「貴方だけには言われたくないです!」
 このままではさらに攻撃される。そう考えて血も拭わないで立ち上がると、偽物は変わらない笑いを張りつかせて私を見ています。
 待っててやったとでも言うつもりですか?
 ただ右手をまた人の腕の形状に変え、親指と人差し指だけを伸ばして私へと向けています。ピストルを形作ってるみたいです。まるで幼い子供。
「ばん」
 偽者は口で発砲音を出して、手首を軽く上に曲げます。
 ピストルを撃っているつもりなんでしょうか?
「何をやってい」
 ばん。
 偽物の動作から少しおいて、私の脇腹が爆ぜました。
「あがぁ!?」
 驚きと新たな痛みに、声もまともに出せません。
「ばん、ばん、ばん」
 ばん。右肩。
「いづう!」
 ばん。左手。
「はがぁ!」
 ばん。胴体と尻尾の境目。
「ひぎぃ!」
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
 痛みに耐え兼ねて、私はまたうずくまり転倒。
 でも、倒れたところへ容赦なく撃たれます。痛い!
 撃たれるのは嫌、もう痛いのは嫌!
「ばん」
「嫌嫌嫌いぎゃあ!」
 這って逃げるところを背中に発砲。
 痛いから逃げたいのに、痛いから逃げられない。
 かわすことも、守ることも、逃げることも許されません。
「もうヤだよぉ! 痛いの嫌ぁ!」
 あまりにもどうしようもない状況。
 涙が止まらない。
 痛いの、本当に痛いの!
「ひぐっ、うぇ、うああああああん!」
 ほんの少し前まで、私が偽物を壊していたのにぃ!
 どうして? おかしい、おかしいよこんなの!
「ククク……。そろそろおしまいにするか」
 偽者の口からおしまいと、そう聴こえました。
 許してくれるの?
 やっと痛いの終わりにしてくれるの?
「スカーレットバインド」
「っひぃ!?」
 身体中から蔦が生えてくる!
 また全身を蔦が蠢いて、絡めとられれます。
 私の意思を無視して、両腕を横に開いた姿で立たせられました。
「磔と言えばこの姿だろ」
 磔?
 イエス様が十字架でされたあの格好。
 普通この姿でされることって、処刑――殺人?
「許してくれるんじゃないのですか!?」
「何ほざいてるんだ? これは殺し合い。おしまいにするなら殺すに決まってるだろうが」
 死ぬの?
 殺されるの?
 誰?
 誰が?
 私。わたし、わたしだ。私が殺されるんだ。
 ワタシガコロサレル?
「嫌、嫌だ。許して殺さないで! 殺さないでください!」
「お前、さっき俺を殺してやるって言ったよな。人を殺すってことは、逆に殺されることも許容するってことだろ」
 そんなの知らない!
 そんなの聞いてない!
 私は死にたくないだけ!
「死にたくない! 私は死にたくない!」
 首を振り泣きわめき続けても、偽物はただ冷淡な瞳で私を見るだけ。
 そこに慈悲や憐れみの類の感情なんて見て取れません。
「うるさい」
「死にたくない。死にたくうがっ!」
「お前に許されるのは抵抗だけだ。口で喚くな」
 猿ぐつわを噛まされ、頭も縛られ固定されました。
 もう懇願することさえ許されないの?
 刻一刻と、私のおしまいが私の死が近付いています。
「スウィンダラー。血溜まりを全て魔力に変えろ」
 偽物の後ろ、私が倒れてた血溜まり。私がこの身を引き摺って出来た赤い道。家中の流れ出た血が蒸気になり沸き上がってきます
≪スカーレットブラスト≫
 それはどす黒くて赤い塊で、緋色の闇。
 偽者の血が突風になって私を殺しにきます。
「うぅーー! ううううぅ!」
 迫ってきます。緋色の闇がこっちに迫ってくる!
「大好きだよ御堂」
「う?」
 大好き?
 偽物が大好きって私に?
 呼び捨てで私を呼んでくれた。
 暁さん……?
 もしかして私を助けるために、帰ってきてくれたのですか?
 「最初から最後まで俺の思い通りに動いてくれてさ」
 嗚呼、私はなんて馬鹿なんでしょう。
 本当、何度騙されれば気が済むんでしょうか。
 この悪魔が、そんな優しさを見せるわけがないのはこまででわかっていたはずです。
 偽者なんて初めからいなくて、暁さんは私に嘘をついていただけなのに。
 気付いていた、心のどこかでわかっていたはずなのに……。
「うぐぅぅぅぅぅぅ!」
 赤い塊が私の視界を占めていきます。
 恐いよ、助けて暁さん。
 緋色の闇が私に触れ……熱熱熱熱熱熱熱! 熱いよ! 熱いの!
 痛いよ。痛痛痛痛痛痛痛痛痛! 見えないけど、緋色が触れた部分が焼けて痛い!
 嫌です、死ぬのは嫌!
 嫌嫌嫌生きたい。もう誰にも愛されなくていい。
 私はただ生きたい!
 熱熱熱熱身体が緋色に包まれていく痛痛痛嫌嫌嫌熱熱熱熱熱全部が緋色に染まって痛痛痛痛痛痛熱痛嫌熱痛嫌熱痛嫌助けて熱熱熱痛暁さん痛痛嫌熱熱助けて熱熱恐嫌熱許して生きたい熱熱嫌嫌熱熱痛死にたくない痛痛痛嫌嫌痛痛死にたく熱熱熱死痛死嫌死熱死死死死死死死死死死――――――