二大ロボットによる夢の共演。
 互いの装備する強力な砲撃同士で空中大決戦! ……なわけだが、この勝負初っぱなからワンサイドゲームだった。
 同じロボットゲームビギナーのはずなのに、ニュータイプと一般兵との差が出てしまったというべきか。
「なんて装甲なんだ!」
 ダイセイオーのキャノン砲は、球太郎の魔力分解でノーダメージとまではいかなくても、威力の大部分を殺されている。
 目からビームとマシンガンも、あの特殊装甲に太刀打ちは不可能だった。
 一方ダイセイオーは、正面きっての撃ち合いにみるみる疲弊していく。
 止まることない魔弾のシャワーは、肩を砕き、手首を潰し、顔のオーバーフェイスを剥ぎとった。
 どうみても殺傷設定にしてるよあいつ。
 なのは達の配慮など、あいつが持っているわけもないか。
 それに、乱射していると見せかけて、優先的に相手の武装を無力化している。
 残るはデコブラスターくらいだが、チャージしている間にスクラップになるだろう。
「退却、退却だ!」
 ダイセイオーが逃げた。
 短期間で重ねられた敗北から、本郷は戦略的撤退を身に付けたようだ。進歩してるんだか、退化してるんだか。
「喧嘩中に背中見せんじゃないわよ」
 球太郎の背中に増えていた球体が火を吹いた。
 あれはバーニアだったらしい。機動性という欠点が克服されてしまっている。
 ジオングに足が付いた! 違うか。
「速い!」
 回り込まれた本郷は、ありきたりの敗北フラグ発言しか出来ない。先の展開が丸見えだ。
 俺のやる気は、そもそもにしていらないものだったのか。
「胸部キャノン展開。砲撃開始!」
「ひぎぃぃぃ!」
 球太郎の最も大きな球体、つまり胴体から二桁を超える砲門が姿を現れて、鏡が終わらせにきた。
 数分後、そこには元気に走り回るダイセイオーの姿…………はなかった。
 くたびれた鉄塊が倒壊した瓦礫に混じっている。
 鳩に散々つつかれたパンみたいな、打ちひしがれたべこんべこんっぷりだ。
「あいむかんぺおーん!」
 対する球太郎は両手を高々と上げ勝利の余韻に浸っている。
 中の奴も同じポーズをしていると予想する。確かめる気なぞないが。
「何のために合体したんだ。あいつ」
 ヴィーやんったら、本郷本人が聞いたら泣くか騒ぐかしそうな本音を漏らしちゃった。
 パワーアップしてからも、有効打はほぼなかったしなぁ。
 ここまで空回りし続けた敵は俺も初めてだ。
「ヴィータ、こんなボロボロになってもうて」
「はやて……」
「ごめんな、もっと早く助けに来たかってんけど、結界の解析に時間がかかってしもたんよ」
 謝罪しつつ、はやては愛しい我が子を胸へ抱きよせる。
 空気がががが、ものすごく微笑ましくて、背中がむず痒い。
 キャメラ、キャメラはどこ! なんだかとても美味しいシーンが始まったよ!
「ううん、あたしは全然平気だから」
 ヴィータは気恥ずかしそうに目を細めながらも、抵抗はせずはやてを受け入れた。
 ちくせう、はやてにはあっさりデレやがって。
 俺の生命をコインにした、3Dシューティングでもあんな態度はなかったのに。ちくせう、百合ん百合んしてんじゃないぞ!
「たっ君は、無事みたいだね」
 俺の前に降りてきたのはフェイトだった。いいもん、俺には金髪美少女がいるもん!
「ハグは?」
「ないよ!」
 指をくわえてヴィータ達を見ながら聞いたら、即答された。初対面の時はしてくれたのにぃ。
「ちぇー」
「それだけ元気なら心配ないかな。怪我もないみたいだし」
 怪我に関する部分に、フェイトの強い安堵を感じた。
 俺は怪我を負うのがデフォルトな人間だと思われているのだとしたら、それはとても失敬なイメージじゃないか。
 ここは俺という人物像の真なる姿をしらしめなければなるまい。
「当たり前だろ?」
 という訳で、虚偽ってみた。
「拓馬は右腕を複雑骨折してやがるぞ」
 はやてから離れたヴィータが、俺のイメージに傷をつけた。
 百合ってるからこっちには関心ないと思っていたのに。痛恨のミスにより、また俺に嘘ばっかり話すという虚実なレッテルが貼られてしまった。
「たっ君、また嘘吐いて! しかも大怪我までして!」
 しかも小学生に道徳カテゴリでお説教されるなんて、哀れなおまけまで付加されている。
 不道徳なペテン師は、本能的に反省より言い訳を選別してしまうわけだが。
「スウィンダラーで折れた部分補強してるから大丈夫だよ」
 ほらほらと折れた腕を大車輪してみたら、フェイトに腕を押さえられ固定された。不機嫌さは増加の一途を辿ってるようだ。
「もう信じられない。動かしちゃ駄目」
 スウィンダラーで無理な矯正をすると、動かすようにはできるが、無事な筋肉まで痛めて怪我そのものは悪化する。
 美羽にも絶対してはだめだと言われ続けていて、言われ続けるって事はやめてないわけで、フェイトの予想は正解だ。
「へいへい。治療はヴィータが優先だから。いいね」
「わかったよ」
 治療と補助全般の要因でお呼ばれされたユーノは、状況を鑑みて見て素直にヴィータに治療魔法をかける。
 総合的に疲弊しているのはヴィータだし、俺の腕は半端に治療したとしても矯正を続ける限り意味がない。
 フェイトも納得いかないのは間違いないが、見るからに消耗しているヴィータも心配なようで、追及はしなかった。
 さしもの輪廻さんも、短時間の解析だけでは一時的に結界を中和して、何人かこちらに転送するだけで精一杯だったらしい。
 もしかしたら球太郎持ってくるせいで余計な消耗をしただけかもしれないが。
 それで寄越したのは、なのは、フェイト、はやて、ユーノ、鏡。
 ラスト一匹を除けばバランス重視で、どんな状況でも柔軟に対応できるようにだろう。
 あ、まだ踊ってるよ球体。
 そしてダイセイオーはまったくもって動きがなくなった。チャンスと考えるべきだろうか。
「鏡、そいつの背中にドッキングしている鳥は再生能力を有している」
「わかったわ。なら最後はぶっとい子で確実に昇天させてあげる」
 球太郎の下部から、巨大な砲台がつきだしてくる。
 あれこそはさまる先生を羞恥のドン底に突き落とした、ファイナルウェポン。
 純粋な破壊力だとスターライトブレイカーにも届く逸品だ。
 場所と形状が某中華ロボットのキャノン砲っぽいという現実からは、目を伏せるぜ。
「バイバイ。あんた、つまらない男だったわ」
 砲身に魔力が集中、圧縮されていく。
 鏡の物足りなそうな、見下げた言葉はきっと心からのものだろう。
 新しい玩具はお気に召さなかったようだ。
 見かけ倒しの弄りがいもないなら、さっさと消えてしまえ。そういう幼い心情。
 しかし発射まで後数秒でそれは起こった。
≪Reactivation≫
 男の『機械音声』がそう告げると、周りに砂塵と瓦礫をばら蒔き、鉄の巨人は舞い上がる。
 あいつのしぶとさは悪役側だよな。不特定多数のアニメなどで毎回やられては逃げるキャラのように蘇ってくれてまぁ。
「まだ動けるんか?」
 鏡の救援拒否で観戦していたはやてが、驚きを隠せず、口走る。
 表情から察して、なのはやフェイト、そして俺も心境はそう変わらない。
 あいつの性格から考えるとこういう奇襲は想定外だ。チャージしている最中に命乞いもなかったので、気絶でもしているのかと思っていたが。
「気絶……まさか」
 自分の発言で、背筋に軽く悪寒が走る。
 もし本郷が気絶しているならば、あれは誰が動かしているんだ。
≪Recovery≫
 球太郎の周りを飛び回りながら、ダイセイオーは回復を開始した。
 身体がまるごと橙色の光に包まれ、傷が癒えていく。
 スーパーロボットのボスキャラってしつこい回復しやがるよね。ゲームだけど。
「何よ、やればできるこなんじゃない」
 見学者がまさかの事態に驚愕きをあらわにしているのに、鏡だけがまだ遊べると喜び勇んで発砲を再開。
 だが、縦横無尽に飛び回るダイセイオーに半分も当てられない。