ダイセイオーは、非殺傷であっても自分のフレームを歪める魔力の奔流に揺らいだが、それまで。
 もしこれで反撃を止めるぐらいにダメージを与えられていたら、追撃をかけようとしていたはやてが畳み掛けていたろう。
 フェイトが続き、あるいは隙間無く攻め続け倒せていたかもしれない。
 しかし戦いというのは不条理なものだ。回避できないとみたダイセイオーは攻撃を受けきり、代わりにチャージしていた。なのはの魔力を取り込み加速までして。
≪Seitei Nova≫
 ライオンが吼えて、ダイセイオーが全身を蒼白に輝かせる。
 ただでさえ己の姿に違わない人外そのものな魔力なのに、さらにこの戦場における最大魔力値を更新するエネルギーを放出した。
 もうあまりに激しい魔力光だけで、視界が消される。
「なのはぁぁぁ!」
「は、はやてえ!」
 右手で光から目を守りながら、ユーノが叫ぶ。
 ヴィータは力任せに何度も結界を叩く。しかし、勝手に出ないように細工されてある檻はそんなものでは傷一つ付かない。
「あいつらはまだ終わってない」
 余波から身を護るためシールドを張り、吹き飛ばされないよう踏ん張る。ユーノは俺の後ろに下がらせた。
 やがて魔力は外側へ吹き抜けるように飛び去り、膨大な魔力に包まれたはずであるなのは達をの安否を確認する。
 ぎりぎりだがフェイトがなのはとはやてを拾って、離れられる限界まで逃げて3人で広域防御魔法を張っていた。
 だが防ぎきれたわけじゃなく、相当疲労しながら地に伏している。
「うぅ……」
 フェイトが苦悶の唸りをあげながら立ち上がろうと踏ん張るが、精神より先に身体が限界を超えてしまい足が上がらない。
 生まれたての子馬のような心ともなさだ。
「まだや、まだ終わってへん」
「そう、だよ……ユーノ君の調査が終わるまで、頑張らなきゃ」
 本人達の闘志は見上げたものだが、フェイト同様肉体がついていけていない。せめて最低限は動けるようになるまでは休ませないと。
 幸いにもなのは達を退けたダイセイオーが、俺達を倒しにきた。多重の意味でもってここで時間を稼ぐしかない。
「ユーノ、後どれくらいだ?」
「もう少しなんだけど」
 けどそれよりも先に、ダイセイオーの銃口がこちらに向けられているわけだ。
 また肉体労働に勤しまないとならいな。
「ユーノ、フェレット化しろ」
「わ、わかった」
 美少年はペットに最適そうなちまい生き物に成り代わる。けど意識すると形が……アルパカさん?
 微妙に卑猥な形状に見えないこともない小動物を、懐に入れて走り出す。
 こいつを胸の中に入れるってつまり擬似的に、
「男にパ……いやなんでもない」
 紳士な俺は、最低なネタを心のおされ小箱に封印しておいた。ちょっぴりはみ出したけど。
≪Seitei Double Canon≫
 爆風が頬を撫で、バリアジャケットを炙る。
 お遊びに興じるなと警告通り越して実力行使だな。
 なのは達の戦闘から、ダイセイオーAIの攻撃パターンを割りだし、逃げ回る。
 それでも追い詰められるまでにはそう時間はかからなかった。
 予定調和には違いない。本郷以外なら物量的にこうなるさ。
 瓦礫に隠れようものなら、周りごと圧倒的な破壊で吹き飛ばされるだろう。だったら自分で自分を護るしかない。
 散乱されたマシンガンに耐えぬくため、全身を包むよう壁を精製。
 大方の予想通り弾丸は障壁をふすま紙のように軽く突破し、中身を射抜く。
 俺は身を屈めて、破壊されるのを前提に新たに盾を追加した。
 面積を減らしながら急所への被弾阻止と、胸のフェレット死守を最優先に覚悟を決める。
 肉に異物が侵入して抉る。
 肉に異物が侵入して抉る。
 肉に異物が侵入して抉る。
 肉に異物が侵入して抉る。
 肉に異物が侵入して抉る。
 繰り返される行為は同じでも穴が開く箇所はそれぞれ違う。
 脇腹はこの後の支障はない。足だってセーフティ。
 肩は……あまりよろしくないが、最悪ではない。
 ユーノを抱えられないのは困るが、作戦失敗ではない証明でもある。
 次は膝か? 少し予想からはずれて膝より下を抜いた。
 衝撃と激痛で足が後ろへ引き摺られて転倒する。
 前言撤回しないとな。背中を曝すのは非常によろしくないから。
「拓馬さん! すぐに防御魔法展開しますから!」
 服の隙間からユーノが顔を出す。
 綺麗な毛並みはスウィンダラーで止血しきれなかった血液でくすんでしまって、手触りも悪い。マスコット属性が剥がれかけてしまっているじゃないか。
「余計な真似はしなくていい。それより隠れて調査を続行しろ」
「調査なら完了したよ。拓馬さんの考えてた通りだった」
「そうか……」
 ほとんどが戦闘続行に支障をきたす傷を負い、鏡は撃墜。
 五体満足は非戦闘員であるユーノのみだ。
 だがしかし、これで十全。ダイセイオーを破滅させる準備が整った。
「だから、拓馬さん!」
 もう自分に枷は無いと、ユーノが急かす。
 けどな、護りを固める必要なんてもうありもしないんだ。
「どうして、ダイセイオーは未だに俺を仕留めないと思う?」
「何を言ってるのさ?」
 新たな弾丸が肉を撃ち抜いた。低く唸りながら血を固定化させるが、タイムラグから二の腕の血液が少々流出する。
 そこで、ダイセイオーの攻撃が止んだ。
「ほらな? しかし驚きだ。AIならマシンガンの着弾位置もある程度コントロールできるのか」
 そうでなければ、器用に腕や脚なんて末端をメインに破壊などできない。
 もしくは本郷がそこまでノーコンだったのか。証拠はないけど後者っぽいな。
「そんな、どうして!?」
 何がどうなっているのか、ユーノには理解できない。
 そりゃそうだろう。俺だってこの展開はあまり期待していなかった。
「俺が身動きできないなら、さっさと肩の砲台で消し炭に変えればいい。だがAIはしつこくマシンガンで俺の五体を破壊した」
「それってどういう……」
 どういう利があって、いたぶるだけですませたか。
 一見AIらしくない油断とも見れる不条理だが、ダイセイオーとの戦いを整理していけばそうでもない。それはあいつらの習性だ。
「どんなプログラムにもアルゴリズムがある。ダイセイオーのAIは忠実なんだよ、主にな」
「こ、これは一体どうしたのだ!?」
 ダイセイオーから人間のボイスが出力された。
 そうだ、そろそろ起こさないとな。お前の大事な主様を。
「このタイミングでパイロットが起きるなんて、ちょっとできすぎてないかな?」
 ユーノも少しわかってきたようだ。ダイセイオーの持つ特性。そしてそれはおのずと弱点にも繋がってくる。
「起こしたんだろうさ。俺を倒させるために」
 本郷の目的は打倒トルバドゥール。
 AIはそのために本郷をバックアップしている。故に自分達が仕留めてはいけない。仕留められない。
 あいつらに出来るのはお膳立てだ。誰でも勝てる状況を作り出してバトンを渡す。
 単機で戦わず、あえて合体したのもこれが理由。
 そしてここからわかる事実が、もう一つある。
「ダイセイオーにはまだ私の知らない力が隠されているのか……。だが戦いは俺の勝利だ」
「ざっけんな! まだあたし達は負けてねぇ!」
 ケージの中にいるヴィータが反発する。
 だが本郷は余裕を崩さない。そりゃ、誰がどうみても不利なのはこっち。負け犬の遠吠えと一笑に付しても不思議はない。
「少女達よ。直ちに悪の根源を絶ち、救いだしてあげるから、もう少しだ」
「私達はまだ戦えるよ。だから、諦めない」
 不安定ながらもなのはが立ち直り、デバイスを構える。
 フェイトとはやても、なのはに続いて戦闘体勢をとった。
 風穴開けられた意味が表面に浮き出てくる。あまり時間はとってやれなかったが、あの子達の気力は驚嘆に値するな。
「まだ勝てる気なのか。悪足掻きはもうやめたまえ」
『それじゃあ、デカブツを倒すための作戦を発表するといたしますか』
 念話で全体に、これからとるべき行動を指示する。
 それと作戦タイムのちょい時間を稼ぐために、もう一つ話を展開しなくてはならない。
 こちらの話題は本郷に興味を持たせられればなんでもいい。
「本郷、お前こそこれで勝ったと言えるのか?」
「また貴様か。いい加減その減らず口には飽き飽きだ! どこをどう見ても俺の勝利だろうが」
 俺の作戦説明冒頭から、なのはがしこたま念話で驚きを示す。
 俺が悪いんじゃないもん。不条理なあいつが悪いんだもん。
 落ち着きを取り戻すのを待つ余裕はないので、さっさと説明して会議を進める。