「いい加減に墜ちろ!」
「命令するなよ。実行できるのはお前自身だけだ」
 ヒーローが人に頼んじゃ格好がつかないよな?
 やっぱり勝利は自分で掴みとらないと。
「そんなこと貴様に言われずともわかっている!」
「それとも正義の鉄槌は振り下ろせても、ワニ叩きゲームは苦手かい?」
 余談だが、俺はその昔初めて行ったゲーセンであのゲームをやり、円に負けた。それが悔しくて今ではアベレージ九十八を取得している。円は九十九だけど。
「揚げ足しかとれない男め」
「性分という奴だよ」
 たまに平穏を求めているとは思えないくらい尖った奴だと指摘されることがある。
 だって、押しが弱いと修一と鏡になめられるのだもん。
 あの組織で人間が弱いってのは悪い結果しかもたらさないし、三人でのガチ戦闘は輪廻さんより御法度とされている。
 よって喧嘩はゲームか生身の格闘が主体になるのだけど、身体能力や反射神経など基本性能で劣る俺は、口先三寸で戦うしかない。 見かけ以上に危うい均衡を保っているのだよ、俺達3人は。
「これならよけきれまい。セイテイダブルキャノン!」
 ダイセイキャノンと同じく両肩パーツが展開。縦に重ねられた砲台が露になる。
 合計4砲で俺を狙い撃つか。
 でもただ増えただけじゃ面白みないぞ、ロボ。
「続けて、セイテイガトリング! セイテイアイビーム!」
 ダイセイオーの手首が外れてガトリング砲が、目に魔力が集まり発光を開始。
 八門ですかい。面白みは出てきたけど、当事者になるならやっぱりいらないや。
 しかし、本郷がどれだけ躍起になってきているかよくわかる。
 余談出すなんて予断はもう許されそうもない。
 漢字の書き換え連発は、言葉遊びとしては減点だろうか。
 でもこれは俺の原点でもあるし、余談ネタがまず余談だ。
 当たり前だがこれも減点対象で以下略。
「同時発射だ!」
 キャノン砲は、光球からダイセイビームのような一筋の収束型に変わっている。
 目からビームも、いくらか細いだけでセイテイブラスターと似たようなものなので、砲撃兵器だけで6つだ。
 そこに一発は小さくても数はやたらと多い射撃魔法が加わる。
「こいつは酷い弾幕だな」
≪各軌道予測情報送信≫
 スウィンダラーが常時俺へとタマの着弾位置の情報を送り続ける。
 ハハ、予測がどれだけ意味を持つのやら。
「ふははははは! 蚊トンボが、墜ちてしまえ」
 おいおい、言い訳不能な悪役台詞吐きやがったよ。
 また安っぽいのが妙に似合うし。
「さて、ペテン師らしく魅せてやりますか」
 敵がLサイズだと俺は囮になる宿命なのかと嘆息したが、いつぞやの球体ロボとは相違点が三つある。
 一つは手数。
 奴の数十の砲門から放たれる弾幕に比べれるなら、こいつはイージーだ。
 一つは場所。
 地面に這うと空中じゃ選択の幅が広いのは言うまでもない。
 一つは距離。
 奴を相手したのは相当近距離。回避なんて選択肢がそもそもなかった。
 総括すると、だ。
「何故当たらないんだぁ!」
「さぁ、そいつを考えるもお前の役目だろ」
 弾丸が空を切る音が聞こえた。ちょうど耳元を通過したのだ。
 濃密度の魔力砲を相手に、掠る寸前を繰り返しているせいか、バリアジャケットが傷んできているのでバレないうちに修復。
 また腋を弾丸が、股下を砲撃が通過した。
 俺を素通りした連中は八つ当たりのように動かない連中を叩き、猛火を生み出す。
 収束発射は意外と精度はあるが、軌道がわかりやすく、一発撃つと次まで僅かだがチャージタイムがある。
 ガトリングは下手な鉄砲も数撃ちゃ形式だ。
 こっちは的中率が某占い師並で、隙間も抜けることが可能。
 プログラム会社のやる気のないテスト並にザルだな。生々しくてごめんなさいね。
『拓馬、もういい逃げろ!』
『うるさいなぁ、気が散るから黙ってなさい。後で千歳飴買ったげるから』
 さっきから当たりそうになる度に、ウィータが念話で声を荒げる。
 もうちょっと現実的で長期的に表現すると、ずっと当たりそうなので、警告しっぱなしだ。
 俺が弱音の一つでも吐こうものなら、即助けに飛び込んでくるんじゃなかろうか。
 しかしここでそんなデレはいらない。
 だって俺が膝を抱いて丸まり、周りを幾つもの魔法が通過しようと、俺に危害は加えられていないのだから。
「何故だ。何故! 何故!?」
「アンサーが出せたら教えろよ。優しい詐欺師が採点してやるからさ」
 抱えた腕をほどいて潜るように高度を下げると頭の上数センチを光が通過した。
 当たらない!
 これだけの連射にも関わらず、ただの一発も。
 当たらないはずがないだろ!
 あいつが撃っているんじゃない、俺が、俺自身が狙っているんだぞ!
 何故なんだぁ!
 きっと本郷の思考回路はこんな感じだろう。
 操縦席に座っている本郷が透けて見える。実際に見えるわけがないが、そんな感覚を掴んでいる。
「ばん」
 手でピストルの形を作り撃つ真似をする。
 本当に攻撃をするつもりなどないが、阿呆なことを書いた芸能人のブログクラスに炎上している脳髄に、油をぶっかけてやる程度には効果的だ。
 そのポーズのまま首をかしげてやると、弾丸が過ぎ去った。
 本郷は気付かない。
 本郷じゃ気付けない。
 お前は狙っているんじゃない。
 狙わされているんだ。
 ゲーム音痴がシューティングで熟練者に弄ばれているのと変わらない。
 ちょっと動きを止めてやれば、そこに弾を集中させる。
 逃げられた後に、どう追い詰めるかも計算されていない。
 どうすれば弾の軌道を決めさせられるか、いかに無駄撃ちをしてあたかも嵐をくぐり抜けているように思わせられるか。
 当たりそうで、当たらない。
 プライドだけが肥大した男は、混乱と怒りで思考を赤く染めていく。
 反らした胸の上を、一回転して上半身起こす直前の背中に、魔力砲は通過。
 壊せそうなものも残っていないので、何処かへ消えていった。
 それで、道化のように踊る男と、道化になって引き金を引き続けた男の演奏会は終幕する。
 あらあら、コントローラーのボタンが反応しないと、お嘆きですか?
 もうちぃっと頑張ってくれると思ったのだけど、ヘタレのさじ加減を小さじ一杯ほど見積もりきれてなかったらしい。
 俺の想像を上回るヘタレとは。誇っていいのではないだろうか。誇れるお話ではないのは羞恥の事実だけど。
 今度こそ、まいうーなこと言えたのではなかろうか。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 操縦席から一歩も動いてない、局地的引きこもり男の荒い息遣いが聞こえてきた。
 ストレスで過呼吸にでもなったか。精神的圧迫感とは恐ろしい。
「なんだなんだ、もう諦めてしまうのか?」
 諦めたらそこで試合終了ですよ。
 諦めなくても君の迷い込んだ迷宮は出口無しの袋小路オンリーの粗悪品だがな。
「ちょろちょろちょろちょろ……」
「中ぱっぱ?」
 赤子が泣いても、臭いものには蓋をしなければならないのだ。
 だけどあのサイズの粗大ゴミじゃ、その後で引き取り手が見つかりそうにないな。
 最終奥義、不法投棄すら困難とはつくづく手におえない。
「当たらなければそれでいいと思っているのか!」
「少なくとも当たらなければ負けもないだろ」
 見当違いも甚だしい。こっちは当たれば死ぬんだ。
 ライフが残り一ドットしかないのにロックマンのボスステージをプレイしているわけだよ。
 もしくはスペランカー先生だ。高く飛びすぎると死ぬんだぞ。原因は出血多量だけど。
 相違点は、リセットがついてないからやり直せないこったね。
「だが無駄な足掻き。このグレートダイセイオーは大気中にある魔力を常に吸収し続けているのだ! 貴様にもわかるよう説明してやるなら」
「自分で使った魔力を自分で回収して半永久的に戦える」
 どこに説明が必要なんだよ。未だ敵の力量を見極めれていないのか、だったら勉強竜にでも追われろ。
「それくらいは貴様でも理解できるみたいだな」
「知ってるよ。ずっと魔力の流れは観測してたからな」
 簡易的な探知能力くらいスウィンダラーにも搭載されている。俺のやり方だと、状況把握は必要不可欠なスキルだから。
 ダイセイオーの魔力炉理論は、なのはのスターライトブレイカーと同じだが規模と性能が段違いだ。
 人と機械の差も多大な影響を与えているだろうが、他の異常なハイスペックも含めてグレートダイセイオーを解析出来れば、ミッドチルダの魔法科学はどれだけ発展するのだろうか?
 で、それはそれとして。
「それに加えて堅牢なる装甲も併せ持っているのだ。貴様に撃墜できるわけがない」
「赤点だな」
「なんだとう!?」
 俺がダイセイオーを倒せるだけの武装を所持していない以外は全部ハズレだもの。