、ブラウスのボタン上二つを外して豊満なバストを強調している。
 そんな自分とは対極的な相手の登場に、ルイズは一度声のトーンを落とし顔をしかめて挨拶した。

「そこにいる影の薄そうな顔した平民が、あなたの使い魔?」

「そうよ……ホントに薄かったらまだ良かったのに」

「あっはっは! 『サモン・サーヴァント』で平民喚んだって噂は本当だったのね! さっすがゼロのルイズ」

「う、うるさいわね!」

 高らかに笑うキュルケにルイズは悔しがる。それでも事実は事実であり、まともに返せる言葉もない。

『それで、これがキュルケちゃんの使い魔かな?』

 二人が話している間に、キュルケの部屋の前にしゃがみ込んでいた禊は、そこでじっといる赤いトカゲに傾注していた。

「随分と馴々しいわね、あなたの使い魔」

「そういう奴なのよ」

「ふーん、まあいいわ。そうよ、この子が私の使い魔フレイム。当然、誰かさんとは違って一発で成功よ」

『尻尾が燃えてるね。ポケモンには見えないし、RPG的にサラマンダーってところかな』

 禊は火トカゲを見るのは初めてのようだが、大型の四足獣サイズのモンスターに物怖じせず、興味津々といった様子で眺めている。その感嘆するような姿勢で上機嫌になったのか、キュルケのお喋りが饒舌さを増した。

「その通りよ。わかるかしら。この尻尾、この鮮やかで大きな炎、これは間違いなく火竜山脈のサラマンダー! 好事家に見せたら値段なんか付かないわ!」

故郷(くに)へ帰るんだな。お前にも家族がいるだろう』

 禊がフレイムの頭を撫でながらポツリと呟いた。ルイズはそれが強制的に召喚された禊の皮肉だと解釈し、キュルケは彼なりのジョークだと思っているようだ。

「ふふ、面白い子ね。それであなた、お名前は?」

『僕は球磨川禊だよ。よろしくね!』

「クマガワミソギ? 変な名前。けどあなた、よく見ると可愛い顔だし、私のところにいらっしゃいな。特別に使用人として使ってあげるわよ?」

『ありがとう、前向きに検討しておくよ』

「何ご主人様を差し置いて勝手な話をしてるのよ!」

 キュルケの行為はあくまでルイズを挑発するためで、本気さは欠片も感じられなかった。所詮、平民は平民という扱いだ。
 それはわかっていても、ルイズには禊が嬉しそうにキュルケの誘いを受けようとするように見えたらしい。禊の表情筋は、だいたい笑顔で固定されているのだが。

「あら、恐い。それじゃ、お先に失礼」

 キュルケを見送ったルイズは、彼女の背が見えなくなったのを確認してから、我慢していた本音を腹の底から吐き出す。

「ああもう、悔しー! 毎回毎回嫌味ばっかり! なんなのあの女!」

 ハルケギニアには、“メイジの実力を量るには使い魔を見ろ”という言葉がある。
 それに従うならば、ルイズはやはり自他共に認めるゼロの資質を表す者を引き当ててしまった。それに比べてキュルケは、

「今日なんて、自分がレアな火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって自慢して!」

 この格差はなんなのよ! っと、もう朝から不機嫌が止まらないルイズである。

『ルイズちゃんは、余程あの子と仲がいいみたいだね』

 誰が見ても炎上中のルイズに、禊はためらいなく油を注いだ。火勢を増したルイズの矛先は禊に方向転換される。

「どうやったらそういう結論に達するの!」

『僕の世界にはツンデレという言葉があってだね』

「もっと腹が立ちそうだから、あえて意味は聞かないわ」

『それは残念だよ』と言う禊には、悔しさなど微塵も見えやしなかった。

『ところでルイズちゃん』

「何よ?」

ゼロ・・っていうのはルイズちゃんの二つ名みたいだけど、どういう意味なのかな?』

「つ、使い魔はそんなこと知らなくていいの! それより、早く食堂に行くわよ。グズグズしない!」

 ただでさえ禊はルイズをご主人様と認めているとは思えない接し方をしているのに、魔法が使えないからゼロという蔑称を与えられている、なんてこと話せるわけもない。
 ルイズは無理があると思いつつも、そこで強制的に話を打ち切り、扉に鍵をかける。

「あれ?」

 すると鍵はきちんとかかり、扉は開かなくなった。そんなのは当然の事象であり、だけどルイズにとっては不可解な現象だ。

「だって昨日は……」

 鍵が壊れてちゃんとかかっていなかったはず。それを忘れていて鍵をかけてしまったのだが、今鍵はしっかりとかかっている。

『ルイズちゃん、どうかしたかい?』

「あんた……いえ、なんでもないわ。行きましょう」

 どうして昨日は壊れていた扉の鍵が直っているのか。何かを仕組んだのだとしたら、犯人は禊以外に誰がいるというのだ。
 しかし、昨日は知らぬ存ぜぬを押し通した禊が、今日になって何かを吐くとは思えない。そんなこともわからないのかと言外に揶揄されるのが嫌で、これ以上の追及はやめておいた。

 それに食堂にさえ行けば、こちらには立場逆転の秘策が用意されている。ここまで自由に振る舞い続ける禊にようやく効果的な躾ができるのだ。
 ルイズはこの先にある自分の計画を思い、内心で黒い喜びを宿して、禊に背を向けて歩き出した。

          ●

 魔法学院の中心に位置する本塔に、“アルヴィールズの食堂”はある。壁際に並ぶ、夜になると踊り出す人形達がその名の由来だ。
 学園内の貴族達は皆、ここで食事をする。三つ並んだ長いテーブルは全てに豪奢な装飾が施されており、一つにつき裕に百人は座れるだろう。
 その中で、二年生のルイズは真ん中に座ることになっている。

「気の利かない使い魔ね、早く椅子を引いてちょうだい。って、何勝手に座ってるのよ!」

『これは失礼』

 ルイズが平民を連れて入室し、それを笑った者達を目で威嚇した僅かな時間で、禊は椅子に座って料理を眺めていた。どれだけがっついているのだ、この使い魔。

 ――ここは堪らえなさい、ミス・ヴァリエール。こいつが朝食に興味を示すのはいい兆候よ。

 ルイズの椅子を引くために禊が立ち上がると、ルイズはそのまま禊が腰掛けていた席を奪ってしまった。

『貴族様は朝からヘビー級の食事をするみたいだね』

 そんなルイズを気にした風もなく、禊は隣の椅子の背を掴むが、ルイズにその手を払われる。
 ここでようやく禊がルイズに視線を送るが、今度はルイズが禊の目を見ず、澄ました顔をして床を指さす。

「ほら、あんたは床よ。ゆーか!」

『その床にある皿が僕の食事ってことかな?』

「そうよ」

 ルイズが肯定した皿には小さな肉の切れ端が浮いたスープに、硬そうなパンが二切れ添えられている、だけだった。
 これは屈辱的だろう。しかも禊はルイズ以外からは食事を得る手段がないのだ。

「いいこと? 本来なら使い魔は外で食事する決まり。それを、あんたは私の特別な計らいでここに居られてるの。わかったら感謝して座りなさい」

『そんな! なんてことを言うんだルイズちゃん……!』

 ルイズは使い魔を召喚してから始めて、彼の非難の声を聞いた。ようやく自分が主人として立つべき優位に立ったと、ルイズがほくそ笑む。

「あら、それが嫌ならあんたも他の使い魔達と一緒に外で食べれば?」

『当然じゃないか!』

「……はあ?」

『いくら自分の使い魔が可愛くてしょうがないからって、そんな差別はいけないよ。いたんだよねー僕の世界にも、ペット持込み禁止の店に家族だからと犬や猫を連れ込む常識のない人が』

 怒られている。けれどもそれは、床で粗食を食べさせられるという屈辱ではなく、使い魔を食堂に連れ込んでいるルイズの行為をだ。
 わけがわからず、ルイズははてなマークを大量に浮かべながら禊を見つめている。

『そういうわけで、僕も外で食べてくるね。それじゃ!』

「え、あ、ちょっと待ちなさい!」

 まるで想定の外な怒りの矛先にルイズが混乱していると、禊は自分の皿を持って立ち上がり、さっさと食堂から出て行ってしまった。
 またしてもやられたと、ルイズが気付いた頃にはもう遅い。追いかけて文句を言おうにも、もうすぐ食事前のお祈りが始まる。

 貴族として礼節を重んじるルイズは、後で覚えてなさいと怒りを胸に押し込めて、姿勢を正す。
 そして気付いた。

「え? 嘘……」

 料理がない。
 それもルイズの料理だけが綺麗さっぱり消えている。まるで始めから何も入ってなかったみたいに、スープの一滴も残ってはいなかった。

 いつ、誰が? そんなのまた禊がやったに決まってる。こっちの気を引かせたのはそのためだったのだ。でも、どうやって?
 わからない。わかるはずがない。だって禊は、メイジじゃないから。

「本当にあの使い魔は……」

 空腹。疑念。そして昨日の恐怖と会話が連なり、禊の語っていた話を思い出す。
 異世界からやってきた平民。そんな馬鹿なと思っていた事柄が徐々に現実味を帯びて、ルイズに不安感を喚起させる。

「そんなわけないわ。異世界なんて」

 これはマジックアイテムの仕業だ。そうに決まってる。馬鹿な空想よりも、あり得る現実に目をこらすべきだ。
 そうやって異世界という未知の存在を否定する。
 しかしそれと同時に、私は一体()を召喚したのだろう。そんな不確かであるのに確定的な得体の知れなさが増していくのを、ルイズは感じていた。

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